せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

幻肢痛(ファントムペイン) -間奏曲

2009-03-31 19:12:23 | 小説
もしもサンドリヨンが居たとして、彼女が幸福になる事はできない。
この世には彼女を幸福にするはずの善良なる魔法使いも、魔法の樹木も、特別な白鳩やネズミは存在しないのだ。国を治めるのは王ではなく女王。舞踏会の主役となっていた壁の華の姫君に継母などおらず、ましてや父親の行方など知れたものか。硝子の靴など履こうものならば足は血だらけに、ましてやヒールを履かない貧しい者が、走る事などできようはずもない。

何よりサンドリヨンは、鐘が鳴る前にこうして堕ちたではないか。

闇を纏った"魔法使い"は口元を吊り上げ、手の中で眠る少女を嗤う。白いうなじから伸びる銀の刃は確実に彼女の生命線を破り、少女の命を奪っていた。
仮にサンドリヨンが存在したとしても、現れる魔法使いが善良である確証などこの世にはないのだ。現にこうして、無垢なサンドリヨンは殺されてしまったではないか。

「サンドリヨンとは愚かな名をつけたものだな…エトワール・レネック」

首から申し訳程度に垂れるロザリオの裏に刻まれていた名前は、おそらく彼女のもの。魔を払うはずのそれは主人の血を浴び、切れて絨毯の上に転がった。
数分前まで清楚なドレスで舞っていた彼女は今、シーズンに似合った真紅のドレスに溺れている。まだ幼い肌に散った紅い化粧がその青白さを際立たせ、最早この場にサンドリヨンは居ない事を物語っていた。

「子守唄の姫君を知らぬ、自身の無知を呪うといい」

金の髪にエメラルドの瞳。魔法使いは"少女であったもの"の色を失った瞳を伏せ、醜い人形に成り果てた灰かぶり姫を手放した。残されたサンドリヨンの髪が、這ってきては魔法使いの足を絡めとろうとしているかのように、散らばる。

「…Good dream , CANDRILLON.」

その少女こそ、この世でのサンドリヨンだったのかもしれない。

―――
(幻肢痛)
間奏曲、サンドリヨン。

サンドリヨンは「シンデレラ」のフランス語名です。
エリクはたまーに異国をふらふらするのが大好きで、
挙句相手が理解できない言葉を平気で使う人間なので、
シンデレラではなく一ひねり入れて"サンドリヨン"に。
色々な作品の影響を受けててボロボロですw