せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

愛情、激情、劣情

2009-03-14 10:09:31 | テイルズ
酷く乾く喉は水なんて"モノ"じゃ潤す事などできなくて、右腕は殺せと囁く。俺と同じ深淵の色をした髪に、海みたいな色の両目。憎い、憎い、憎い。俺とは違って"女のカタチ"をしたアイツは脆くて、右手を食い込ませればすぐにマナを吹き出して死ぬのだろう。俺とアイツは似ているのにどうしてアイツばかりが、ディセンダーばかりが幸せになる。生まれ死んで逝くだけの俺に気付かずに居るなんて、

「…許さない…」

"守る為""ぶつかる為"だと俺に刃を向けたディセンダーの顔が歪む。憎しみでも怒りでもないその表情は俺に理解できるものではなくて、一層胸に広がるもやを濃くしただけだった。負の想念ではない何か。ずっと胸に残っていて、イタイ。ディセンダーを思い浮かべると、人間の心臓にあたる部分が痛むのだから、これはきっとアイツの呪いだ。ゆるさない、もう一度呟いた。

「ゲーデ…」
「俺はおまえを、許さない」

俺の存在に気付かず、己の世界の中に溢れる俺を厄介者扱いした。最初から最後までを、世界樹の檻の中で終わらせようとした。生まれた瞬間から消える事がわかっていて、じわじわと身体が消えていくその感触には気が狂う。絶望して、嘆いて、そのうちそれは憎しみに変わった。俺の苦しみに気付かないで、自分はぬるま湯につかって、幸せだったなんて認めない。ディセンダーの世界には、俺がいないのだ。―そんな事、許さない。

「…ゆるさなくて、いいから…」

青ざめた口から、細い声が絞り出された。首を絞められているかのような声に自然と口がつりあがる。ざまあみろ、もっと苦しめばいい。ディセンダーの手から右腕を奪ったその大きな刀が滑り落ちて、重い音を立てた。こっちへ一歩近づいてくるたびに髪、肩、腕、身体、防具が外されていって、それが癇に障る。動けないのは解っている、けれど、気の緩んだアイツを見ていると何故か強烈に劣情が湧き上がるから、嫌だった。
ディセンダーの手は変な光を発する。アイツが手を上げた瞬間殺されるのだと思った。また世界樹の檻に閉じ込めて、終わるだけの生を得るのだ、と。

「もっと、わたしを憎んで、いいんだよ…」

気付けばディセンダーは床に伏した俺に覆い被さっていて、負みたいな色をした髪が顔に落ちる。歪んだ顔、けど怒りでも憎しみでもない。歪めた眉が力なく垂れ下がって、震える手が俺の頬に触れる。怖がってはいない、と、マナを通して感じる。ならば何故こんなにもこいつは、恐ろしげで、何か、壊れてしまいそうな空気を纏っているのだろうか。青い目から雫がたれて、俺の顔まで濡らした。だから、とディセンダーは声を繋げる。

「だからね、グラニデを…世界を、憎まないであげて…?」

細い腕で俺の首の後ろを締めて、からだが触れる。そのせいでどうしようもなく、何か、暗い奥底から湧き上がる激情。壊してしまいたい。憎い、こいつを、壊して、しまいたい。醜い爪で喉を引き裂いてマナを喰い尽して、世界樹の折の中に引きずり込んでやりたい。切り取られた見えざる腕でディセンダーの背中を覆って、それから、―それから?

「…いやだ」
「そんな、」
「いやだ、いやだいやだいやだ!」

耳を塞ぐ。ぞっとした。全身から負の力が抜けきったかと思ったくらい、ぞっとした。とてつもなく深い闇が背中を這い回って、衝動に任せて身を起こす。バランスを崩して床に叩きつけられたディセンダーへ、今度は俺が片腕をついて覆い被さる。この喉が、赤いマナを吹き出して、こいつが消える。自分で望んだ事だというのに恐ろしくてたまらない。見えざる腕が囁く、【殺せ】と。その声さえ今は、恐ろしい。

「いやだ、いやだ…!お前は、今度"力"を使ったら、消える、"しぬ"、」
「…そう、だね」

やっぱり、傷付いたような、顔。―傷付く?そうだ、こいつは"傷付いて"いたんだ。さっきのような壊れそうで、脆くて恐ろしそうな感情の名前を、俺は知らないから。世界は教えてはくれなかった。こいつが知っている事の半分だって、俺は世界に知ることすら許されず、与えられもしなかった。憎い、憎い、憎い。こいつばかりが幸せになる世界なんて、俺の居場所の無い世界を赦すなんて、そんな事はできない。

「…許、さ、ない、」

ほとんど無意識の内にディセンダーの口に噛み付いていた。歯が皮膚に食い込んで赤いマナの味が口の中に広がる。濃くて苦い、たいして甘くも美味くもない、人のマナの味。けれどそこにあるのは紛れも無く"俺が求めていた何か"で、それがまた憎くて強く強く噛み付く。溢れるそれを飲み込んで、それでも身体は飢え乾く。どうすればこの渇きが、癒えるのか。

「や、痛…っ!」

か細い声。ぞっと、する。さっきのように畏怖のものではなくて、駆け巡るような衝動で、背筋が震えた。漸く離した時ディセンダーの口はさっきよりも青くて、白い。消えそうで思わず手を伸ばすと、ディセンダーの身体が少しだけ震えた。

「…ディセンダー、」

もう一度、口をつける。今度は噛まないで、触れるだけで。

「もっと、欲しい。…もっと欲しい、マナが、…ちがう、怖い…!助けて、ディセンダー、たすけて、…"あいしてくれよ"…っ!」

零れた音の意味なんて、知らない。世界樹は俺に何も教えてくれなくて、何もかも持ったこいつが妬ましくて、腹立たしくて、憎かった。羨ましくて、危なっかしくて、苛立たしかった。ディセンダーが何かを言い切る前に何度も口を塞いで、息が苦しくなって離すと、なにかが、繋がっていた。舐め取って、抱き締める。見えざる腕は、もうなかった。


―――
(愛情、激情、劣情)


劣情=何かそういったいやんな気持ち
ここでは劣情=破壊衝動(彼なりの愛)、もしくは劣等感
というかんじで使ってます。造語なのはいつもの事ですw

めもめも

2009-03-14 03:32:55 | ネタ張
+急ぎ足で光の方へ(イラスト)
+生まれ逝く死と死んで行く生
+見えざる腕/飢え乾く右手
+純情、愛情、哀情
+愛情、劣情、激情

+レミエル(死を司る神)・ルシファー(堕天使)