せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

神の垢し物(おとしもの)

2009-11-29 10:58:03 | ネタ張
朝焼けの静かな朝に、それは突然訪れた。
空を貫く轟音に木々を裂く風の音。一呼吸置いてから、それに酷い硝煙の臭いと銃声が応えた。爆風で吹き飛んだ窓辺から顔を乗り出すと、森の奥の方に僅か白いカーテンのような裾が翻っている。

「…!…!……ッ!!」

悲鳴にも似た叫び声に耐えかねて、思わず窓を乗り越え駆け出す。蔓延った木の根を飛び越え、硝煙の臭いを掻き分けて走る。彼女の声は聞いているだけで胸を引き裂かれ物理的に死んでしまいそうになるような、悲痛で凄まじい否定の音だった。
彼女の言葉は、本当なら人間に届かない。普段は彼女が周りに合わせているだけで、根本が違う為か彼女の言葉はたまに耳を素通りしていく。だから彼女は他者が真似をできない強力な術―例えそれが魔法であろうとなかろうと―を使えるのだし、フォレッタが自ら亡き後彼女こそを魔女にしようと目論んでいたのもそのせいだ。理解されないからこそ孤高であり強力であり、理解されないからこそ脆弱で儚い。荒い息遣いが、細い肩を揺らしていた。

「…っいよ、人間なんか……大っ嫌い、消えてしまえ、!」
「エテ!」

エテの背に付き添う小さく柔らかな羽が、伸ばした手を叩き落した。予想外の出来事に硬直していると、エテが振り向いて笑った。こちらへ鋭く差された指先から一閃、頬へ悶えるような熱い痛みが走る。

「何があったの」
「なにもないわ」

重く圧し掛かる憎悪の目線は、簡単にこの肩を押さえつけ体を潰してしまう気がした。だというのに声色はどこまでも穏やかで、血色のいい唇は綺麗な弧を描く。再度伸ばされた指先で首を掻き切られてしまうのかとつい目を伏せると、エテの雰囲気がひどく不機嫌になったのだけを感じた。
エテの荒々しい息遣いが言葉を発するために止まった瞬間、銃声のような乾いた音が響き渡り、驚きに目を開ける。黒い塊がエテの横脇から襲い掛かり、頬を打ち不意を狙って地面に押さえつけていた。

「ヘンゼルに当たるな、エテ!!」
「うるさい、うるさいッユーリィのくせに!何も知らないくせに!馬鹿!ユーリィのばかあ!!」

パーカーを深く被ったおかげで、ほの明るくなった陽光の下でもユーリィは辛うじて人間の姿を保っていた。泣き叫ぶエテを傷つけないよう、既に変容してきている爪を必死に服へ収め叫ぶ。エテが細工したというパーカーの紐から、まんまるいポンポンが垂れて揺れていた。
はじめはじたばたと抵抗していたエテもしばらくすると大人しくなり、静寂に沈む森には少女の啜り泣きだけが響くようになった。弱々しい泣き声。本来なら慌てふためいているだろうユーリィもこの時ばかりは冷静で、指先でエテの前髪を掻き分けて軽く頭を撫でるだけにしている。

「らしくない罵倒なんかすんな、どうした」
「人間がみんなのことを悪く言った。松明を持っていたから消し飛ばしただけよ、死んでもいいのよ、あんな人間死んでもいいのよ、当然の報いだわ…」

焦点の合わない目が、ユーリィの漆黒の目を捕らえているような気がした。こういうとき、結局よそ者には何もできないのだという事を、思い知らされる。我を無くしたように呟くエテの言葉から事件の片鱗を嗅ぎ取ったらしいユーリィは、ひどく顔を顰めてからエテの上を退いた。力なくしな垂れ地面に投げ出された四肢が、今にも冷たくなってしまいそうな気すら起こさせる。
すすり泣く音は、まだ、止まらない。そっと近付いてしゃがみ込むと、細い両腕に首を捕らえられ抱き締められた。

「…ヘンゼル、ごめんね」
「いいよ」
「ごめんなさい…」

耳元に、震えた声が響いた。赤子にするように抱き上げて背を叩くとそのうち嗚咽は消えて、擦り付けられた涙で冷たくなった肩口は彼女の体温で生暖かい温度になりつつある。

「エテ。"みんな"の中にヘンゼルは居るのか?」

突然、こちらをぼうっと眺めていたユーリィが、エテの土に汚れた背を刺すように睨みながら真剣な口調で言った。エテはびくりと肩を揺らすと、恐怖に引きつったような顔でユーリィを振り返る。青ざめた頬に、また一筋新しい涙が伝った。
みんな、とは誰のことだろうか。みんな。エテはよく"みんな"が好きだと花が綻ぶように笑ってみせる、その中に、自分が?考えたこともない事を、ユーリィは突如として言い出す。エテが震える唇を開いた。

「…うそよ。居るわ」
「ならいいけどな。…ヘンゼルも、自分が"誰なのか"をよく考えて行動しろよ。俺たちが"誰"なのかも忘れちゃいけない」

そう言って立ち上がったはずのユーリィは徐々に縮んでいき、大きな黒い犬になると屋敷の方へかけていった。後姿を尻目に眺めていると、逆立っていたエテの羽がすこしだけなめらかになるのを感じる。
胸元を握るエテの手が微かに震えていたことに気付かないふりをして華奢な肩を抱きすくめると、彼女はまた人には理解できない言葉で何かを言って、それからすこし、憎んだような顔をした。

―――
(神の垢し物)

エテは言ってしまえば"いらない子"なのです。
"作者"(私に非ず)にとってもこの世界にとっても。
だから、神様の落し物=天使。垢=いらないもの。
このへんからヘンゼルとエテが辿るのは茨道です。

エテの人間嫌いはそもそも物心ついた頃からずっと。
それも全てイヴェールや"みんな"を守りたいがため、
そして"作者"の負の感情を吐き出すためだけの存在。
肥溜めのようなゴミ箱のような、可愛い顔した悪魔。

彼女にとって"人間"とは、"作者"にとっての嘘つき。
"作者"は嘘つきが大嫌いな人です。はてさて誰なのか。

でくとちび。

2009-11-13 22:04:40 | ネタ張
っていうの書きたい。

おっきくて肝の小さい男の子と、
ちっちゃくて態度でかい女の子。

和むくね?晩年一番後ろ&一番前とか。
そういう俺が晩年一番前だけど(爆笑)
まじであれ辛いwwwまじ鬱wwww


でね。
陽だまりで揺れるたんぽぽみたいな恋が書きたい。

さっきまでは、指先を零れ落ちていく記憶を書き留めるのに必死だったけれど、そうじゃないことに気付いた。
書き留めても記憶は元に戻らないし、わたしの大好きな人がまたこの場所に戻ってきてくれるわけじゃない。
そんなことをしても辛いのは自分で、自分を苦しめるだけの拷問のようなものでしかないんだって、やっと気付けた。

だからわたしはたんぽぽを書きたい。
陽だまりで枯れそうな花よりも、これから沢山の種をつけるたんぽぽを書きたい。

綺麗な花束は枯れてしまうけど、地に咲くたんぽぽはずっとそこにあるから。
わたしが幸せな物語を書きたい。わたしが笑っていられる物語を書きたい。
そうしたらいつか、大好きな人に読んでもらいたい。
わたしは貴方が好きだったんだよって、今でも大好きなんだよって言いたい。
少しでも引き止めることができなかったわたしの代わりに、たんぽぽが貴方の目に留まればいいと思う。

いつか、いつか、あの電話番号が使えなくなってしまう前に。
わたしがたんぽぽを書き上げて、それを皆が読んでくれたなら。
最後に、貴方へ電話をしようと思う。

「久しぶり、綺麗なたんぽぽが咲いたの。見てほしいな」



…あー忘れたと思ったのに泣きそう。
この綺麗な記憶は消えるまでわたしのものだ。誰にもやらん。

「忘れない傷跡」は、趣味が九割の話なんだけど、本当は大好きな人から貰ったものなら、何だって大事なものなんだって言いたかった。
例えもう会えなくなって、甘い恋心が傷跡に変わっても、それすらきっと甘くて少し痛くて、針のような飴玉なんだって言いたかった。

いつか新しい恋をして、笑ってその事を話せるようになったとしても、甘い傷跡は残ったままきっと忘れないし、忘れたいようなものじゃない。
苦しくて死んでしまいたくなることもあるけれど、紫陽花が枯れてしまうまでは、わたしは生きて、たんぽぽを書きたい。
あの人が二年前に助けてくれた命を無駄にしないで、目が霞んで指が動かなくなるまで、ずっとずっとたんぽぽを書いていたい。

その力もないし、漠然としているけれど、どうしても書きたくてたまらない。

焦がれるような恋をして、確かにあの人を愛していたことを伝えたい。
忘れてしまいそうになる弱いわたしに。忘れてしまう未来のわたしに。
恋をしている人と、恋をしていた人と、恋を知らない人と、恋をしたい人に。

あの人に恋をして舞い上がっていた、わたしに。
あの人のおかげで明るくなった、わたしに。
あの人が居ない間、寂しがっていたわたしに。

そして、泣き叫んで別れを嘆いていた、わたしに。

わたしだけのたんぽぽを書いて、それから本の表紙を閉じてしまいたい。
もう二度と悲しくならないように、本棚の奥の奥の方へしまいたい。
また別の人を愛して、結婚したりしたら、漸く開いて、また泣きたい。

今はそんな夢をみている。

gdgdと

2009-11-13 16:36:19 | Weblog
「小説は、作者の苦悩の分深みが増す」

わりと知られている言葉だと思います。
太宰とかがそれに当てはまるのかなーと。

私は、自分で言うのもなんですが壮絶な人生で。
でも人並み以上の不幸があるからこそ感じる、
人並み以上の例えようもない幸福を感じられる。
人とは違うことをやって生きなければならないから、
前例もないし、道もないし、師も居なくて大変な道。
でもそれは同時に私が前例で、道で、師だという事。
例えば後世に私の生き方が伝わるというのなら、
それがいつか私のような人に役立つというのなら、
確証はないけれど、私は頑張って生きようと思う。

私の人生に「次」はない。
リセットボタンもない。
代わりに、電源ボタンだけはある。
押してしまえば簡単に終わるのだけども、
私というゲームにセーブは効かなくて、
だから今の今まで押せずに操作している。

あーいや、…え?何が言いたかったんだっけ…←
とにかく今実体験を元に書こうとしている小説が
行き詰ってしまっててイラッときて言ってみた。
一目惚れのあの感じは、どうやって表せばいいんだろ。

だって一目惚れって気付いたら好きになることだ。
好きになるまでの期間が極端に短いだけであって、
それが1週間くらいになると「恋」になるだけ。で。

一目惚れだとか、そういった軽い言葉じゃなくて。
ただ好きになった、っていうんではだめなのかな?
何をってわけじゃない。気付いたら惹かれていた。
その無意識を言葉に表すのは、とてつもなく難しい。



どうでもいいけどとりま歯医者。gdgdさーせんw

ルンファク3許すまじ

2009-11-13 00:11:23 | Weblog
モニカと結婚できないのなら買わない(真顔)

なんでだよおおお!!意味わかんねんだよぉおおお!!
なんでモニカと結婚できないんだよぉおぉおおおおッ!!
ねえなんで?なんでモニカとしののめとエリザはだめなの?
なんでその三人異常に可愛らしいの?ねえ何でなの?
攻略wikiの欠点のところ「モニカと結婚できない」とか
書かれてんじゃねえかよぉおお!!バカなの死ぬの!!

あとなんで女主人公はないの…なんでなの…。
グルテンかガジと結婚してっええええ!!うわああああ!
アッー!!


…ご、ごめんなさいごめんなさいごめry

煮え切らない満月と小さい隕石

2009-11-12 23:57:51 | テイルズ
星同士が近付きすぎてしまうと、ある一定の力で引き合わない限りぶつかってしまうか、ないしは引き離され、おそらくもう二度と出会うことはないと言える。あたしたちは大きな星同士で、ぶつかったせいで一度は溶け合ったのだけど、雫が跳ね返るようにして結局あたしだけが半身を取られたまま、暗闇の無重力に放り出されてしまった。そんな感じ。
あんなに大きかった体は全部もう片方に取られてしまって、悔し紛れに相手の片鱗も捥ぎ取ってみたのだけど、それだけで満たされるわけがなかった。真っ暗闇の中どれだけ彷徨ったとして、もう一度会える確率なんて今一瞬だけ広げた手の平の上に、あの凛々の明星が落ちてくるぐらいの確率。この世の中に存在するどの確率よりも低い。何故ならと訊かれればそれは、だって、0だから、としか言いようがない。あの人は死んだ。

――なんて、煮え切らないエステルを押すために言ったのは、あたしが研究者で、小難しいことを並べ立ててもそれで済むから。とにかく煙に巻いてうんと言わせればそれでいい。

「リタは、強いですね。私は、…そんなの許されないです」
「敵国の王子様ってわけでもないんだし、会いに行けばいいじゃない」

意地悪く吐き捨てたくなるのをぐっと堪えて、慰めるような口ぶりで言う。本当に嘘つきだと思う、内心本当はぐずぐずしている姿を見るとどうにもたまらなくなって、悪魔のように"そのうち二度と会えなくなっても知らない"と言ってしまいたくなるくせに、エステルの前ではいい子で居たくてたまらないあたしが邪魔をする。
でもそれでいいのだ。別に、エステルを泣かせたいわけじゃない。どんなにこの子を追い詰めたところで、もうどうにもならないのだ。

「あたしはもうできない。あんたが羨ましいわ」
「…私の好きな人は、私を私としてすら、見てくれないです。あの人の不幸せなんて望んでませんけど、でも、……」

―――
一回書くのやめた話はもう書いちゃだめだって話(爆)

忘れない傷跡の時ぼそっと言った「エステルとリタの云々」。
ぱっと書いてみようと思いたったのはよかったけども、
おっさんの存在きもくていやだ。もう書きたくない\(^O^)/

美しい"今"の話

2009-11-11 22:34:30 | テイルズ
美しい一瞬の先には、"永遠"も"未来"も存在しない。
だから先人は今に生きよと謳うし、おそらく一番幸福な生き方として正しいのは今よりも幸福であろうと向上していくことなのだろう。人が先に進めなくなり歩みを止めた時、その膠着による思考停止こそが全ての終わりである、とは、まあ憎んでも憎み足りないほどの偉い騎士の言った言葉だが。皮肉に顔を歪めざるをえないのは膠着の思考停止に自身を突き落としたのも、共感せざるをえない今を作ったのもその騎士だということだ。
感謝はできないが、時折許してしまいそうになる"今"だけは大嫌いだ。

「…別に"もう伸ばす必要なんてない"んでしょ?さっぱりして良かったじゃない」

声に現実へ引き戻されると、自分でも苦虫を噛み潰したような顔をしていることがわかった。そういえば髪を切ったと報告しに来ただけだというのに、どんな思考に落ちていたのだと苦笑する。
もう伸ばす必要がない、という言葉に軋んだガラクタの心臓に内心舌打ちをしていると、リタは決められた台本を読み上げるかのような仕草で「その顔、ばかっぽい」と吐き捨てた。この"今"は好きだ。けれどあいつらのことを思い出す"今"は、奥歯が軋むほど憎い。

「まだ違和感はあるけど、悪くないとは思ってるわよ。若返って見えるっしょ」
「調子に乗らないで、まだ親戚の叔父さんってとこよ。そんなに若返りたいんだったら、いっそ顔に詰め物でもしたら?」

やったげるわよ、と付け足して、胸ポケットに刺さっていたペンを注射器に見立てて差し出して来る。至極愉快そうな笑みを見て、背筋に嫌な汗が伝った。思わず一歩後じさる。
と、それが隙になる事を思い出してしまったと思った時にはもう遅く、ペンを持っていない方の手で胸倉を引っつかまれ前かがみで研究所内に連行される。バックステップすら踏めなかった反射神経の衰えを感じて、"ああ、平和呆けしている"と頭の隅で考えてみた。けれど嫌いじゃない、嫌いではない。痛み慣れして死んでいた時よりはずっとマシだ、俺が生きている事をこの子は定期的に調べてくれる。

「ちょ、ちょっとリタっち~定期健診のついでとか言って、おっさんの美しい顔に改造するつもりじゃ」

言いかけて思い切り引っ張られたせいで、舌を噛まないために黙らざるを得なくなった。心臓の前に俺が死んでどうする、大体そうなればリタは半狂乱になるだろう。この世で魔導器と言えばこの心臓に残る唯一だけなのだから、奪ってやるのは些か哀れというものだ。それに、どこかのトチ狂った馬鹿が魔導器を移植してしまわないとも限らないのだ。新たな被害者を出すくらいなら、自決した方がまだマシ、と言っても過言ではない。
黙って奥へ進んでいく彼女の背が、以前より随分伸びたのを見てふっと笑う。靴音だけが響く廊下に突如響いた笑い声へ一瞥をくれただけで、彼女は速度を緩めず進んでいく。そのうち胸倉を掴んでいた手がずらされ腕を引かれるようになってからは、腰痛の心配をすることだけはなくなった。しばらく続いた沈黙を、やがて破ったのは相手の声。

「改造はお望みならするけど、今日は忙しいから駄目」
「忙しくなかったらしてたかもしんないってこと…」

明らかに気疲れした声で肩を落すと、仕返しと言わんばかり彼女が鼻で笑い飛ばした。そうして柔らかく微笑んで、「嘘よ」と短く呟いてみせる。全く彼女には敵わない、どんどん強敵になっていると実感した。これは将来、きっと大物になるに違いない。
馬鹿な考えを遮るように、見慣れた扉が先を閉ざす。無機質な音を立ててリタが基盤を操作すると、無闇やたらと白く機械に埋め尽くされた部屋へと通される。何の疑問も持たずその中心に置かれた椅子へ腰掛けると、髪を切ったことで更に露になった額へ甘い平手が飛んだ。

「あたしは、おっさんの顔嫌いじゃないわよ。おっさん臭くて」
「およよ?リタっちもしかして、おっさん趣味~?」

検査結果へ一抹の不安を抱いたのを誤魔化しながら笑っていると、先ほどのペンが額を直撃した。蓋が閉まったままの為そこまで痛くはないが、リタがごりごりと押し付けてくるものだから、若干の抵抗も許して欲しいところだ。
やや不機嫌そうな視線から逃れるように顔を仰け反らせると、ペン攻撃はすぐに止んだ。

「それ以上言うと改造するわよ」

言って不敵に微笑むその顔があまりに悪戯っぽくて、たまらず黙り込んだ。末恐ろしい。
これ以上遊んでいても"忙しい"と言った彼女の時間を無駄に喰うだけだろうし、大人しく目を閉じて力を抜く。特に必要はないが、目の前でまざまざと自分の生態状況が展開され、そして検査されているという状況を目にするのは少々と言わずかなりの恐怖であり、俺自身にそんな大層な度胸はない。時折零される「あ」という言葉にすら竦み上がる思いだというのに、表情まで見てしまったら立ち直れなさそうな気がする。体の脈動を伝える音を聞きながらぼうっとしていると、不意に小さく細やかな手が髪を掬う感触がした。

「…にしても、唐突ね。どうして突然散髪なんてしたの?」

怪訝そうな声だった。薄目を開けて表情を確認すると操作盤は消えており、安心して視界を取り戻しながら何となし上へ目線をやり、言い訳を探す。わりと触れられたくないところへ、彼女は意図的なのか無意識なのか土足で踏み込んでくるきらいがある。そういう時、上手く答えられない自分は少しだけ彼女を恨んでみるのだ。
が、結局人生に光を当ててくれ、その上保障までしてくれる彼女を恨んだところでどうにもならない。最後には口にもしていないのに、脳内で謝るのがオチだが。

「ん~…青年の勇士に憧れて悶え休んでたら、おっさんも若返りたくなって」
「ばかっぽい…」

何度目になるかわからない言葉を残して、リタはその件に関して興味を失ったようだった。ありがたい、信じてもいない神様に礼を言って、軽くなった前髪を引っ張ってみる。伸ばしさえしなければもう誰もわかるまい。後頭部の重みもすっかり消え去り、憑き物が落ちたかのようだ。
本当は、勇士に憧れていたわけではない。大体今更ヒーローに憧れるような歳でもないし、髪を切ったのは少し若返りたかっただけだ。その方が過去と決別できるという安直な理由でもあるけれど、とにかく何やらポケットを漁っている目の前の幼い研究者の姿に溜息をかみ殺す。
リタは笑い飛ばしたけれど、世の中には嫌な意味で笑う人間が居るのを忘れてはいけない。今更、本当に今更特定の誰かの為に外見を気にするような歳でもないが、それでも聞いてしまったのだからたまらなくなって、切った。
"モルディオは、倍以上も歳の離れた恋人が居る。"
それは、おそらく、俺で間違いが無かった。この部屋は皇帝から魔導器の保存を理由として直々に与えられたものであり、世界的に魔導器は滅びたことになっている。その矛盾する事柄に勘ぐりを入れるのは人間の野次馬的性なのだろうが、言われる身としても言われている相手としても不愉快極まりない。これでは迷惑をかけるしか脳のない木偶の坊だ。だから、無意味だろうが安直だろうが、とにかく、短く切りそろえた。それだけ。特に後悔はないつもりだ。

「でも、勿体無いことした」
「髪の毛なら一応、リタっちが研究に使うかもしんないし、持って来たわよ?」

足元にある袋を指して言うが、虚を突かれたらしく不満げな顔が一気に驚きへと変わった。だが予想とは違ったらしく、やや間があり「いらないわよ…」と呆れた声を出される。相手を思ってのことだったため心外な台詞に、歳甲斐もなく唇を突き出してみた。少しだって気取られればまた言葉の槍が降ってくるだろうことが容易に想像できるためわからない程度ではあるが、そんな行動で少しは気が楽になる自分は、気を病んでいるのだろう。帰ったら酒を飲むことに決めた。
それに気付いていないのだろうが彼女も同じ仕草をすると、指先に一本の紐を引っ掛けて眼前に突き出してきた。とても細い緋色の糸を一本に纏めたもので、両端には同色の質素なポンポンが付いてる。それと彼女の顔を見比べて、数度瞬く。意図がわからない。

「変な顔。あんたの為に買ったのよ」
「……へ?」

今度は、こちらが虚を突かれて、間の抜けた声が出た。まさかそう来るとは思いもしない。むず痒い幸福感に頬を緩め紐を解こうと頭の後ろに手を伸ばして、―― 一気にどん底へと落ちた。ない、のだ。そういえば今日はその為だけに来て、報告して、帰るだけのつもりで。後悔はしていなかったが、訂正だ、予想外すぎる。使う宛を無くしてしまった手を呆然と下ろすと、リタはひょいと飾り紐を持ち上げ手中に収めてしまった。不満を隠そうともしないで、視線を斜めに投げながら手を後ろへと隠す。

「でもいらないみたいだから捨てる」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!貰う貰う、飾り紐なんだからいくらだって使えるし!」

衝動的に立ち上がったせいで、心臓に繋がれていた器具が引っ張られ地面に落ち、頭上の器具に頭をぶつける。途端に危険を知らせる警告音が大音量で耳を劈き、顔を歪めたリタに突き飛ばされまた椅子へ逆戻りすることになった。
彼女が何か口を開くが、全てかき消されてしまう。悔しそうに顔を歪めるとすぐに機器の方へと向かい、焦燥した様子であれこれと素早く指を動かしていた。行き場の無くなった次の言葉を持て余して成り行きを見守っていると、しばらくして漸く音は鳴り止んだ。
胸を撫で降ろしたかと思うと、リタはくるりと振り返って肩を震わせた。

「あ、んた、ねえ…!この子たちに何かあったらどうするつもり!?大人なんだからそのくらいで取り乱さない!わかった!?」
「だ、だってリタっち、」

頭に角でも生えて来そうな勢いで捲くし立てると、右手に握っていた紐を顔面に向かって投げつけて来た。落さないようそれを捕まえた瞬間、間髪居れず今度はペンではなく指先が額をつつく。「わ、か、っ、た!?」繰り返され更に強くなるささやかな攻撃が目に入らないよう目蓋でささやかな防御―というより、不安で視界を閉ざす。目玉を潰されるのは幾らなんでも恐ろしい。

「これ、リタっちがおっさんに初めて買ってくれた物よ?」

どす、と強烈な一撃が眉間に入ったかと思うと、ぴたりと攻撃が止んだ。おそるおそる目を開ければ、次の攻撃に至ろうとしているままの格好で硬直している。真っ赤な顔で口をぱくつかせる姿が面白くて、思わず頬を弛緩させたのが悪かった。叫び声と共に、横っ面を引っ叩かれた。

「わぁぁぁぁあああっ!!あ、あんたは女か!馬鹿みたい!馬鹿みたい!そ、そんなんであたしの大事な機械を傷つけて、ひ、ひ、必死になって、馬鹿みたい!子供っぽい!おっさんのくせに!!」
「いっったああ!り、リタっち、魔術はやばい!魔術はやばいってえ!!」

得意の魔法陣を展開し始めた両手を押さえて叫べば、魔法陣はすぐに消えたが荒い呼吸でねめつけられた。苦笑しか返せないひきつる頬に残るじわじわとした痛みからすると、おそらく綺麗に手形が残っていることだろう。これではまたどんな噂を立てられるかわからないな、と考えていると、押さえていた手ではなくブーツで脛を蹴られた。当然だが、痛い。
髪を切っただけでこの仕打ちとなると、老人になったらどうなるのかと思ってぞっとした。今度は焼き殺される。確実に。だが、それと同時に別な意味での不安が押し寄せるのも事実。上がりそうになる胃液を冷たい鉛のような感情と共に飲み込むと、安堵と重圧で深い溜息が出てしまった。
今度は器具に頭をぶつけないよう慎重に立ち上がると、不満げに頬を膨らますリタの両肩を軽く叩いて、頭頂部に笑いかける。表情は見えないが、多分怒っているのだろう。

「最初、リタっちおっさんに冷たかったじゃない。心開いてくれて嬉しい限りよ」
「…ひ、被検体に信用してもらうには、まずあたしが信用しなきゃ、駄目だから…それだけなんだからね!…いつも、付き合わせてるし、悪いと思って、それで…」

上ずった声が言い訳を探していた。肩を数度叩いて、彼女の目線に合わせて屈む。

「それでも、嬉しいわよ」

本心だった。信じてもらうのは嫌なことじゃないし、それが旅をした仲間ともなれば寧ろ好ましい。疑われるより無機物として扱われるより心を開いて接してもらっていると、何より俺が俺であると思える。魔導研究での結果よりも、人間らしく自分は生きていると実感できる。その幸せを与えてくれる少女は、夢のある言い方をすればまさに"魔法使い"だ。
謝辞も賛辞も送られ慣れていない彼女は一応顔を上げたものの、なんとも言い難い非難めいた表情でこちらを見上げて来た。そんなのはとっくに慣れている。微笑み返してみせると、「紐!」と命令めいた単語が下から突き刺さった。

「やーよ、リタっちに渡したら捨てられそう」
「しないわよ、あんなに必死で取り返されて。せっかくだから結んであげるって言ってんの」

以前からは考えられない台詞に少しばかり戸惑うが、折れてその申し出を受けることにする。奪われないよう握り締めていた手を開くと紐は少しくたびれてしまっていたが、リタは何を言うでもなくそれを奪うと、何故か屈みこんで切り取った髪の毛の入っているはずの袋を探りだした。

「…リタっち?まさか紛れさせようとかそういうんじゃ…」
「あんた、どれだけあたしを信用してないの?いいから黙って座ってなさいよ」
「…はあい」

理由を口にしないということは、今は言うつもりがないというわけだ。生憎わざと口論になりたいというマゾヒスト的思考は持っておらず、できることは気の無い返事をしてまた定位置に戻る事だけ。結局何度か立ち上がっているものの、彼女の気が済むまで椅子からは降りられないようだ。
暇を持て余して短くなった髪を弄んでいると、その手を叩き落される。全くどうして彼女は以前からこんなに暴力的なのだろうか、家族の顔が見たいとしか言いようがない。目の前で仁王立ちするリタに苦笑を向けて次の命令を待つ。

「用意できたから手は膝に置いて目は閉じてて。あと検査中は閉じなくてもいいから」
「はーあーいー」

ずっと見てたら見てたで怒るんでしょうに、という言葉は喉の奥に押しやって投げやりに返事をした。満足そうに微笑む顔を最後に見て目を閉じる。ここに来ると度々視界を邪魔されるのが気になる、そういった呪いでも掛けられているんだろうか。馬鹿な事を考えている間左側の首筋をなぞる動物の毛のようなものに身を捩ると、「動かないで」と端的に文句を告げられる。不可抗力だ。
いいと言われるまでに多少の時間が要ったが、目を開けた時さほどの変化は感じなかった。髪の左側に少し吊られるような感触があるだけで、何をされたのかはさっぱりわからない。そして切り取った髪を弄っていた理由も。誇らしそうに胸を張ったリタの胸元に取り付けられたレンズに、自分の姿が反射した。

「ふふん、どう?少しは若返って見えるんじゃない」

左の襟足に、やや長めに切り取られていた髪が飾り紐で結い付けられていた。そこまで若返って見えるわけではないが、単なる身なりとしては良いのかもしれない。良さなどはわからないが、とにかく誇らしげな彼女を見ていると笑い出してしまう癖があるらしい。
ふ、と短く息を吐き出すと、リタは更に胸を反らした。相変わらず、と様々な意味合いを込めて言えばおそらく殴られるので、瑣末な好奇心は妄想だけに留めておくことにする。そういう所は、以前から自分も変わっていない。

「こういう発想は無かったわ。ありがとねリタっち」
「別に。若く見せたかったんでしょ?知ってるわよ、根も葉もない噂であたしたちが恋人同士にされてるってこと。一緒に居るから何だっていうのよね」

さらりと言ってのけられた言葉に、目を見開いた。あれだけ必死で隠していたのが馬鹿らしいくらい当然の事とでも言うように、彼女はどんな隠し事でも暴いてしまう。心が読めるのかとすら思ってしまうほどだ。
俺に一瞥をくれた彼女は、何てことなしに「知らないとでも思った?」と呆れたように笑って見せる。羨ましいことこの上ない。あまりに的を得すぎている台詞達に息を呑んでいると、小さな手の平で頭を撫でられる。まさか、自分の半分にも満たない彼女に、だ。最早抵抗する気すら起きずに為すがままやられていると、最終的に軽く叩かれる。…家族でなくてもいいから、彼女を教育した人間の顔がどうしても見たい。

「あんたはあんたのままでいいの、しっかりしなさい。ほら、行くわよ」
「…んー、」

煮え切らない返事をして、服を引かれるがまま部屋を後にする。左側の首元が妙にこそばゆい。
いつも彼女に前を歩かれている気がする、これではまるで俺の方が子供のようだと、妙な感覚を覚えて、けれどまたそれでもいいかと思い直す。構わないのだ、俺が子供だろうが彼女が大人になろうが、どうせ世界も未来も変わらない。幸せならばそれでいいというのは、以前性善説と跳ね除けたお嬢ちゃんの言葉と同じくらい、大人として根拠が無さすぎるのだろうが。
散々振り回してくれる目の前の人物の自信ありげな背が悔しくなり、掴まれた服が伸びる前に手を引っ張って、軽快な足取りで前へ躍り出た。"今"が光る音がした。

―――
(美しい"今"の話)


ひっでえ!
なんぞこのラブコメ…なんぞこのラブコメ…。
最初の堅実さは何処へ、後半ただのラブコメ。
あと文字数が普段の2.5倍ある件/(^O^)\

あっ…主人公はレイヴンですよ?おっさんですよ?

最初は髪を切ってそんだけの話が書きたかっただけ。
なのにリタが紐を取り出した時点でおかしくなった。

あとレイヴンの髪型は…そうだな…説明し辛いですが、
細かく言うと前髪はおでこの半分くらいまでになってて、
襟足は辛うじて5cmあるかないかというくらい。
髪も全体的にそんな感じでTOVの誰より短いです。
イエガーをもっと短くしたようなかんじ…かも?


でも忘れてはいけない…。
この二人には20もの年齢差があるということを。
好きなんだもんよおお仕方ないだろおおおおおおおお!
私はおっさんが好きなんだよ格好良いと思うんだよお!

牧物のカルバンとかレイヴンとか好きすぎて\(^O^)/オワタ
すみません終わってるのは私の頭ですすみませんすみませんry

Fugitive from death

2009-11-11 16:30:16 | その他
「おくさん」

彼女は足が早くて、のんびり屋なのにせっかちで、のめり込んでしまうと振り返ってくれないというきらいがある。彼女のそういうところは嫌いではないし、どちらかといえば行動的ではない自分に勇気をくれるから、好きだ。
でも、でもと思う。永い時間のなかで意欲をなくしてしまった自分と、いつまでも輝いて走って行く彼女とでは、やはり決定的に何かが違っているのだと痛感させられる。おそらく、ではなく絶対。自分自身彼女より先に死ぬことは、ない。

「おくさん、どこ」

焦る。たかが散歩だろうが何だろうが、不安になるこの感情を抑えることは魔法でも不可能だ。人の気持ちも寿命も変えられない。使えるのは魔法というより調合や錬金術といった類だから、だから自分を人間にするなんて奇跡のような素晴らしい魔法は、この世に存在しない。呪いが好きな魔女は、力はあるのだろうけれど方法を知らないだろう。
死が怖くないわけじゃない、でも彼女の死は何にも変え難い恐怖だ。この一瞬は人間の彼女よりずっと短いもので、恐れている"それ"はすぐに来てしまう。だから、手を離すのは、怖い。

「魔法使いさん、!」

止まりかけた思考を、彼女の声が突き動かした。得体の知れない痛みと熱に塞ぎかけたもやが冷気に攫われて、また視界は透明感を取り戻す。だから振り向き様に倒れ込むようにして彼女に覆いかぶさったのは不可抗力で、単純に転倒してしまって痛いのは嫌だったからなのだ、とものぐさな神に向かって言い訳を紡いでみる。

「魔法使いさん?ご、ごめんね、私夢中になっちゃって…寒かったでしょ?ごめんね、今度からはちゃんと…」
「……名前で、呼んで、おくさん。……おいてかないで、ヒカリ……」

例えば、魔法を扱う者に伝わる伝説が本当だったとすれば。彼女が一言言えば良かったはずだ。俺の名前を呼んで、一緒に死んでくれと言うだけで、俺はきっと人間になれたけれど。ヒカリは絶対言ってはくれなかっただろうし、言わせたくもなかったから、けれど置いて行かれたくはなくてから、強く抱き締めたのだ。幾万の夜を越える前、まだ俺たちが二人だった頃。


物言わない冷たい石を背に、俺は今も逃げている。

―――
(Fugitive from death)
貴方を追いながら、それでも逃げている


魔法使いさんって呼んでるのは名前を出したくなかったから。
題名の意味は「死からの逃亡者」です。たぶんね!!←
全体的にイミフですがもういいです雰囲気小説なのです。

離れたらもう会えないとわかっている人と一緒に居るのに、
その人が少しでも居なくなってしまったら、不安なのです。

散歩しよって言ったら飛び上がって喜んでいた(笑)
魔法使いが、森とか店に入った時待ってたので思いついた。
迷子の状態にしたらどんな会話があるんだろうなーって。


あっ…牧場物語の話ですよ?(笑)

純情、愛情、哀情

2009-11-11 01:52:20 | テイルズ
わたしは生まれた時、一人ではなかった。
同じ闇の色をした髪に、鏡に映したかのように対照的な目の色。わたしはお月様のユエであの子は太陽のソル。わたしは柔和であの子は頑丈で、わたしは優しくてあの子は強かった。あの子は不器用だったけど世界樹が大好きで、そんなあの子がわたしは好きで。世界のみんなが喜べばとあの子も喜んで、世界のみんなが泣けばあの子も泣いた。世界樹に一番近い気がしたあの子がただ輝かしくて尊くて、ずっとあの子に追いつければいいと思っていた。
お月様が太陽の光に当てられて輝くように、あの子が居なければ、きっとわたしはずっともっと生まれた時に消えてしまっていたと思うくらい、何の嫉みも苛立ちも感じない、美しい世界だった。

…のに。

ある日突然あの子は死んだ。みんなが怒るのを止めようと頑張ったけれど、弱いわたしが居たら危ないからって、いつも一緒だったのに。一人で行ってしまって、わたしを独りにしてしまった。太陽が落ちて泣いてしまったわたしを勇気付けるためにみんなはあの子の光から新しい光の剣を作ってくれて、そうしてわたしは英雄になった。あの子を失って、ひとりで。

「おじさまは酷いことを言った」
「かもしれんな、だがそれより他に手はあるまい。最早世界樹だけでは負を抱えきれぬ」

全てが終わったあと、マンダージの民と話し込んでいたおじさまは唐突に言った。
"世界樹が限界だから、あの子を人柱にして永遠に浄化させよう"と、淡々と告げられる声にわたしは始めて反論した。誰にも声を荒げたことなんてなかったし、胸の中に広がるもやもやとした毒みたいなものは、きっとよくないとわかっていたけれど。
やっぱりわたしの中には、消せないほど深くあの子が生きていた。

「…ソルは影にはなれない。だからそういうのはユエのお仕事だ」

持っていた杖を強く握り締めると、あの子の存在を近くに感じることができる。おじさまと戦うつもりはないし―そんなのは、とても怖い―わたしにそんな力はない。臆病で迷惑をかけたけれど、これからずっと世界が滅びるまでソルが辛い目に遭うなんて、そんな酷いことは誰にだってさせたくないのだ。
おじさまが苦い顔をしてわたしを睨む。わたしは杖を抱きかかえ守るようにして後じさりする。背中が世界樹に触れたとき、何故か背中を焼き切るような鋭い痛みが走った気がした。おじさまが叫ぶ。

「甘えるな、ディセンダーの片割れよ!」
「やだ!ソルに辛い思いなんかさせたくない!世界樹が枯れちゃってもいいの!?」

酷いわたしの我儘に、おじさまは一瞬だけ言葉に詰まった。その直後おじさまが何かを呟いた。わたしも呟く。どちらが何て言ったのかなんて、もうよくわからなかったけれど、わたしは小さく小さく消えてしまえと呟いたはずだ。
痛いよ寂しいよ辛いよ苦しいよ、怖いよ嫌だよ、ソルを奪った世界なんて消えてしまえ。世界樹なんて大嫌いだ。無意識のうちに流れ出るわたしの大きな泣き声によっておじさまが必死に叫んでいるのも聞こえなかったけれど、わたしの罵声はマンダージ中に響き渡ってしまったのだろう。怯えた目をしてこちらを見ているみんなが居た。
その中でも一際辛そうな顔をしているのがおじさまだと気付いたとき、わたしの中で何かが崩れる音がした。背中を支配していたむず痒さが羽根を生やして、杖を握っていた右手の方へ流れ出ていく。何かよくないものが広がって、わたしの手はわたしの意志と関係なく大きくなっていった。怖くてたまらなくて、右手を押さえてぎゅっとしゃがみ込む。

「ディセンダー殿!」
「ユエ、落ち着け!自分を見失うな!」

みんなの声がない交ぜになって、滲む視界でおじさまが、―クラトスが顔を崩していた。やったねソル、わたしやったよ、おじさまのポーカーフェイスを崩したの。だから見においで。嬉しくて怯えて痛くてたまらなくなったわたしはへにゃっと笑って、それから視界を闇に閉ざした。

「ソル、大丈夫だよソル。ユエ待つからずっと待つから、ソルはわたしになって助けに来て。わたしのマナ全部あげるからソルがみんなを助けてね。待つから、世界が終わるまで待つから…」

全身からマナが抜けていって暗い奈落に落ちていくような感覚。わたしの手を握るクラトスの手が震えていておかしくて、何度か薄れる意識の中で忍び笑いを零す。世界樹はわかってくれたのだろう、このままならどうせわたしは狂ってしまって、それならいっそ最初から居ないほうがいい。わたしは臆病で卑怯だから片割れの居ない世界なんて耐えられないから、だからごめんねと呟いた。

「早まった真似を。世界樹はお前とソルを必要として生み出した」
「世界樹が許したからいいんだよ。今度は記憶を消してくるからね、クラトス。ずっと待ってる、ディセンダーと一緒に来てくれるの、待ってる」

ふつとわたしの名前を呼ぶ声が途切れて、一瞬だけ真っ暗闇に放り出される妙な感触。しばらく落ちていると向こうに見える闇からソルが走ってきてわたしを抱きしめて、ごめんねと囁いた。悲しそうな声で呟いた。大丈夫忘れてしまうからと呟いて、わたしはそれから考えるのをやめた。

さよならソルさよならディセンダー忘れないでねお願い、


「思い出したよ何のために記憶を失くしたのか。全部きみが原因だ」


突然口調の変わった私に驚いて、ゲーデは身を強張らせて後じさる。右手で左肩を抱いて、臆病なところは昔からずっと変わっていない。なのに記憶まで消して私の―僕の―記憶すらも消して、何百年も私を待っていた。抱えきれない負に苛まれ過去が消し飛んでも、生まれて死ぬだけの攻め苦に耐えて、ただクラトスとディセンダーが来ることだけを待っていたなんて、思い出せば胸が引き裂かれるような痛みが走る。
ゲーデは少し怯えて警戒して、それから嘲笑うように短い呼吸を吐いた。

「都合の悪いことは全部俺のせいか?」
「違うよ、そうじゃないの。やっと思い出した、僕が誰でゲーデが誰だったのか」
「ッ俺はずっと俺でしかない、生まれた時には俺だった」

双剣を地面に捨てると途端にそれは輝きを失って、ただの武器になってしまう。残してしまった片割れに僕の―私の―光が届くようにと、その当時の人々の思いが詰まった刀で、私は―僕は―君を―ゲーデを傷つけた。
手袋を投げ捨てて素手で冷たい頬に触ると、一瞬だけ目の奥が揺れて、泣いてしまうのかと、思った。それは遠い昔の記憶が蘇ったせいであって、ゲーデはきっと泣いてなんかくれないんだろうけれど。

「ソルはユエを騙したことなんてないよ」
「わけのわからないことを言って、俺を丸め込もうとしてもそうはいかない!二度と戻ってたまるか、あんなところに独りで、生まれて消えるだけなんて御免だ!」

ゲーデの右手が振り上げられて、光を放つ布に食い込む。当然のように赤い色とマナがそこから広がって、霧散していく。痛い。けれど彼女はもっともっと痛くて、そして私なんかよりずっと僕を愛していたはずだ。代償のように変化した右腕だけを持って世界樹の奈落へ落ちていった彼女がどんなに辛かったかなんて、記憶を失くしてしまった私にはわからないけれど、これだけは確かなはず。
お互いを想ってお互いすれ違った。ユエはソルを待っていた。ソルになったユエは、ユエになったソルを待っていた。失くした思い出は全ては元に戻らないけれど、きっとこれだけは、確信を持って言っていい言葉に違いないと思って、だから舌が縺れる前に微笑んだのだ。

「今度はゲーデが助けに来てね」

ゲーデの目が見開かれて、はじけるように光と影がない交ぜになって景色が揺れて、それから"わたし"は落っこちた。光を失う瞬間に、今度はゲーデが泣きながらわたしに僕に私にごめんねを言って手を伸ばしたのだけど、私の手は宙を掻いただけだった。
ああ、今日もあの子が泣いている。

―――
(今日もあの子が泣いている)

フィーリングチャンネル電波全★開!
わけわからん。レディマイ2の過去話ですよ。
ゲーデと女主の前世について妄想してみた。

つまり前のディセンダーはユエとソル。
二人は一緒だったけどソルが死んでしまって、
そのうちクラトスが残酷な提案をしてくる。
必死に駄々を捏ねるユエの中にはだんだんと
でも確実に負が蓄積されていってしまって、
「わたしが世界樹の影になるから、だから
ソルがディセンダーになって生き返って」と
思った瞬間、世界樹がそれを受け入れたと。
変化した右腕だけを持ってユエはソルになり、
ソルは永遠の闇から開放されてユエになった。
ユエの都合で二人とももう記憶はないけれど、
それからユエはソルの存在も救いも忘れて、
何百年もずっと待っていたんだよ…っていう。

だから結論から言ってしまうとだな。
ゲーデは前世女で女主は前世男っていうry…

うん。意味わからんちや(爆)

おkおk、自重します。
ところでレディマイ2コミック版はなかなかよかった。
あとゲーデとロアで調べたらゲーデのwikipedia項に
「ロア」って書いてあってふいたんだけどこれは一体…。

ロアは精霊なのにゲーデは死とエロの神ってこの扱い…。
もう主人公エロスにすればよかったじゃん(´∀`)←
名前もエロで神的には生でぴったりじゃん( ´∀)←

まあそんな漫画あったら燃やすけどね!!!←←


…夜中テンションカオス。とだけ言い残しておく。