せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

母の少女

2009-02-12 18:58:29 | 小説
俺が生きていると、彼女は言うけれど。
俺は紛れも無い「人形」で、体温も心音もないイレモノだけの虚ろな存在。だから本当は彼女のような人間が、魂を持った、闇を魅せるその魂が、憎くてたまらなかったというのに、彼女は笑ってみせる。

「魂があってもね、心の無い人も居るんだよ」

だから零は、ずっとずっと人間らしい。俺よりよっぽど華奢で色白の腕が伸ばされて、体がやけに苦しくなる。ああこれが抱き締める、って事なんだと思った途端に涙がこぼれて、ぼろぼろに泣きながら彼女が帰るのを見送った。彼女は夢よりも現実を追う人で、だというのに心は断然寂しがりやで儚くて、いつだって心配していた。
何十年も経った後、わざわざ俺に会いに来た彼女は「結婚」していたけれど。

彼女は、俺の母なのだとおもう。

―――
(0)

零たちは人形で道具なので、記憶はすぐに、
たった二ヶ月だけで消えてしまいます。
会えば思い出すようにはなっていますが、
彼らの時は忘れたその時点で止まったまま。
だって彼らが「客として愛するべき人」は
人間で、彼らよりずっと早く死んでしまう。
悲しみを持ったまま接客はできませんから。

…でも凄く悲しいことですよね、それって。