せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

ニバンボシ

2009-02-07 22:54:59 | その他
心が読めたらと思っていた。
水をあげた時にちらりと光る緑の葉とか、撫でた時嬉しそうに声をあげる動物だとか、彼らの声を聞いてみたいと、思うことがあった。だからと言ってもしその力が目の前にあったからと言って、使うかどうかと言われれば首を傾げる。それは人の内面に土足で踏み入るにも等しい行為だし、何より、その人の悪意だとか、そういった汚い感情に向き合う勇気が私には無かったから。
本当に心の読める人は純粋で、鈍感で、きっと読めるからこそなのだと思う。上手く気持ちを言葉にするのが、苦手な人だった。

「魔法使いさんは、」

新しいオモチャを与えられた子供のように、熱心に望遠鏡を覗く魔法使いさんの背中に向かって、ぽそりと呟いた。口にしたコーヒーからじわりと美味しさのような不味さのような独特の味が広がって、毛布でくるんだ身体が暖まっていくような、感覚。この部屋は広い。広くて、寒い。とても。

「特別な言葉は、…いらないのかな」

意味を理解できなかったらしい魔法使いさんが、ふと望遠鏡から目を離して怪訝な顔を向ける。「あ、ごめんね。見てていいよ」慌てて付け足すと少しの不満を残した顔のまま、やはり心に逆らえなかったのか迷う時間もあまり無くまた星空に意識を向けてしまった。
手に持っているものとは別の、足元に置いたカップは、魔法使いさんのために持ってきたつもりだったのだけれど。最初は湯気を立てていたそれも、そろそろ糸のような白が上がっては消えていくだけだ。それを見ていると、何だか心細くなる。心細くなると、涙が出そうになる。仄かにラベンダーの香りのする毛布で涙を拭ってから、涙声を悟られないよう膝に顔を埋めた。花の香りに、包まれる。

「…魔法使いさんは、オリオンのお話、知ってる?」
「一応…でも、よくは…知らない…」

ぽつぽつと、春の雨のように魔法使いさんの声が響く。それに私が小さく小さく笑った理由は、私にもわからない。

「オリオンは、サソリに刺されて死んじゃうの。それでね、恋人が神様にお願いして、オリオンを星にしてもらったんだって」

木の床が微かに軋む。冷めてしまったコーヒーの横に自分のカップを置いてから、小走りに短い距離を跨いだ。毛布を肩に掛けたままで、魔法使いさんの背に覆いかぶさったその手が震えているのが、寒さのせいだと思われればいい。そう、思って欲しい。心の読める彼にそう要求するのは難しい事だと解っていたけれど、願わずにいられないのがきっと人間の可笑しなところなんだろう。

「…アカリ…?」

不思議そうに私の名前を呼ぶ声が聞こえた。魔法使いさんの顔が、怖くて見れない。彼のオッドアイを見たら、もう目を離せなくなってしまうから。滲む涙を見られるのは惨めで悲しくて、"そんなこと"ばっかり考える私が、嫌いだ。冷たくなった服を両手で強く握り締めて、離さないように、この時間を逃がさないように唇をかみ締める。

「魔法使いさんは」

くぐもった声は、もう隠しようもないほど震えていた。びっくりしたのか、一瞬固まった身体が身じろぎするのが分かった。それでも離すまいとする私の根気を鬱陶しいと感じたのか、ただ諦めたのかは知らないけれど、望遠鏡に添えられていた両手はぶらりと、地に向かって落ちた。

「人よりずっとずっと長生きで。私は人で、魔法使いさんを置いて、きっとどこかに行っちゃう時が来るんだと、思う」

強く抱きしめ直すのと同時に、魔法使いさんの体がひどく強張るのを感じた。私は、酷い事を言っている。残酷で悲しい現実をわざわざ突きつけて、何がしたいのかと問われても答えられない。言葉で、腕で締め付けた魔法使いさんの胸が何か言いたげに膨らむ。

「だから、だからね」

苦しいかもしれないと思って手を離した途端、魔法使いさんはこっちに振り向いて、普段の影なんか見せずに私を抱きしめた。今までだってずっとこうして、寒い日は体温をわけてあげていた、というのに。今日に限って、どうしようもなく心臓が煩い。知らず知らずのうちに視界が歪むほど溢れた涙が頬を伝って、魔法使いさんの服をぬらしていた。

「もし私が死んじゃったら、神様にお願いしてね。魔法使いさんが寂しくないように、星になって、魔法使いさんが大好きな星になって、ずっと、」

その先は、言えなかった。涙が限界になって、嗚咽と一緒に溢れたのもある。けれど一番の理由は、言葉を紡ごうとする口に蓋をされたからで、嗚咽も涙も悲しい未来も全て吸い込まれてしまった。
あんなに見ないようにしていた目が、間近にある。目を逸らしてはいけないような、不思議な感覚に支配されてゆっくりと、毒されていく。

「…未来の話は…しない。俺が長生き、なのは…どうしようもない…けど、…今の時間まで、悲しくするのは…よくない」

魔法使いさんは、占い屋なんかじゃないと思う。その言葉は私の涙を止めてしまうし、在るはずの未来を見えなくしてしまう。楽しい未来だけが待っていると錯覚させてしまうその言葉には、きっと魔法がかかっている。宥めすかすような優しい目に溶かされて、悲しい未来なんてどこにも無くなってしまったような気になった。

「うん…」

誰にもこの人を渡したくなかった。私が居なくなってしまった後、魔法使いさんが出会うだろう人にも、悠久の友達で居られるだろう、魔女様にも。絶対に絶対にこの人を渡したくなかった理由が今ならわかる。コーヒーを入れてきた時の幸せそうな笑顔だけでどうしようもなく幸せになれたのだって、会うだけで心が躍るような楽しい気持ちになれたのだって、彼が魔法使いだからじゃない。

「魔法使いさん、あのね」

さっきとは違う、少し厳しい目で魔法使いさんが私を見る。もう未来の話はさせたくない、と言うように。心の読めない私でもわかったそれを頼りに、小さく笑ってみせた。私が笑って悲しい話を出来るほど器用な人間じゃないのは、誰でも知っているだろうから。
この気持ちに気付くまでにずっと、辛い思いを、した。だからもう遠慮なんて、しない。告白なんてもの私たちには必要ないから、きっとこの言葉だけで、いいんだ。

「…名前を、呼ばせて下さい」


―――
(ニバンボシ)
一番目はきっと輝く、未来のために


魔法使いバージョンも書きたいんだけど
忘れないうちにネタをメモしとくですよw

魔法使いが「魔法使いさん」呼びなのは
早瀬自身まだわくアニ始めたばっかりで
魔法使いの名を知らないからです(´・ω・)
いつか絶対知るぞー!えいえいおー★

そして「魔法使いさんは~いらないのかな」は、
実は某方のハートが9~10になった時の台詞。
あの言葉が好きすぎてヒカリにパクらせたよ!←

ネタバレ注意!
責任はとらないおw



本家チハヤデレ一揆★↓
「○○ってさ、好きとかそういう
 言葉はいらない…そんな感じ?」
「そういうの言わないと女の子って怒ると
 思ってたけど…君は違うんだね」
ツンデレすぎてついていけないヒカリでしたww

(最近、朝…起きて…望遠鏡、覗く。星は、見えないけど…。探してるものが…あるんだ。…でも…どこにも無くて。占い…しても、ヒカリの心…見えないし。怖くて…言えなかった/不安にさせてたら、ゴメン…言わなくても、伝わってると…思ってた/ヒカリが、好き…だから。ずっと、変わらない…)