ペーパードリーム

夢見る頃はとうに過ぎ去り、幸せの記憶だけが掌に残る。
見果てぬ夢を追ってどこまで彷徨えるだろう。

題詠blog2012 未投稿歌 011~020

2012-09-17 23:39:54 | 題詠2012

011:揃
二十四色揃いの色鉛筆水色ばかりが先になくなる
懐かしき紺のスーツは三揃い就活などと呼ばれぬ頃の

012:眉
咲き誇る桜の下に眉月のぎらり光りて刃磨けり

013:逆

014:偉
図書館の窓際の棚を占めていた偉人伝全集セピアの記憶
ガンジーやキュリー夫人に憧れて偉人伝読みし幼き吾よ

015:図書
夏休みの課題図書読み感想文追われて書きたる8月終わり
図書室に陽の長く入り一日の終了の鐘響きわたれり

016:力
悔やみごと遠心力でとんでゆけ宇宙の果てで塵にでもなれ

017:従 

018:希 
東北の希望となりし一本松春霞を背にすっくりと立つ

019:そっくり
亡き友とそっくりの顔して我を見る瞳の奥に揺れる湖
いつか見た夢の景色にそっくりな金の稲穂が揺れる秋晴れ

020:劇


赤紫蘇酢、完成。

2012-09-17 23:13:49 | 美味いただく
120915.sat.

赤紫蘇酢を作ってみました。

先日、六本木の路地で会った、
埼玉から野菜を売りに来ているオバチャンから教わったレシピ。

赤紫蘇(葉のみ)500g
水 1000~1500cc
純米酢 1~1.5カップ
無精製砂糖 100~200g

以上、まことにざっくりとした分量を用意して
鍋で煮ること20分。
赤く煮出した水分のみを取り出して、完成。正味2リットル。
残った紫蘇は、出汁・醤油・酒・みりん・胡麻で煮て、佃煮に。

  

砂糖を控えめにして、すっぱさもまろやか~に
とってもいいお味にできました。
そのまま飲んでもよし、
炭酸で割ってもよし、
オリーブオイルや胡麻油でドレッシングを作ってもよし、
炒め物に回しかけてもよし。

佃煮は、
気分次第でジャコを入れたり、削り節を入れたり、胡麻を増量したり。

紫蘇とお酢のダブルの抗酸化作用で
この秋は楽しいヘルシーライフ~♪

有松絞りに宮古上布帯

2012-09-16 14:19:23 | きものがたり
120912.wed.

なかなか夏が終わらない。

着物の世界ではすでに単の季節。
帯や小物も、袷のものに合わせていくのが常識です。
しかし、暑い!

そんなわけで、
先日、越中八尾で着た有松絞りの浴衣を
手入れして仕舞う前にもう一度歌会に着ていきました。
もちろん、半幅ではなく八寸の名古屋帯で。
半襟もつけて、夏の着物風に・・・です。



歌会の代表から「その柄、キース・へリングの?」なんて聞かれたけど。
たしかに・・・(笑)
これは琉球絣によく見られる番匠(バンジョー)という柄、かな?
バンジョーとは、曲尺(かねじゃく)のことで、
階段状になっているが、一つの角が一もよう。
ちょっと男らしい浴衣かもしれませんね。


でも、暑い。
だから、帯も切り羽目の宮古上布に半襟も絽。足袋も麻。
紫の縞の楊柳の帯揚に浅葱の三分紐、帯留は紫のトンボ玉。
・・・と、夏仕様だけど、いいよね。
一応、朝訪ねた上荻の呉服屋さんの社長に
「こんなに暑いんだからいいですよ。夏物で」と言わせてきたし(笑)

  

そこで悲しい報せを聞きました。
病気で大阪に帰っていた女性店長が、昨日の朝に亡くなったという。
11年前、私が休職中に出入りするようになって、
すいぶんと元気をいただいた店長だったので、かなりショック・・・。
おりしも朝日新聞に、彼女が患っていた胆管癌の記事が載っていたばかり。
年に何度かは上京して、お元気そうな顔を見せていただいていたのに・・・。
ご冥福をお祈りします。

題詠blog2012 未投稿歌 001~010

2012-09-16 13:51:35 | 題詠2012
百の題材のそこから、さらにいろいろな世界が広がりまして、
陽の目を見なかった(投稿しなかった)歌も倍くらいありました。
そのままにしておくのも可哀相なので、少しずつあげていきます。


001:今
湖岸にて石の羽根もつ白鳥(しらとり)の今にも飛ばん姿して立つ
今ここにページ繰りつついる命限りあること胸に刻まん

002:隣

003:散
灰色の空より数多散る花は大野一雄(おおの※)の命チューリップの赤
                        ※舞踏家=(故人)
畦道で散髪しいる理髪師の指の先から風通りゆく

004:果
雪雲を抱えし北の鈍色の空の果てから雁渡りくる
夕日浴びまどろみいたる果実酒の遠き記憶にある琥珀色

005:点
点ひとつがみるまに増える黒き影V字をなして雁の飛び来る

006:時代
捨てきれぬ時代遅れの洋服の肩パッドは我を威嚇している

007:驚
冷静な君の驚く顔を見て事態の重大なることを知る
冬にはや芽を出す庭の紫陽花の驚きながら危ぶみており

008:深
深々と頭を垂れて謝罪するテレビの中の見慣れたる景
湖に深く沈めた銀色の指輪が夜毎話しかけくる
引き出しの奥から出でしクレヨンの色は深緑いつかの春の

009:程
一枚の旅程眺めて世界地図頭の中にふわと広げる
今日はどの程度砂糖を加えよう紅きりんごのジャムを煮詰むる

010:カード
友達と思いし君のバースディカードから恋が零れ落ちたり


雲のむこうにも町がある・・・かも?

2012-09-15 19:13:00 | 乳がん…その後
120914.fri. 

昭和大学病院17階タワーレストランにて、友人Oさんと食事。
彼女は来週、手術を控えているが、
今日は夕食をキャンセルして待っていてくれた。
見せてもらったクリニカルパス(入院予定表)の
“悪性”の欄に丸がついているのが、重いけれど、
まるで盲腸でも切りに来ているようにしかみえない軽やかな姿。

去年も再発かも!?と連絡をもらったが、検査の結果、幸いセーフ。
今年も無事であればいいけれど、今回は切ってみてからのことのようだ。



実は彼女は、8年前、
私が初めて聖路加でボランティアに行ったときの患者で、
いつのまにか親しくなって今に至っている。
たまたま病室に来た看護師に私との関係を話すと
「あら、一番心強いお友達が来てくださったのね」と。
彼女にとったら今回も執刀医は信頼すべき中村先生で、
初発のときの担当医の榎戸先生にもこの病院で再会したとかで、
「これだけ揃えば最強!」と表情も明るい。



夕方の眺望は素晴らしく、
眼下に広がる数多の生活の向こうに
別の世界があるような雲の形をとらえました。

twitterにアップしたところ
「竜の形に見える。昇竜で幸先がいい雲です」
ほんと!
コメントしてくれた友人Rさん、ありがとう!

Oさんも来週手術を控えているとは思えないほど饒舌で、
帝国ホテルのハンバーグと
デザートのケーキセットをそれぞれ完食。

病気にならなければ出会えなかった友だからこそ
言葉にしなくてもわかりあえることがある。
なんだかさよならを言いがたく、
コンビニで買い物をするという彼女に駅まで送ってもらって
ハグして別れました。

「がんばってまた戻ってきてね!」


散髪。

2012-09-15 18:22:53 | 暮らしあれこれ
120914.fri.

 

天井からインド音楽が降ってくる。
そこは束の間の異空間。
眼を閉じて聞く
リズミカルな鋏の音が
さっきまでの忙しない気持ちを
次第に鎮めてくれて…。
半時間もしないうちに
今回のヘアスタイルが決まっていくのを感じる。
「何も言わない。何も聞かない。カッコよく」
それが、ホンダさんとの暗黙の了解。
“80年代を刈り上げた男”に絶大な信頼を寄せる私です。

「どうです!カッコいいでしょう」と相変わらずの自画自賛。
でもホントのことだからなあ。(笑)
ちゃんとお帽子にも着物に合うようにしてくれるしね。

というわけで、3か月ぶりにおでこ全開!(笑)
かる~くアシンメトリーなベリィショートになりました。

「座って1時間もかからないんだから、まめに来てね」
ほんと、その通り。ショートはカットが命。
でも、髪が伸びても、それがまたいい感じなんだもの。
「みんなそう言いますよ(笑)。だから困っちゃう」
だろうなあ。  



朝から髪を切って、気持ちのいいスタートです。

夕方お見舞いに行く友人のためにマグカップを買い、
ついでにネーミングと数々の賞のシールにつられて
紅芋焼酎を買ってしまった!
「河童の誘い水」



東京、本日も32度。1日持ち歩くのは辛かったわ。

浜離宮の歌声

2012-09-15 18:03:54 | 美を巡る
120913.thu. 

浜離宮朝日ホール「Moon night serenade ~月夜に奏でる音の響き~」へ。
ソプラノ歌手、フルート奏者、姉妹ピアニストら
女性ばかりのコンサート。

Yの友人の河口愛幸(めぐみ)さんは4番目の登場。
エメラルドグリーンの、たっぷりとタックをとったお姫様ドレスに身を包んで
「落葉松」を歌いだす彼女。
あんな細い体でよくぞそこまで、というほどの伸びやかな高音にうっとり。
Yいわく
「私の知る中でもトップクラスの美女だから目の保養になるわよ~」との前情報。
 (これにつられて来る(?)なんて、私たち、すでにオヤジ!?)
容姿だけではありません。天は二物をちゃんと与えてくれているようです。

華やかに、ドレスの裾を翻して退場する彼女を見送りながら
次のラスト歌手はやりにくいだろう・・・と思ったのも束の間・・・
いかにものオペラ歌手の体型に
鮮やかな黄色いドレスを纏って登場したのは
伊藤りかさん。
ヘンデル、シューベルト、ドナウディ、ドニゼッティ、・・・と
私でも知っている曲を素晴らしい声量で届けてくれます。
でも、曲の合間に息を整える後ろ姿が辛そうで・・・。
残るはプッチーニを3曲。
「ある晴れた日に」なんて聞きながら
思わず両手を組んで祈ってしまいました。
そして最後にヴェルディの「運命の力」から“神よ、平安を与えたまえ”を
歌い終えると、喝采の拍手。
前列にいた伊藤さんの友人という女性によれば、
「彼女は今日は体調が悪くて、最後まで歌えるか心配だった」とのこと。
いやいや、まさかそこまでを感じさせることがないほどの
素晴らしい歌声でした。

ピアノデュオ Duo-M 村田めぐみさん、みゆきさん姉妹は
四季の唱歌やペルシャの市場にて、ルパン三世のテーマ、ファリャの火祭りの踊りまで
懐かしく耳に馴染みのある名曲を、息の合った抜群のテクニックで演奏。
こんな音楽会もありだよねえ、と十分に楽しめたひとときでした。
あいにく月が見えなくて、残念でしたが。
出ていれば下弦の三日月だったようです。


21時半、さて、築地で何か食べていこうということになり、
久しぶりに虎杖(いたどり)へ。
あったあった。
裏店は一杯。その先のスペースへ案内されて、
女3人だけの気ままなおしゃべりにはもってこいの場所。
京のおばんざい3種盛り、しめ鯖、じゃこ山椒、アケビの天婦羅に舌鼓をうち、
〆はやっぱりカレーうどん。
うーん、絶品!

  

さて、帰ろうか・・・
あれ? あの美しい歌声はどこへ???
というわけで、やっぱりオヤジ化してきたかしらね・・・我々。

11年経ちました。

2012-09-12 00:58:46 | 乳がん…その後
120911.tue.

「ねえ、人生観、変わった?」

ゴルフレッスンで仲良くなったYさんに突然聞かれた。
実は彼女も私と同じ年に、乳がんの手術をしたのだという。

「大きな手術をするんだから、人生観変わるよ」
11年前、同僚から言われたとき、
「そうかもね」とにっこり返しながら
これくらいのことで変わるような人生、送ってきてないわ、
なんて思った私でした。

あれから11年経って、どう思っているかって?
今は言えます。
変わりましたね、人生観。

すべては永遠ではないということ。
他人のためにできることをするということ。

頭ではわかっていたはずのことが
何かなければ実は何にもわかっていなかったという
「つもり」の恐ろしさ。

以前と同じような生活に慣れ始めてしまったこの頃です。
2001.9.11、アメリカが変わったのだから
私も変わらなきゃ、なんて軽々しく思っていたことへの反省も込めて
11年目の今日、再度記します。


    風冷えて何をか掴まん黒揚羽


題詠blog2012 投稿歌

2012-09-09 00:42:53 | 題詠2012
2012題詠blogも今年で3回目。
2月1日から始めて、9月8日で完走(終了)。
昨年よりひと月遅れでしたが、41番目のゴールは昨年と同じ。
参加者は現時点で242人といつもより少ないようですが。

本日、長谷川櫂さんの俳句講座で
「なぜ、俳句をつくるのですか?」という質問に
「自己表現と心の自分史のため」
「友人に付き合っているうちにはまった」など様々な返答が。
長谷川さんがおっしゃるには、
・言いたいことがある
・伝えたいことがある
・残したいことがある
といった、いわゆる意識してつくるものと、
自分の心や言葉の面白さ、自然の美しさや残酷さなどに気づいてつくるもの。
この二つが俳句を作る理由であろう、と。

もちろん、短歌も、他の詩形文学も同じ。
短歌は31文字と俳句より言葉が多い分、よりそれが顕著に見られるかもしれない。

題詠というくくりの中ではどちらの傾向が強くなるだろうか。
お題を当てはめようと無理やりつくっているものもあるわけだし。
そういうところに案外真実(本音?)が隠れてたりしてね。
ここにきてようやく、百首見直すということは恐ろしいことだ、
と気づくわけなのでした。
(未投稿歌は後日ぼちぼち・・・)


■題詠blog2012 投稿歌 (2011.02.01~09.08)

001:今
平安の昔に流行りし今様よラップのやうにリズム刻めり
002:隣
偶さかに隣り合わせに座りたる君のピアスが揺れて囁く
003:散
顔見えぬインターネットの其処此処で無作為無防備に言の葉の散る
004:果
無花果を祖母がもぎたる秋の日の夕陽まぶしき記憶残れり
005:点
点々と足跡踊るやうにゆくのは狐か雪原の朝
006:時代
京の町雅びな衣裳纏いゆく時代祭を風が追い越す
007:驚
いつのまに君の仕草や口癖が吾を支配してることに驚く
008:深
深山には木霊の棲み処あるという霧立ちこむる光なき沼
009:程
工程を重ね近づく完璧か職人気質の仕事果てなし
010:カード 
元気でとカードを添えて宛名書くメールでは届かぬ想いを込めて
011:揃
花道に勢揃いせし5人男盗賊魂凄んで見せる
012:眉
変わらない目の色なれど眉の端ぴくと心の揺れを示せり
013:逆
カルガモは逆立ちをして餌をとる川の流れに身をまかせつつ
014:偉
ジョブズこそ偉人であると讃えられ書店を埋める彼の功績
015:図書
「凡そ真なること」とラテン語で刻まれし図書館のにおい懐かし
016:力
胆力とふ要のありし吾の中で飼い慣らしたる竜の心臓
017:従
二等辺三角形の辺長く水脈(みを)従へて鴨滑りゆく
018:希
はしゃぎ声上げつつ幼ら待ちており希望が丘団地行きのバス停
019:そっくり
ブリューゲルが描きし雪の風景にそっくりな池にマガン戻り来
020:劇
胸の内に仕舞い込みたる言葉あり用法違へば劇薬となる
021:示
神のみぞ知る世界故知りたくて黙示録読む人はいつの世も
022:突然
突然に幕がひかれてただ独り取り残されし夢に戸惑う
023:必
春来れば必ず北へ向かふ鳥太古の記憶備わりており
024:玩
汚れてもほつれてなほも玩ぶ人形の手に温もり宿る
025:触
鉄筋に触れた先から移りくる冷気を抱へ夜の街行く
026:シャワー
幸せのライスシャワーの降り注ぐ花嫁の白永久に輝け
027:損
算盤で損得勘定はじきだす時代は遥か遠くなりにき
028:脂
糖質も脂質も敵とダイエット過ぎれば痩せ過ぎ症候群(シンドローム)
029:座
さりげなく隣に座る君の香の陽の匂いする図書室の午後
030:敗
敗れてもなお向かいゆく蟷螂のカマ振り上げて宙を切りおり
031:大人
風の色いつしか見えなくなっていて大人になっていたのだ我も
032:詰
心地よい君の言葉をてのひらで包んで胸の小箱に詰める
033:滝
滝壺を見下ろし軽くジャンプして君は若葉のやうに飛び込む
034:聞
聞き書きが当たり前だったあの頃のノートを見つけ記憶なぞりし
035:むしろ
はらはらとこぼれ落ちたる思い出を風が運べり花のむしろに
036:右
左隻から右隻へ向かひリズムなし「燕子花図」は軽やかに立つ
037:牙
マンモスの牙置かれたる博物館悠久の刻静かに流るる
038:的
遅々として進まぬ議論のただ中でさらりと的を射る君がいる
039:蹴
御所の庭狩衣まとひ蹴鞠する人を紅葉が赤く照らせり
040:勉強
長じても勉強と言う人生に追われつつ見る葉桜の美(は)し
041:喫
例へれば檻の住人哀愁と意地の漂ふ喫煙ルーム
042:稲
神様や仏様とも称されて稲尾和久昭和のエース
043:輝
ふるさとの山に雪形生るる季ゆき解け水はきらと輝く
044:ドライ
ドライジン喉に刺されり昨晩の手を振る君が脳裏に立ちて
045:罰
天災は地球人への罰なるか奢れる我ら窘めるため
046:犀
のっそりと川を横切る犀の背をなでて踊りぬピナ・バウシュの手
047:ふるさと
犀星も都会にあればふるさとを思ひて涙零しし夜か
048:謎
紺碧のエーゲの海に浮かびいる謎の解けざるクノッソス宮殿
049:敷
さみどりの光の粒が部屋に入り座敷童子がクスクス笑ふ
050:活
紫陽花を一輪活けし床の間に移ろう翳のまろき虹色
051:囲
囲碁は守り将棋は攻めと名人は故に女に囲碁を勧める
052:世話
雨の日も花の世話する君のいてレインブーツの赤の眩しき
053:渋
渋皮煮含めばじわり濃厚な甘みが踊る吾の味蕾で
054:武
武士の世の始まり描くものがたり古書に伝わる源平の印
055:きっと
ほんとだよ約束したよきっとだよ絡めた小指は記憶の欠片
056:晩
大潮の晩を浜辺に生受けしクサフグの子は月光のなか
057:紐
聳え立つ高層ビルが消えし日の紐育(ニューヨーク)の空白く続けり
058:涙
近頃は涙もろくなってねと言ふ友の背に雨垂れの落つ
059:貝
硝子器に閉じ込められし桜貝海の記憶をつぶやいており
060:プレゼント
向日葵の黄色を父にプレゼント夏の元気を届けんとして
061:企
陰謀は企み計画は立てるもの心の中に揺らめく動詞
062:軸
傾きし母なる地球の軸ゆえに自然の不思議を受けいる我等 ※母なる地球:マザーアース
063:久しぶり
この街は久しぶりだね傍らで呟く君の眼の中に 雲
064:志
ゆっくりと山古志村に春の来て桜に染まる人も牛馬も
065:酢
酢酸の匂い懐かし理科室のフラスコの瓶人体模型
066:息
ため息の行方は何処幸薄きところへ流るるとひとは言へども
067:鎖
蜘蛛の巣に雨上がりの陽の射しくれば目映くばかり銀の鎖は
068:巨
暗き世を描けるゴヤの巨人の絵民衆の眼はみな怯えいて
069:カレー
暮れなずむ上野の庭に佇むはロダンの手なるカレーの市民
070:芸
山深き村に伝わる神楽あり芸能の神の息づく処
071:籠
ひたすらに描きし籠と果物の素描に宿る画家の魂
072:狭
眼先を見やれば狭まりゆく水路月に照らされしヴェネチアの道
073:庫
武庫川とふ駅は新緑の盛りにて約束三時のホームに立てり
074:無精
徹夜明けの無精髭のまま取材先へ飛び出す君の長き一日
075:溶
明日は明日の風が吹くはずソフトクリームは浜辺の我と共に溶けゆく
076:桃
ゆうるりと瞳を閉じて味わへり水蜜桃の甘き香りを
077:転
輪転機回れば数多の情報が羽ばたくやうに流れ始むる
078:査
黙々と作業する月面探査機に感情あれば何を思ふか
079:帯
我が胸に抱えしものをおろすごと身をしめいたる帯を解きゆく
080:たわむれ
たわむれに綴りし恋のあとさきを懐かしむ日がいつか来ようか
081:秋
炎天のビルの向こうに陽炎の見ゆれどすでに秋立つ夕べ
082:苔
古刹にて苔むす五百羅漢像目元口元笑うて在す
083:邪
邪な心がすいと顔をだす たとへば青き海眺めいて
084:西洋
西洋と東洋の道交わるるトルコの街に蒼き風吹く
085:甲
秋の陽にふたり並んで日向ぼこ亀が甲羅を干すがごとくに
086:片
片陰に身を寄せ凌ぐ夏の陽も季の過ぎれば恋しくならん
087:チャンス
横切りしチャンスの女神の前髪を掴み損ねし夏が遠のく
088:訂
若き日に紐解きし書の改訂版別の顔して書店に並ぶ
089:喪
最初から地球(ほし)へお返しするものと思いしものぞ乳房喪失
090:舌
嘘つけば舌切られると教えられし遠き記憶は絵本の中に
091:締
締めきつた部屋の隅から微かなる虫の音聞こゆ夏の終わりに
092:童
いつからか耳に残りし童歌母さんの歌どうぶつの歌
093:条件
いつの世もいい子に育つ条件は「おっぱい」「抱っこ」「お友だち」かな
094:担
戦場から弱者の暮らし伝えむと使命担ひし女性の柩
095:樹
樹木葬に倍率高き世情にて魂もみなエコ化となれり
096:拭
手拭いをきりと被りて刷毛を持つ染め職人の涼しき眼
097:尾
涼風に酷暑の汗を思いつつ秋刀魚を一尾裏返し焼く
098:激
二百時間を悠に越えたる残業も激務でなかりし日々もありたり
099:趣
回廊を左右に従ふる瑞龍寺かかる雲さえ趣のあり
100:先
幸福は蜃気楼なりとふ先達の言葉肯ひ鰯雲追ふ