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不老不死

2008-05-15 07:49:21 | 感想
不老不死、生命の合成、生命シミュレーションにおけるバイオロジーの未来 - バイオ研究者見習い生活 with IT
twitter with fromdusktildawn and T_Hash - 夢はGeekなMad scientist

このテーマ自体が、ある種不老不死なトピックでいつまでも尽きることのない話題なのだろうなと感慨深く面白く読ませて頂きました。
お二人が口を揃えて仰っているように、fromdusktildawnさん思考力や発想力は凄い。ロジックの展開にプロフェッショナルなものを感じます。

議論はまだまだ進行中なようで、参加したくともTwitterがよく分からないのと、分かった所でリアルタイムの議論には私の能力ではとてもついていかれないので、まとめられている部分までで、ひとまず、議論に参加、資料提供ができればとの思いでエントリ-をあげてしまいます。
引用部分が不明瞭であったり、文章がきちんと成立していなかったり、きちんとした一次資料による確認を怠っていたりしますが、誤りを見つけ次第、随時加筆修正していきたいと思います。

●言葉の定義について。
老化と死、若返りと不老についても、きちんと分けておかないと議論が混乱する要因になるだろうと思われます。
個々の細胞における不老不死では、細胞分裂が重要なファクターになるのは間違いないでしょう。しかし、ヒトの不老不死に関していえば、やはりそう単純な話では済まないだろうと考えます。前提として、どのような状態を理想的な不死とするのか。今現時点で体を構成している全ての細胞をそのまま生かし続けたいということならば、細胞分裂すら厳密には許容されなくなりうるので。ヒトとして確立された個体が生きながらえることを意味するならば、細胞分裂が許容され、あるいは細胞の置き換えが起こっても良い訳で、そうなると細胞自体が若返る必要はないわけです。
●老廃物を分解・除去する仕組み
細胞はかなり精密で多岐にわたる分解除去のシステムを持っています。劣化した酵素や損傷した細胞内小器官を認識し、除去する仕組みの一つとしてオートファジー(Autophagy)が知られておりますが、この分野は日本のグループがリードしているホットなトピックですので要注目です。
しかし、問題は、これらの機能を単純に強化すれば細胞が長生きできるかというと、そうとは限らないこと。
活性酸素自体は有害とは言いきれず、あくまで、"過剰な"活性酸素がゲノムや細胞の劣化を招いてしまうというもので、徹底的に除去しようとすれば、今度は基礎的な生命維持に必要な代謝が機能しなくなります。活性酸素、作用、などのキーワードで検索して頂くと、生体防御機構としての活性酸素の役割などが紹介されています。また、最近酸化ストレスに対する還元ストレスの影響が生体機能を劣化させるという報告もなされています。
Cell -- Rajasekaran et al.
"Human αB-Crystallin Mutation Causes Oxido-Reductive Stress and Protein Aggregation Cardiomyopathy in Mice"
内容自体はまだ多くの追試を要求するものですが、この発想自体は決して突拍子の無いものではなくて、同様に、全ての老廃物を除去する仕組みは、それ自体に効果の絶対性はなく、そのバランスで細胞を死に向かわせるか、修復に向かわせるかが決定されているようです。
癌化についての定義も重要でしょう。癌化することが単に無限増殖、無制限の分裂を意味するだけであれば、仮にそれをコントロールし必要な機能を復帰させることができるとして、老化と成長を切り離して考えられるのか、境界線はどこかという問題が生じるだろうと思われます。
●DNAポリメラーゼのこと
>ヒトのDNAポリメラーゼは10億塩基対に1回の割合で複製ミスをする
ヒトポリメラーゼによる複製ミスの割合は恐らくもっと頻度が高く(数千から数万塩基対に一回くらい)、そのミスマッチを修復する酵素などによって保障される最終的な精度のことを仰っていると思われますので、ちょっと語弊があるかもしれません。
DNA修復 - Wikipedia

●無限の細胞分裂の必要性
分化した、内蔵や皮膚、脳や神経等、それぞれの部位で役目を果たすように成熟した細胞の中には、もはや細胞分裂を行わない、あるいは殆ど行わない細胞組織が多くあります。無限回のゲノム複製や無制限の細胞分裂がヒトの不老不死の必要条件ではなくなる可能性は大いにあるかと思います。
●ゲノムの入れ替え
単純に遺伝情報としてのマスターゲノムは同じでも、それぞれの組織毎にメチル化などのエピジェネティックなゲノム修飾が行われていますので、厳密には各組織細胞のゲノムの状態は同じではありません。この点を考慮すると、ゲノムをまるまる入れ替えるというアイディアよりは、最近話題となりましたiPS細胞のように、幹細胞から個々の臓器に発達させたものと置き換える技術の方が、ヒト個体の不老不死へのアプローチには近道かもしれません。
(以下追記)
染色体には、構造的に変異が入りやすい箇所と入り難い箇所があるので、厳密にはランダムに変異が蓄積するとはいえず、その変異の入りやすい箇所に重要な遺伝子が存在するので、老化に伴って発症しやすい病気が存在すると考える方が自然かと思います。
仮にウィルスにマスターゲノムを運ばせたとして、入れ替える工程で変異が入る確率も無視できないかと。むしろ体内でウィルスがゲノムを取り込みマッチングを行う過程まで組み込んでしまった方が精度は上がるはずです。
●シグナル伝達経路の統合
また、シグナル伝達の経路を考える場合、老化と成長、修復機構とプログラム的老化装置は恐らく密接にリンクされていて、修復機構の強化(具体的には活性酸素除去酵素の活性化など)だけでは効果が得られないだけでなく、よりダメージを蓄積しやすくなるケースがあること、寿命遺伝子、老化遺伝子と呼ばれる、活性化させると老化が促される遺伝子やその逆の作用が認められる遺伝子等が存在することから、この中で劣化の蓄積度合いや頻度に応じて、修復に向かうか積極的に劣化を進行させるか切り分けていると考えられます。
この辺りの記述は記憶に頼っていて、資料での確認をまだ行っていませんのでお気をつけ下さい。
一応の参考資料として、いくつかのリンクを。寿命を延ばすのにはカロリー制限をする方が効果的であることが示唆されています。
It Is Green Man: Mutate Ribosomes and Live Longer
Double Your Lifespan with a Drug that Mutates Your Ribosomes
上記二つの記事の元論文
"Yeast Life Span Extension by Depletion of 60S Ribosomal Subunits Is Mediated by Gcn4"Cell -- Steffen et al.
老化遺伝子、寿命遺伝子
「老化遺伝子」操作で、簡単に長寿を実現?
突然変異遺伝子で寿命が倍に?
メディカルα「老化を体験/老化遺伝子クロトーの発見」
神経老化の最前線
「多彩な老化症状が単一遺伝子の欠損に起因する動物モデル」であるKlothoマウス。このモデル動物では、ヒトの老化の多くの特徴がみられ、神経機能としても聴力低下、失調、歩行異常、活動性の低下などを認めるが、悪性腫瘍、白内障、脳の老人斑やアミロイド沈着がみられないなどの差異も存在し、それが何を反映しているのか興味がもたれる(記事より引用)
トピックス・寿命と遺伝子1/3
主要な死因は医療の発達や環境の変化に伴い大きく変動しますので、時代毎にストレス、劣化、老化、の意味合いも変わってくる可能性があるものと思われます。それに対応できるかどうかも考慮すると面白いのではないかと。
●細胞の老化装置をリセットすること
老化装置がリセットされていない細胞が、他の細胞にどう影響を与えるか、恐らく組織毎に確認する必要があるでしょう。一般的に言われるプログラム的な細胞死(老化ではありません)=アポトーシスでは、細胞の劣化で生じたものが周囲の細胞の劣化させるのを回避する為に自らの死を促します。
●核酸治療についての見解
癌化が死因となる割合もこれから下がっていくでしょう。癌化させないだけでなく、癌化した細胞を取り除くのであれば、ゲノムを入れ替えるまでもなく、癌化し
しゲノムの複製が盛んになった細胞にのみ放射線同位体やケミカルな細胞死誘導剤を結合させた核酸を取り込ませることで、癌細胞の増殖を抑制するなどの実験が行われています。siRNAの発見により、複数のターゲット遺伝子を統括的にコントロールする試みも臨床レベルに近付いています。核酸治療は当初想定された枠を越えて、すでに次のステージに進んでいると見ることもできます。