物欲大王

忘れないために。

海堂尊「チーム・バチスタの栄光」

2006年02月14日 18時44分05秒 | 読書、書評
チーム・バチスタの栄光

宝島社

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~~東城大学医学部付属病院は、米国の心臓専門病院から心臓移植の権威、桐生恭一を臓器制御外科助教授として招聘した。彼が構築した外科チームは、心臓移植の代替手術であるバチスタ手術の専門の、通称”チーム・バチスタ”として、成功率100%を誇り、その勇名を轟かせている。ところが、3例立て続けに術中死が発生。原因不明の術中死と、メディアの注目を集める手術が重なる事態に危機感を抱いた病院長・高階は、神経内科教室の万年講師で、不定愁訴外来責任者・田口公平に内部調査を依頼しようと動いていた。壊滅寸前の大学病院の現状。医療現場の危機的状況。そしてチーム・バチスタ・メンバーの相克と因縁。医療過誤か、殺人か。遺体は何を語るのか……。栄光のチーム・バチスタの裏側に隠されたもう一つの顔とは。(本書カバーより)~~

※第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作(応募時はチーム・バチスタの崩壊)

 帯に「医療小説界に伊良部一郎以上の変人キャラが登場した!」と書いてあったので、気軽に読めるかと思ったが、まず目に飛び込んできたのが難解な医学用語のオンパレード。危うく挫折しかかった本である。医療ミステリーなので仕方がないのだが……少し引用してみよう。ある医師に研究テーマを聞くくだりである。「垣谷先生の研究テーマはなんですか」「胸部解離性大動脈瘤グラフト手術における器質化を促進する因子について。但し、最近は周りからはバチスタがメインだと思われているがね」垣谷は、自嘲気味に答える。「どんな内容ですか」「グラフト置換した血管壁の内腔の平滑度を画像診断から判断する。それと、いくつかの生化学的な因子を計測し、相関を見つける」……『ちんぷんかんぷん』とはこの事だ。医者や看護師なら理解が出来るのだろうが、こっちはど素人である。なんとかならんか海堂さん!まあ、登場人物の殆どが医療関係者で、しかも著者の海堂尊さんは現役のお医者さん。このような記述になってしまうのは仕方がないか。とはいえ、さらっと流し読みをしても十分に本筋を理解できるし、現役の医者だからこそ書けた本物のリアリティがそこにはあった。物語の中心が聞き取り調査なので、患者の話を聞く事に長けている神経内科の田口と応用心理学を使いこなす厚生省の役人白鳥という2人の仕事を上手く当てはめたなと感心した。白鳥が使う心理学のテクニック「アクティヴ・フェーズ」、「パッシヴ・フェーズ」が物語の重要な役割を示すので、このくだりは熟読しておいた方が良い。一見難しそうだが、白鳥が実例を示しながら、教えてくれるので理解できるだろう。話が急転し、犯人を取り押さえるまでの部分は緊迫感、スピード感が溢れ、思わず引き込まれてしまった。話が堅くなりがちな医療小説だが、白鳥の変人キャラで息抜きをさせてくれるので、バランス良く仕上がっている。その他の登場人物全員にスポットを当て、それぞれ丁寧に書き込んであるので、チョイ役の人間でも親しみを持てるのが印象的。医学用語、医者同士の会話を我慢して読めば、楽しめる作品である。評価★★★★☆(5段階)
 
 最後に文章の誤りを発見。179ページの5行目から10行目の間で高階病院長が田口に白鳥を紹介するセリフがあるが、同じ意味の記述が2つある。おそらく著者が消し忘れたのだろう。いやらしい性格だが、ちょっと嬉しくなった瞬間である。

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