『フェルメールになれなかった男―20世紀最大の贋作事件』
(原題:I Was Vermeer―The Rise and Fall of the Twentieth Century's Greatest Forger)
フランク・ウイン (著)
小林頼子、池田みゆき (翻訳)
筑摩書房
2014
以前にもブログで触れたフェルメールの贋作者ハン・ファン・メーヘレンの物語。
数年前にハードカバーで出版されたものが、今年の3月に文庫化された。
芸術作品の真贋をめぐる議論は、美術という世界に存在する根本的な問題点を照らし出している。
ミステリー小説のような興奮と、ジャーナリストの著者による確かな筆致を味わうことのできる一冊だ。
良書といっていいだろう。
本書における最大の教訓は、これ。
「市場の価格は、いかに大枚が動こうが、真作の証明ではない」(389頁)
では、メーヘレンの手による〈フェルメール作品〉のうち、最高傑作といわれるものを載せておこう。
《エマオの食事》 (1937、ボイマンス美術館[オランダ])
いまとなってはなぜ並み居る専門家たちがすっかり騙されてしまったのか不思議なくらい、この〈傑作〉には、フェルメールの、あのなんともいいようのない〈クオリア〉が欠けている。
しかしもしメーヘレンの自白がなかったならば、我々がまだ〈騙されて〉いる可能性だってある。
必ずしも、我々の審美眼が当時の専門家のそれを上回っているわけではないのだ。
実際、現在多くの美術館に展示されている〈巨匠〉の絵画のいったい何点が真作なのか、また何点〈真作〉だと思って鑑賞者が崇めていることか、わかったものではない。
では最後に、〈贋作〉関連でこの絵画を。
先日会期が終了した「ラファエル前派展」にも展示されていたヘンリー・ウォリスの代表作である。
ちなみに、この絵画自体は、〈贋作〉ではない
(おそらく)。