文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

少年活劇路線のエッセンスを少女漫画に溶解させた『消えた少女』

2017-11-19 04:13:24 | 第1章

『消えた少女』(曙出版、57年8月20日発行)は、犯罪に巻き込まれた一人の少女が誘拐されたことによって展開されるサスペンスアクション。

スタジアムで野球観戦に興じていたエリ子とその兄の大三は、試合観戦後、スタジアム近くの路上でスリに遭遇する。

その後、エリ子と大三は喫茶店に立ち寄り、試合結果の賭けに負けたエリ子が、会計を済まそうとバッグを開けると、そのバッグの中には、身に覚えのない大金が入っていた。

その大金は、先程のスリが証拠隠滅のために、エリ子のバッグに忍ばせたものであった。

大三は、その金を警察に届けようとし、先にエリ子をタクシーで自宅へと帰らせるが、エリ子の乗ったタクシーは、不審な車に追跡され、エリ子が自宅前に到着したその時、追跡車輌から降り立ったスリ一味にその身を拐かされてしまう。

その夜、身代金を要求するスリ一味からの電話が、エリ子の自宅に掛かってくる。

警察は、スリ一味の指示通り、身代金を用意させ、エリ子の父を指定の場所へと向かわせるが、思わぬ行き違いにより、取引現場にやってきた犯人の一人を取り逃してしまう。

それから数日後、エリ子の身の危険を案じ、エリ子のボーイフレンド、勇二とともに次なる対策を考えていた大三は、我が家を覗き見しようとしている、身に覚えのある男の姿を発見する。

その男は犯人グループの一味で、警察の動向を探るべく、エリ子の自宅を偵察にやって来たのだ。

この男の後を付ければ、犯人の隠れ家、延いては、エリ子の居場所がわかると判断した大三は、勇二にタクシーで男の車を追跡させるが、その行く手には、勇二をも誘拐しようとする犯人一味の恐るべき策略が待ち受けていた……。

エリ子と勇二の運命は如何に……?

少女漫画でありながら、正義感溢れる勇敢な少年が、拐われた少女を救うべく、果敢に悪漢どもと対決し、活躍するという少年活劇路線のエッセンスを少女漫画に持ち込んだ意欲的な一作であり、スピーディー且つキレの良いカッティングが、犯人一味との息詰まる攻防を緊迫感一杯に盛り上げている。

謎解きへの証拠付けとなる布石や伏線を磐石としたサスペンス本来の醍醐味とは趣の違う、成り行きの緊張感のみにドラマの展開を委ねた異端の少女ミステリーであるが、犯人を追跡する勇二少年に次々と襲い掛かる巧妙な罠や、不安感を募らす戦慄の連続によって、読む者の目をラストまで釘付けにするテンポの良いプロットの数珠繋ぎが、ドラマのスリル感を加速度的に高めてゆくなど、作品としてのクオリティは極めて高く、良質の冒険小説にも匹敵する興奮と愉悦を確保した奇跡の一本と呼べるだろう。

尚、同時期に赤塚は「少女ブック」の別冊付録(57年12月号)に『うごく肖像画』という傑作短編を執筆している。

古い洋館を舞台に、ナポレオンの肖像画を巡って起こる怪奇現象をモチーフとした少女ミステリーで、ドラマのラストには、予測不能の大どんでん返しが読者を待ち構えている。

これまで単行本収録を見送られてきた、まさに幻の傑作であり、今後赤塚作品のアンソロジー集が刊行される際、資料的価値をも超える作品としてのそのバリューが認められ、収録作品の一つとして陽の目を見ることを切に願う次第だ。


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