『おでんクシの助』同様、アケボノコミックス『赤塚不二夫全集』第21巻に併録された『荒野のデクの棒』(「週刊少年キング」68年34号~37号)は、戦いにより鼻を奪われ、顔面崩壊した過去を持つガンマンのデクの棒が、持ち前の機転の良さと奇想天外なガン捌きで、世に蔓延る悪漢達をバタバタと倒しながら、賞金稼ぎをしてゆく『荒野の用心棒』(監督/セルシオ・レオーネ・主演/クリント・イーストウッド)を元ネタとした、全四話の連作からなるハレンチウエスタン。
敵の目玉や鼻を根刮ぎ奪い、立体福笑いを売り出そうと画策するネコソギキッド、頭蓋骨に巨大な砲弾がめり込み、パラノイアに憑かれてしまったシルクハットのバーカー等、シュールでアブノーマルな登場人物達と繰り広げる、幼児性を孕んだキュリアスな応酬が、ドラッギーなLSD感覚を醸し出し、恰も別の赤塚ワールドに足を踏み入れさせるかのように、読む者に幻覚類似的な陶酔感を与える。
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「キング」で発表したその他の作品では、憎き猫面の大家の家を車で突っ込んでぶっ壊したり、被害妄想から町内の住民達の生活までも理不尽な加虐で蹂躙してゆく、鶏そっくりな風変わりな一家の日常を面白可笑しく描いた連作『にわとり一家』(69年2号~6号)や、頭を叩くと、想像したものが物体として出てくるという不思議な人間と、心優しいクズ屋の親子との交流を軸に、人間の欲望の浅ましさを、童話特有の啓蒙的示唆を強めて問い掛けた『何がでるか⁉』(68年17号)、従来の浦島伝説をナンセンスな視点からパロディー化した『浦島くん』(68年21号)があり、いずれも、剽逸且つシュールな発想を生き生きと具現化しつつ、絶妙なギャグの間と肩透かしを浮き立てた、遜色ない赤塚ルーティンに仕上げた。
中でも、とあるやんごとなき理由から、突然人間の涙が必要となり、竜宮城の王様から人間を連れて来るように命じられた不良ガメが、浦島くんを唆し、竜宮城へと拉致するも、浦島くんが思い通りに泣こうとしないため、竜宮城の面々が四苦八苦したり、最後にブチ切れた浦島くんによって、不良ガメが甲羅を剥ぎ取られ、蛇にされてしまうなど、「浦島太郎」本来の物語のイメージと峻別した『浦島くん』におけるその修辞技法は、童話や児童文学への狭義的解釈とはまた違った、現実世界への新たな発見的認識をもたらす苦味と香りを放ち、ドラマそのものに、後の『ハレンチ名作シリーズ』へとリンクしてゆく、機智と逆説に富んだアレゴリーを宿すこととなった。