珍道中物は、赤塚にとって、自作に取り込みやすい格好のテーマだったのだろうか。
『風のカラッペ』の布石とも言うべき、日常を異化した放浪型コメディーを先行して二タイトル、「週刊少年キング」誌上にて執筆する。
1968年のお正月号(2・3号)の特別読み切りとして発表された『おでんクシの助』は、おでん串型の槍を片手に日本全国武者修行の旅を続ける足軽くんの活躍を綴った股旅物で、杉浦茂的世界観のとぼけた味わいを、現代のギャグ的視点に特化して笑い飛ばすパロディックな遊び心が、誌面一杯に注がれた実験応用作だ。
杉浦作品の人気者・ドロンちび丸や猿飛佐助を彷彿とさせるキャラクターメイクが施された足軽くんは、後に『天才バカボン』で圧倒的な存在感を際立たせるレレレのおじさんよりも、一足早く杉浦的センスにアプローチしたオマージュキャラクターと言えるだろう。
1960年代に入ると、漫画文化の急激な進化と発展に伴い、旧世代の漫画家の多くは、ことごとく淘汰され、コミックシーンの第一線から離脱してゆく……。
それは、赤塚がリスペクトする杉浦茂も例外ではなかった。
そんな一抹の寂しさからか、赤塚の意識に、戦後ナンセンス漫画の原点でもある杉浦作品の面白さを、現代の子供達に伝承したいという想いが芽生えたのかも知れない。
それを証拠付けるかのように、ファンクラブ会報誌『おそ松くんブック』の発展形である新書版型の小冊子「まんが№1」(全7号/67年~68年発行)を、フジオ・プロが刊行した際、赤塚は杉浦に執筆を依頼し、『ミフネさん』(第3号)、『バイトくん』(第5号)といった杉浦漫画の新作を掲載させたこともあった。
山賊に拐われたお姫様を救うべく地獄の死(四)丁目へと向かう足軽くんと、回転するプロペラちょんまげを頭に乗せた怪力入道・カンカラスタコラの助によるクイズや掛詞を巧みに使った特異なフレーズの遣り取りや、ナチュラルな着想を得て展開してゆく軽妙洒脱な忍術合戦は、杉浦茂を知る読者にしたら、思わずニヤリとさせられること間違いない。
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