サイノスΒという車は、とても思い出深い車だ。出会いの発端は、至極簡単、たまたま自動車販売店にあって、私にも買えそうな車だったということだ。
単身赴任の生活をするようになって、6年、4回目の転勤で、新潟で働くようになった時だ。私の人生の中で、唯一、電車通勤をすることになった。最寄の駅まで歩いて15分、それから途中で一回乗り継ぎ、勤務先の職場まで徒歩という、面倒といえば面倒、でも、極普通の通勤だ。ところが、冬になると、吹雪くことがあると聞かされ、一気に滅入った。なんで吹雪の中を15分もあるくのか?息子はポンコツでも一応、車を持たせ、車で通学させているのに、何で俺が歩かなくてはならないんだと思いながらの電車通勤を続けた。3ヶ月した頃に、たまたま息子が東京で研修があるとかで、1ヵ月くらい車を使わないことがあった。息子から車を借りて、車で通勤したところ、案の定、その便利さに虜になってしまい、ネット上で、安い車を探し始めた。トヨタのウィンダム(3000cc)が17万円という広告に魅せられ、販売店まで行ってみた。車は傷もなく、まあまあの代物で気に入ったが、諸費用を込めると、40万円を越えてしまう。とても私には買える代物ではなかった。「もっと安いのはないのか?」と店員に聞くと、オンボロのカローラ、サニーなどを見せてくれたが、どうも乗る気にならない。さらに、他の車を見せてもらうと、75000円のサイノスがあった。ルームミラーが壊れて落ちている外は、特に傷はなく、内装も綺麗だった。車検、諸費用全て込みで、20万円だという。即、購入することにした。
はじめはそれ程気に入った車ということではなかったが、乗ってみると、車にほとんどガタツところがなく、実に快調だった。たまたまダッシュボードの中の取り扱い説明書をめくってみると、中に、保険の領収書が挟まっていた。それを見ると、前の運転者が誰であるか、どういう人なのかということが分かった。18歳の女性、共済の保険なので、市役所等に勤める公務員というところまで分かった。それにしては、マニュアルで、オーディオも少し凝った物が付いていた。車好きの女性が通勤するようになって、親に買ってもらったのだろうと推察できた。内装が異様に綺麗だったということも、納得できた。車は若者向きのクーペスタイルで、マニュアル。とても家族で乗れる代物ではない。価格の安さも納得できた。息子に車を見せると、無言。息子が居候している妻の実家の人は、「ちょっと、若向き過ぎない?」と呆れられた。それでも、結局、この車との8年近い付き合いが始まったわけだ。
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