現場での塗装剥離作業最後の日、柿沼は張り切っていた。
カッパを着込んだ柿沼は、江藤が静止するのも聞かずにバラストタンクの中に入って行った。
「これまでも短時間ならお前たちを手伝って来たが、今日は一時間半、きっちりとガンを撃ってみようと思う!」
なんだか分からないが、部下四人と完全に苦楽を共にするのが彼の希望らしい。
「もう歳なんだからさぁ…」
江藤にそう言われたが柿沼は強く志願して、まるで戦場に赴くが如く岸壁を歩いて行った。右肩にウォータージェットガンを担ぎ大股で歩いて乗り込むのがB国海軍の強襲揚陸艦なので、雰囲気だけは迫力満点だ。
「ありゃ後で泣きが入るな」
江藤は苦笑いをしていた。
一時間半後、柿沼が船から出て来た。その表情を見ただけで、江藤は爆笑している。
「お前たちは凄いよ」
柿沼のおでこには、『疲労困憊』という文字が張り付いていた。
「もう、頼まれてもやらないからな」
柿沼は汚れたカッパのまま、岸壁にへたり込んだ。
「誰も最初から頼んどらへん。って言うか、やらんでええって言うたやろ」
江藤は関西弁で柿沼に言った。
「だから10分、15分だけ撃つのと、一時間半通して撃つのじゃ全然違うって、あれ程言ったのに」
江藤の言葉に、柿沼は素直に首だけでうんうんと頷いている。
「トモオ、おい!ちょっと飲み物を持って来て」
柿沼の醜態を見てクスクス笑っていたトモオに、江藤は飲み物を取りに行かせた。
「まあ、今日で作業は終わりだし、柿沼さんの気が済んだのならイイけどね」
江藤は笑いながら柿沼の肩を軽く叩いた。
「ちょ、ちょっと起こして」
江藤が柿沼を引っ張り起こす。どちらが上司なのか分からないが、二人は仲が良い。
私にはそれが少しうらやましかった。
二日後、私の車とKT社のワゴン、そして10トンロングトラックは、一路O県のS港を目指して走っていた。夕刻に出港するフェリーに乗るためだ。
来る時は、常務の渡と一緒だったので一等船室に部屋を取ったが、今回は全員で二等船室を取ることにした。
船の中に入ると閑散期だったせいか、私と柿沼、江藤、氷室、トモオ、シンジ、KT社のトラック運転手の七人で、二等船室は貸切みたいになってしまった。
約一ヵ月に及ぶ緊張感たっぷりの仕事から解放され、みんなで和やかに缶ビールを飲み、馬鹿な話をして盛り上がった。
ふいに江藤が私の隣にやって来て、そして言った。
「木田さん、次もこの仕事をやるんならまた呼んで下さい。ちょっとキツイけど、木田さんとならやりますよ」
「・・・ありがとうございます。なんかそう言われると嬉しいですね」
「俺、本当は木田さんとは口を利かないつもりだったんです」
私は江藤の言葉に驚いた。
「やっぱり現場で体を動かさない人に、あれこれ言われたく無かったんで。でも木田さんは一所懸命俺たちの為に動いてくれたからね」
「まあ僕も慣れて無いから、役に立ったかどうかは疑問だけどね」
「いや、普通の人よりも凄くやってくれたと思いますよ」
「ありがとう、僕もまた江藤さんと仕事がしたいなぁ」
「またやりましょうね!」
自分の中で良く分からない満足感が広がっていった。
このなんとも言えない感覚は、きっと現場仕事独特の感覚だろう。今までの営業の仕事で得られる満足感とは異なった感覚だ。もしかしたら自分にはこの仕事が向いているのかもしれない、とさえ私は思った。
夜中、二等船室の絨毯敷きの硬い床から、波のうねりと船のエンジンの振動が、僅かに伝わって来ていた。その揺れと振動は、疲れが染み出している私の体をさらにとろけさせた。
ぼーっとする頭の中で、私は漠然と考えていた。家に帰ったら映画を観に行こう、何故かそれがその時の私の思考回路だった。
それから七年後の2006年6月13日、強襲揚陸艦ベローウッドはリムパック06の標的艦となり、太平洋に沈没した。
カッパを着込んだ柿沼は、江藤が静止するのも聞かずにバラストタンクの中に入って行った。
「これまでも短時間ならお前たちを手伝って来たが、今日は一時間半、きっちりとガンを撃ってみようと思う!」
なんだか分からないが、部下四人と完全に苦楽を共にするのが彼の希望らしい。
「もう歳なんだからさぁ…」
江藤にそう言われたが柿沼は強く志願して、まるで戦場に赴くが如く岸壁を歩いて行った。右肩にウォータージェットガンを担ぎ大股で歩いて乗り込むのがB国海軍の強襲揚陸艦なので、雰囲気だけは迫力満点だ。
「ありゃ後で泣きが入るな」
江藤は苦笑いをしていた。
一時間半後、柿沼が船から出て来た。その表情を見ただけで、江藤は爆笑している。
「お前たちは凄いよ」
柿沼のおでこには、『疲労困憊』という文字が張り付いていた。
「もう、頼まれてもやらないからな」
柿沼は汚れたカッパのまま、岸壁にへたり込んだ。
「誰も最初から頼んどらへん。って言うか、やらんでええって言うたやろ」
江藤は関西弁で柿沼に言った。
「だから10分、15分だけ撃つのと、一時間半通して撃つのじゃ全然違うって、あれ程言ったのに」
江藤の言葉に、柿沼は素直に首だけでうんうんと頷いている。
「トモオ、おい!ちょっと飲み物を持って来て」
柿沼の醜態を見てクスクス笑っていたトモオに、江藤は飲み物を取りに行かせた。
「まあ、今日で作業は終わりだし、柿沼さんの気が済んだのならイイけどね」
江藤は笑いながら柿沼の肩を軽く叩いた。
「ちょ、ちょっと起こして」
江藤が柿沼を引っ張り起こす。どちらが上司なのか分からないが、二人は仲が良い。
私にはそれが少しうらやましかった。
二日後、私の車とKT社のワゴン、そして10トンロングトラックは、一路O県のS港を目指して走っていた。夕刻に出港するフェリーに乗るためだ。
来る時は、常務の渡と一緒だったので一等船室に部屋を取ったが、今回は全員で二等船室を取ることにした。
船の中に入ると閑散期だったせいか、私と柿沼、江藤、氷室、トモオ、シンジ、KT社のトラック運転手の七人で、二等船室は貸切みたいになってしまった。
約一ヵ月に及ぶ緊張感たっぷりの仕事から解放され、みんなで和やかに缶ビールを飲み、馬鹿な話をして盛り上がった。
ふいに江藤が私の隣にやって来て、そして言った。
「木田さん、次もこの仕事をやるんならまた呼んで下さい。ちょっとキツイけど、木田さんとならやりますよ」
「・・・ありがとうございます。なんかそう言われると嬉しいですね」
「俺、本当は木田さんとは口を利かないつもりだったんです」
私は江藤の言葉に驚いた。
「やっぱり現場で体を動かさない人に、あれこれ言われたく無かったんで。でも木田さんは一所懸命俺たちの為に動いてくれたからね」
「まあ僕も慣れて無いから、役に立ったかどうかは疑問だけどね」
「いや、普通の人よりも凄くやってくれたと思いますよ」
「ありがとう、僕もまた江藤さんと仕事がしたいなぁ」
「またやりましょうね!」
自分の中で良く分からない満足感が広がっていった。
このなんとも言えない感覚は、きっと現場仕事独特の感覚だろう。今までの営業の仕事で得られる満足感とは異なった感覚だ。もしかしたら自分にはこの仕事が向いているのかもしれない、とさえ私は思った。
夜中、二等船室の絨毯敷きの硬い床から、波のうねりと船のエンジンの振動が、僅かに伝わって来ていた。その揺れと振動は、疲れが染み出している私の体をさらにとろけさせた。
ぼーっとする頭の中で、私は漠然と考えていた。家に帰ったら映画を観に行こう、何故かそれがその時の私の思考回路だった。
それから七年後の2006年6月13日、強襲揚陸艦ベローウッドはリムパック06の標的艦となり、太平洋に沈没した。
船内では、その後「おひらき」の放送後も飲んでる
人がいたのでしょうね。次の現場までの余暇に
フィリピン産の色香を期待しております。(^^)
PS「おひらき」とは、船内放送でそろそろ就寝して
下さい的な意味で放送されるアナウンスです。
竹芝桟橋から神津島へ向かう船内で初めて聞きました。この船だけかもしれません・・・。
船内放送の「おひらき」というのは初めて聞きました。確か普通に「消灯時間です」だった気がします。
人にもよりますが、意外と職人さんたちは呑屋以外では、夜遅くまでバカ騒ぎはしません。やはり体が資本なので、大人しく寝てしまう人の方が多いです。普通の若者集団の方が騒々しいですね。
お色気?はまず和物から入る予定です(笑)
サク○イ君はきっとカミヤミさんのことを忘れられないと思いますよ