朝八時、S共同火力発電所内のプレハブ事務所で、全員で朝礼を行う。
今回、TH電力から直接工事を請けたTG工業の担当者は、田中だ。田中は温厚で物静かな人間なので、こちらも仕事がやり易い。
KYボード(危険予知の項目を書き入れる小型のホワイトボード)に本日の作業で予想される危険項目と、それに対する注意点を書き入れ、最後に指差し呼称で確認する。
「吊り具(ワイヤー等)の確認ヨイか!」
「吊り具の確認ヨシ!吊り具の確認ヨシ!吊り具の確認ヨシ!」
「ご安全に!」
「ご安全にぃ!」
だが、すぐには作業に入れない。またしても発電所からの新規入構者教育を受け、その後でようやく現場に入れるのだ。
退屈な新規入構者教育を受けると、全員でプレハブから現場に向かい、トラックから荷降ろしを行う。
「キーちゃん、どうだい、ハスキー(超高圧ポンプ)ちゃんの調子は!」
佐野がトラックから降ろしたばかりのハスキーのクランク部をパンパンと手で叩く。
「バッチリですよ、400時間メンテをやったばかりですからね」
「ベース(B軍基地)から戻って、あんまり時間が無かったんじゃないの?」
「ええ、だからお盆も二日しか(通常、建設業界のお盆休みは長いのが常識。出稼ぎの職人さんが、自宅でしっかりと休暇を取れる様にという意味もある)休んでいませんよ。しかも半端じゃなく暑いじゃないですか、だから夜中に仕事をしていたんですよ」
「夜中?」
「夜十一時からハスキーをばらし始めて、朝の五時までとか…」
「一人で?」
「もちろん。でもね、一度夜中に気が狂いそうになりましたよ。だってね、プランジャー(ピストン部)の部品を全部組み付けて、トルクレンチ(ナット等の締め付ける力を一定にするレンチ)も終わって、最後に冷却水ホースを繋ごうと思ったら、繋がらなかったんですよ」
「ん?なんで?」
私はクランクとプランジャーのジョイント部に指を置く。
「ここに金属のプレートがあるじゃないですか、これ、サブプレートって言うんですけど、これ、上下をひっくり返しても付いちゃうんですよ」
「お?おお、そうか、そうすると冷却水のエルボ(L字型の配管部品)も逆のまま取り付いちゃうんだ」
「ええ…、だから泣きそうになりましたよ、お盆の真夜中に。一人で工場の中で、巨大トルクレンチを持って、汗ダクダクになっているんですよ。しかも取り付けた部品が逆で、またプランジャーを全部バラすんですから…」
「あはははは、それは大変だったべ」
「本当に嫌になりましたね。でも、まあ、メンテナンスはきっちりやりましたから、今回は大丈夫ですよ。前回壊れたリレースイッチ(電磁石でオンオフを制御するスイッチ)も壊れ難い場所に移設してあるし、予備部品もありますからね」
「一年前と比較すると万全って訳だ」
「そうですね、僕のメンテナンス技術も少しは向上していますからね」
私は軽く胸を張って佐野に答えた。
「木田さん、荷降ろしは終わりましたか?」
ふと気付くと、田中が現場にやって来ていた。
「ええ、完了しました。ところで田中さん、施工範囲を確定させたいんですけど、イイですか?」
「う、うん、そうだね」
田中は排煙脱硫装置吸収塔を見上げて、ちょっとだけ辛そうな顔をしている。
今回の施工場所である排煙脱硫装置吸収塔は、最も高い部分では地上40mにも達する。もちろんエレベーターなんて物は存在せず、階段で上がるしか無い。やや太り気味な田中にとって、この40m分の階段が辛いのだろう。
「田中さん、キツイですね、今回の現場」
「う、うん。それは僕にとってもね…」
田中は意を決すると、地上40mに向かって階段を上がり始めた。
今回、TH電力から直接工事を請けたTG工業の担当者は、田中だ。田中は温厚で物静かな人間なので、こちらも仕事がやり易い。
KYボード(危険予知の項目を書き入れる小型のホワイトボード)に本日の作業で予想される危険項目と、それに対する注意点を書き入れ、最後に指差し呼称で確認する。
「吊り具(ワイヤー等)の確認ヨイか!」
「吊り具の確認ヨシ!吊り具の確認ヨシ!吊り具の確認ヨシ!」
「ご安全に!」
「ご安全にぃ!」
だが、すぐには作業に入れない。またしても発電所からの新規入構者教育を受け、その後でようやく現場に入れるのだ。
退屈な新規入構者教育を受けると、全員でプレハブから現場に向かい、トラックから荷降ろしを行う。
「キーちゃん、どうだい、ハスキー(超高圧ポンプ)ちゃんの調子は!」
佐野がトラックから降ろしたばかりのハスキーのクランク部をパンパンと手で叩く。
「バッチリですよ、400時間メンテをやったばかりですからね」
「ベース(B軍基地)から戻って、あんまり時間が無かったんじゃないの?」
「ええ、だからお盆も二日しか(通常、建設業界のお盆休みは長いのが常識。出稼ぎの職人さんが、自宅でしっかりと休暇を取れる様にという意味もある)休んでいませんよ。しかも半端じゃなく暑いじゃないですか、だから夜中に仕事をしていたんですよ」
「夜中?」
「夜十一時からハスキーをばらし始めて、朝の五時までとか…」
「一人で?」
「もちろん。でもね、一度夜中に気が狂いそうになりましたよ。だってね、プランジャー(ピストン部)の部品を全部組み付けて、トルクレンチ(ナット等の締め付ける力を一定にするレンチ)も終わって、最後に冷却水ホースを繋ごうと思ったら、繋がらなかったんですよ」
「ん?なんで?」
私はクランクとプランジャーのジョイント部に指を置く。
「ここに金属のプレートがあるじゃないですか、これ、サブプレートって言うんですけど、これ、上下をひっくり返しても付いちゃうんですよ」
「お?おお、そうか、そうすると冷却水のエルボ(L字型の配管部品)も逆のまま取り付いちゃうんだ」
「ええ…、だから泣きそうになりましたよ、お盆の真夜中に。一人で工場の中で、巨大トルクレンチを持って、汗ダクダクになっているんですよ。しかも取り付けた部品が逆で、またプランジャーを全部バラすんですから…」
「あはははは、それは大変だったべ」
「本当に嫌になりましたね。でも、まあ、メンテナンスはきっちりやりましたから、今回は大丈夫ですよ。前回壊れたリレースイッチ(電磁石でオンオフを制御するスイッチ)も壊れ難い場所に移設してあるし、予備部品もありますからね」
「一年前と比較すると万全って訳だ」
「そうですね、僕のメンテナンス技術も少しは向上していますからね」
私は軽く胸を張って佐野に答えた。
「木田さん、荷降ろしは終わりましたか?」
ふと気付くと、田中が現場にやって来ていた。
「ええ、完了しました。ところで田中さん、施工範囲を確定させたいんですけど、イイですか?」
「う、うん、そうだね」
田中は排煙脱硫装置吸収塔を見上げて、ちょっとだけ辛そうな顔をしている。
今回の施工場所である排煙脱硫装置吸収塔は、最も高い部分では地上40mにも達する。もちろんエレベーターなんて物は存在せず、階段で上がるしか無い。やや太り気味な田中にとって、この40m分の階段が辛いのだろう。
「田中さん、キツイですね、今回の現場」
「う、うん。それは僕にとってもね…」
田中は意を決すると、地上40mに向かって階段を上がり始めた。
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