どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ319

2008-10-18 23:58:29 | 剥離人
 いつの間にか休憩所では、『私はあの人を知っている!』という話のネタで、盛り上がりを見せていた。

「俺がノリ子の事を?知らないと思うけどなぁ…」
 ハルは全く心当たりが無いらしかった。
「いや、それがあるんだよ」
 佐野は再びタバコを一吸いすると、楽しそうに話し始めた。
「去年さ、ノリはこの現場で始めてハルちゃんに会ったんだよ」
「ええ」
「その時ノリは、ハルちゃんを見てすぐに分かったらしいよ」
「本当によぉ?」
 ハルはニヤニヤとしながらも、あまり信じていない様子だ。
「ノリが中学生の頃なんだけど、ハルちゃんって結構有名だったでしょ、地元で」
 ハルは何を思い出しているのか、ちょっと返事に詰まりながら、佐野の質問に答え始めた。
「ま、まあ確かにちょっと悪かったからね、昔は…」
 今でも、身長180cm、体重90kgの体格に金髪頭のハルは、知らない人が見たら十分怖い人かもしれない。
「ノリはその頃街の中で、ハルちゃんに絡まれたらしいよ」
「ええ!?ハルさん、ノリちゃんに絡んでたの?」
「い、いや、ええー?本当によぉ?」
 どうもハルは、心当たりが無いのでは無く、有り過ぎて憶えていない様な雰囲気だ。
「うはははは!ハルさん、それはマズイでしょ」
「うひょひょひょ、いや、俺は覚えてないんだよ!」
 ハルは笑いながら、必死に誤魔化そうとしているが、佐野がさらに畳み掛ける。
「それでさ、その時のハルちゃんは、ベロベロに酔ってて、メチャメチャ怖かったらしいよ。しかも昼間!」
「うははははは!昼間に街中でベロンベロンはマズイでしょ」
「ええー、い、いやぁ…」
 佐野は楽しそうに体を揺すり、ハルは幾分小さくなっている。
「っちゃあ…、それ、本当に俺だったのよぉ?」
 ハルは笑いながら、佐野に対して最後の抵抗をする。
「だってハルちゃんさ、その頃から何件も呑み屋を出入禁止になっていて、Y市界隈じゃ結構有名人だったらしいじゃん。『だから絶対に間違いありません!』って、ノリが断言してたぞ。いじめられっ子の記憶力って、結構凄いからなぁ、まぁ間違い無いべ」
 佐野の止めに、ハルは完全に降参した様で、素直に認め始めた。
「いやぁ、俺はそれがノリ子かどうかも全然憶えていないけど、確かに昔はそういう時期があったからね」
「へぇー、今の姿からは想像も出来ないけど、ハルさんって昔はそんな感じだったんですね」
 私はしどろもどろのハルに、突っ込みを入れる。
「いやぁ、参っちゃったねハルちゃんも。しかし、まさかノリ子と会っていたなんてなぁ」
「あれ?でもどうしてノリちゃんは、その事をずっと言わなかったんですか?」
 佐野はさらにニヤリとする。
「それはね、最初、旅館でハルちゃんの事を見た瞬間に、『あ、あの時僕に絡んできたハルって人だ!』って思い出したらしいけど、怖くて言い出せなかったらしいよ」
「うはははは、もしかしてそのまま言いそびれて?」
「うん、そう。だから俺が今日代わりに言ってるんだよ」
「うははははは!まさかそんな事を思っていたなんて、全然知りませんでしたよ」
 私は爆笑し、ハルはバツが悪そうにしている。
「ま、もう十分に時効だべ」
 佐野は軽くハルに助け舟を出しながら、タバコを揉み消して椅子から立ち上がる。
「いやぁ、ホントにねぇ、世の中は狭いってことだね」
 ハルは苦笑いをしながら、何を反省しているのかは分からないが、そういう雰囲気を醸し出していた。

 私が昔のハルと会っていたら、間違いなく絡まれていただろうと思い、私は今の比較的温和なハルと出会えた事を、誰とも無く深く感謝をした。


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