どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ427

2009-04-14 08:48:28 | 剥離人
 一番最初の二日間、フォークリフトが来なかったことによりブラブラと遊んでいたツケが回って来たのか、それとも雨が原因なのか、我々の作業は日増しに残業が多くなって行った。

 朝の八時から夜の八時まではザラで、場合によっては夜の九時まで作業を行う事もある。
「よし、段取換えをすんべぇ!」
 などと夜の七時に幸四郎に言われると、作業員は全員ゲッソリとする。屋外での肉体労働における残業は、デスクワークの残業に比べると直接的疲労度が遥かに大きいからだ。

 一日中強い太陽光線が照りつける甲板の上で作業をし、さらに自分の足元の鉄板が焼かれて熱くなり、太陽光線まで反射してくれる。立っているだけでも汗がダラダラと出て、その状態を放置すれば体の脱水症状がさらに進んで行く。そうかと言って水だけをガブガブと飲むと頭がぼーっとし、疲労度はさらに加速する。
 これを防ぐために、私は常に塩味のせんべいと、温くなったボルヴィックをコンテナに常備していた。塩分とエネルギーの補給は絶対条件だし、冷やした飲料は内臓への負荷が大きすぎるからだ。
 休憩時間に自販機の飲料を飲むときは、あえて『ネクター』を選び、これを噛む様にじっくりと飲む。これは糖分の補給を目的としている。
 この様に常に自分の体調を気遣わなければ、朝の三時まで酒を飲んだ上で十数時間の肉体労働をこなす事など、到底出来はしないのだ。

 ここまで体調を気遣っていても、やはり工事が進むと疲れが溜まって来る。それは一晩寝た程度では取れない様な疲労感なのだ。
 追い討ちを掛ける様に今度は早出までが始まり、朝の七時から作業を開始するようになる。朝の七時から夜の九時までとか、朝の八時から夜の十時までというふざけた時間、肉体労働を行うと、もはや自分が疲れているのかさえも分からなくなって来るのだ。
 そして人間は疲労が蓄積すると判断力が低下し、普段はやらないような行動を取ることがある。

 その日、私は艦内へのスロープを上る為に、岸壁で立ち止まっていた。