ポートランド日記

米オレゴン州ポートランドでの生活模様

オチョアで思うこと

2009年02月24日 | レストラン
ポートランドにはメキシコ料理のお店が山ほどある。これはポートランドに限らず、全米全般にも言えることらしいのだけど、どうしてそんなに人気なの?友人に理由を聞いてみたところ、ある人は「メキシコ料理は油をたっぷり使ってる上、チーズもたっぷりだから、元々味がアメリカ人好みなんじゃない?」と言っていたけれど、他の人の言う「絶対的に地理的に近いから」が一番の要因なように思われる。確かにメキシコとは、北米の南の国境を共有しているけれど、じゃぁ北の国境を接してるカナダはどうかと言えば、カナダ料理のお店は殆ど見かけない。これはやっぱりカナダもアメリカ同様、世界的に見ると歴史の浅い新興移民国で、「これ!」というお国の食べ物がないから、がその理由だと思われる。その点、メキシコはマヤ・アステカ文明という2大世界的文明が開花し、オルメカ文明に至っては紀元前12世紀に発祥しているから、歴史の長さがまったく違う。

ポートランド市内にいると、殆ど南米系の人に会うことはないが、アメリカ最大のマイノリティ(=少数派)と言われるヒスパニック系(=主にスペイン語圏の南米人)である彼らは、市の郊外に住んでいる。この冬休み、ひょんなことから、彼らに遭遇することになった。

それは大雪に閉ざされ予定のない冬休みの日曜日。とりあえず稼動している公共交通である路面電車MAXに乗って、西の終点であるヒルズボロという土地に行ってみることに。ここには日本食の居酒屋があるということで、ランチを食べにいくというも目的も。

車窓からは、市街を離れるに比例して、街並みがどんどん郊外化していくのがわかった。市街から約30分、終点の駅に降り立ってみたけれど、大雪のため殆ど人が歩いてない!しかも、お店も閉まってて、お目当ての日本食屋さんも日曜は夜からの営業でランチ時は閉店(涙)

空腹を抱え、人影のない通りを彷徨っていると、モクモクと煙を上げてBBQしているお店を発見!空腹には勝てず、看板にでかでかと“OCHOA(オチョア)”という文字と、メキシカン・ハットを被った男の子のイラストが描かれた倉庫のようなお店に突入!

中に入ってみると、思いっきりローカル!お昼時で既にお店は結構繁盛しているのだけど、従業員もお客も殆どがヒスパニック系。お客は思い思いにおいしそうな料理を食べていて、早く食事にありつきたいけど、注文をするにも英語での意思疎通は完全不可。お店のお姉さんにスペイン語でまくし立てられる始末(涙)何とかメニューの写真を指し指し注文。私は今まで日本でも海外でも、メキシコ料理という物をちゃんと食べた記憶がなかったので、定番のタコスと“本日の定食”のようなプレートを注文。

実際に料理が運ばれてくると…まずそのボリュームに圧倒される。大人の顔の半分もあるタコスが4つも乗って5ドル!かぶりついてみると、タコスの生地は柔らかではなく、油で揚げてありカリッとしている。中にはチキン、野菜の千切り、チーズがたっぷり入っていて、その上からマヨネーズ系のこってりソースが満遍なく掛けられている。さらに写真の日替わりプレートは、外で焼いていた牛のBBQと、なす&チーズのフリッターに、さっきと同じ大きさのタコスが2つも付いている。かなり油っぽいけど、でも味はおいしい!!チーズとこってりソースでくどいけど、でもタコスの生地がカリカリで結構食べれてしまう。

お店の中央にはTVが置かれていて、スペイン語で話の内容は全くわからないが、日本の吉本新喜劇のノリなのか、見るからにおバカ&ドタバタ喜劇っぽいドラマが放映されている。しかし、お客はTVに釘付け状態。我々には、番組に真剣な彼らの表情を見ているほうが面白い(笑)しかし、クリスチャンである彼らにとって神聖な安息日である日曜日に、家族と一緒に外食して、コメディを見る。これが彼らの一種の楽しみなのかもしれない。

ただ時々、こんな思いっきりローカルな店に迷い込んだスペイン語も話せないアジア人のカップルに、お客も興味深々な目線を送ってくるが、目が合うと、照れたようにはにかんで視線をそらしてしまう。なかなかシャイな人々のようだ。店員さんも忙しそうだけど、親切だったし、アラブ人に通じる人間としての素朴さを垣間見た気がした。

食事を終え、ヒルズボロを去る頃には街に人影を見ることができたが、やっぱり殆どがヒスパニック系。

この日以後、ヒルズボロという郊外の都市がヒスパニック系が多く住む街であると知り、またその数日後、この経済不況のあおりを受け、同地にあるインテルの工場が1000人のレイオフ(人員削減)を決定したというニュースを知った。どこの企業も、この不景気での生き残りを掛けて、多くの従業員の人員削減に直面しているが、やはり真っ先に足を切られるのは、外国人や少数派といった彼らなのだろう。

また最近、英語の勉強がてらレンタルビデオを借りて見ているドラマがあって、NHKが版権を買って日本でも放映している、ABC放送の「アグリ・ベティ」というのだが、ヒスパニック系のサエない女の子が、NYのファッション出版社で秘書として奮闘する内容だけれど、同時にメキシコ人である父や彼女達が生きるマンハッタンとは全く別のNYの生活事情が反映されていたりと、ドラマを通じて在米ヒスパニック系の社会状況が見えてきて、なかなか興味深い。

なお、アメリカ建国以来、大挙してやってきた西欧白人系の子孫達(いわゆるマジョリティ)と比較すると、概して社会の日陰的存在であるヒスパニック系の中でも、在米メキシコ人の持つ影響力というのは他の南米人を圧倒しているらしい。私などはメキシコ人もペルー人もアルゼンチン人も区別が付かず、スペイン語とポルトガル語の違いさえ分からないが、ある雑誌の記事によると、歴史的にも地理的にもアメリカとの関係が強いメキシコ人は、白人系とは別のそれなりの社会的地位を有しており(その一例がメキシコ料理屋の多さ)、他の南米人はメキシコ人であるとウソをついて、メキシコ方言のスペイン語を話し続けないとメキシコ系雇用者から職にありつけない、というケースも多々あるとのこと。南米人同士の間にも差別意識や影響力の違いというものがあるらしい。

今までの私の人生で殆ど会うことのなかった、ラテン・アメリカ人たち。友人によると、上記レストランの「オチョア」とは「キレイな花」という意味らしいが、あの日の偶発的なヒスパニック系コミュニティへの突撃により、少しずつ彼らや彼らの社会について知るようになった。


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