木全賢のデザイン相談室

デザインコンサルタント木全賢(きまたけん)のブログ

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書評「地球のためのデザイン」

2008年04月29日 | デザイン系書評100連発
<「地球のためのデザイン」パパネック著>


◆書評「地球のためのデザイン」
【書評4】


 こんにちは!「工業デザイン相談室」木全(キマタ)です。デザイナーの実像・デザイナーとの付合い方・デザイナーとのトラブル回避法など書いていきます。御相談がありましたら、コメントをくださいね。

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 年が明けて、青色申告に四苦八苦していたと思ったら、もう黄金週間。月日の経つのは本当に早いです。このブログもスタートから2年半経ち、記事も170本になりました。日々の積み重ねが大事ですね。(青色申告も毎日帳簿をつけていれば、四苦八苦しないのに。。。苦)

 昨年の黄金週間のときにヴィクター・パパネックの「生きのびるためのデザイン」についての書評を書きました。今年はその続きで同じくパパネックの「地球のためのデザイン」について書いてみようと思います。

 工業デザイナーの方で、もし、まだ「生きのびるためのデザイン」を読んでいない方がいらっしゃいましたら、是非読んでください。自分の仕事が、世の中にどのように役に立ちうるのか、工業デザイナーが何をしなければならないのか、わかります。


パパネックの本は読みづらい?

 パパネックの本は、工業デザイナーにとってとても重要なことが書いてあるのですが、確かに少し読みづらい面があります。

 それは仕方のない面があります。と言うのも、デザインとは正解のない仕事であり、常にケースバイケースです。パパネックのように世界中を飛び回り、数多くのプロジェクトに係ってくると、そのたびごとに新たな発見があり、その場所、その時、その人達にしか当てはまらない正解があり、それらの全体像を一冊の本にまとめようとしても、なかなか納めることができません。話題と経験が豊富すぎて、話があちこちに飛んでしまうのです。

 それに、デザインは人の心にかかわる問題でもあるため、さまざまな立場のことを考えると、常に二律背反の様相を呈してしまい、あちらを立てればこちらが立たないということになってしまうため、結論があるようなないような微妙な論議をせざるを得ません。

 例えば、「地球のためのデザイン」の第3章「デザインにおける精神性にむかって」の冒頭で、バウハウスのデザインについて結構痛烈な批判をしています。

 『機能がよければ、それは美しい』と、彼らは言うが、「『うまく機能すればそれは美しい』という言い分に問いかけをしたい。『何がどううまく機能するか?どのように美しいか?どんな文脈で機能を美と言っているか?』」

 そして、皮肉を込めて、結局、バウハウスデザインは当時の高級ブルジョアジーに受け入れられただけであり、作られた当時は全く新しいものであったマルセル・ブロイヤーのスチールパイプ椅子が、現代では、その子孫達が場末のカフェーで安っぽい姿になっていると指摘しています。

 バウハウスデザインは、「装飾のない」「冷ややかな優雅さ」を表してはいるが、一般の人々にとって装飾は、常に喜びであったはずだと指摘しています。でも、そのすぐ後に、次のように、バウハウスデザインの擁護をしています。

 「われわれが、外観から『美しくする』ことを諦めざるを得ないのは、われわれがデザインにおける生き残りの条件に係わっている時のみであり、その時にわれわれが満足感を体験できるようなダイナミックな形態が生み出される。」

 これは「外観から『美しくする』ことを諦めざるを得ない」という否定的な言い回しではあるけれど、バウハウスの手法に則って計画的にモノの形を決めていくと、「満足感を体験できるようなダイナミックな形態が生み出される」のだと言っているわけで、ブロイヤーのパイプ椅子が、場末であろうと今後も「そのデザインが生き残っていく」ことを認めていることになります。

 バウハウスデザインの思想を否定しつつも、それがダイナミックな形態を生み出し得たことを認めるという立場は、なかなか微妙なものがあります。パパネックの様々な経験の列記と相まって、この微妙なスタンスが随所に現れていることが、パパネックの著作のわかりにくさにつながっています。


親分の「本物の情報」

 しかし、パパネックの本は上のことを理解して、キーワードさえ押さえれば、決して読みにくい本ではありません。そして、「地球のためのデザイン」のキーワードはそんなに多くありません。

 環境とエコロジー
 ヒューマンスケール(身の丈にあわせる)
 本物の情報が大切
 生活の質(クオリティオブライフ)
 美しさと精神性
 楽しさとつかの間の命
 解体に配慮したデザイン(DFD)
 デザインは高潔な意思と行為

 1995年に発行された本です。その年は、地球温暖化対策の京都議定書の排出物の基準年になっている年であり、環境問題が世界的に取り上げられ始めた時期ですので、テーマ自体はすでに新しいものではありませんでした。キーワードをつなげれば、大体何を言おうとしているかわかると思います。

 しかし、この本の凄さは、「本物の情報」にあります。
 
 この本には、上のキーワードにまつわる「本物の情報」がぎっしりと詰まっています。先ほど、「話題と経験が豊富すぎて、話があちこちに飛んでしまう」と書いたのですが、パパネックはその「豊富な話題と経験」という「本物の情報」をできるだけたくさん伝えることこそが、重要だと考えているのだと思います。

 それぞれのデザインにまつわる情報は、その場所、その時、その人達にしか当てはまらないかもしれないけれど、そういう事実があったのだ、そういう「本物の情報」をたくさんつなぎ合わせていくと、おのずと工業デザイナーの進むべき道が見えてくるはずだ。本の役割は「本物の情報」を伝えることであり、その先は読者自身が考えなければならない。

 こういうちょっと突き放した書き方も取っ付きづらさを増しているかもしれませんが、この本は、全体を把握してデザインをわかるための本ではありません。

 われわれ下っ端は、パパネック親分の説教話を聞いていればいいんだと思います。「芸は教えてもらうもんじゃねえ、見て盗むんだよ」ということでしょう。この本には、見ても盗みきれないほどたくさんの「本物の情報」が詰め込まれています。

 ときどき読み返えせば、その時にふさわしいアドバイスが得られるはずです。

 この本は、ヴィクター・パパネック氏の絶筆です。われわれはもうパパネック親分の新しい説教話を聞くことができなくなってしまいました。(合掌)


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