時間とは、道のりと速さがあれば求められる。いわゆる、中学校でやった計算式だ。時間旅行者とは、つまり、時間という道を旅しているにすぎないのである。
――――なんて簡単な話しだったりする。
夕焼け空には、にじんだ飛行機雲が直線を引いていて。どうやら僕は、懐かしさを感じているらしいのだ。ずっとここにいたいような気さえする。
公園のベンチの上に。この時代に。彼女のそばに。
この時代の彼女は、まだ高校生だった。そして、今の僕は四十二歳の中年オヤジ。年齢は変わらないはずだったのに、二十五歳の年の差だ。
大きな瞳の下にある泣きぼくろが、コンプレックスだと感じていた。僕は、その姿を見るのがとても好きで。良くからかって遊んでいた。
「あの、今日は楽しかったですか?」
「ああ。あのパフェはおいしかったかな」
この時代にしか存在しない、幻のストロベリーパフェ。
「本当に、未来には苺が絶滅してるんですか?」
そういえば、君は苺が食べれなくなった時、非常に微妙な顔をして「しかたない。運命ならね」と笑っていた気がする。あの眉の曲げ方は、きっと悔しかったんだろう。
「今のうちにたくさん食べるといい」
「そうですね」
素直なように、深くうなずいた彼女は、いつか僕に見せてくれたような、白色電灯のような笑顔をしていた。「うわっ、眩しい」こう言えば、君は悪口を言われたと頬を膨らませたものだった。
「未来の話しをもっとしてもらえないですか?」
「君は、僕が時間旅行者というのを信じているのか?」
「はい」
呆れるくらい純真な子だ。
「そうか。未来は、あまり変わらない。人も世界も。相変わらず、運命を信じたり、現実に目を向けられなかったり、救えない命がたくさんある」
「ロボットとかは、どうなっているんですか?」
「ロボットは、そうだね。僕の生きていた時代には、AIもARも進歩していて、いや、難しい話しだ。それより、僕が質問してもいいかな」
彼女はきょとんとして、こくりとうなづく。
「僕のことを最初どう思った?」
僕の真剣な表情に、彼女は異変を感じたのだろう。背筋を伸ばした。
「泣きそうだと思いました。だから、声をかけたんです」
「変な人だとは思わなかったのかい?」
「えっと、たぶん。わかんないんですけどね。おじさんは、私を傷つけないって思ったんです」
気付いた時に、僕は目頭を熱くしていた。泣き出さなかったのが、奇跡に思えた。
いや、僕にはもう涙なんて残ってなかったのだろう。そんなものは二十年前に、全て使い果たしてしまったのだから。
「おじさんは、どうしてこの時代に?」
彼女の瞳は、傾いた。
「…………ある人の未来を守るために来たんだ」
「その人は、おじさんの大切な人ですか?」
「ああ。命よりも、なによりも大切な人だ」
「素敵ですね。その人を守るために、未来からやってくるなんて。ヒーローみたい」
いいや。僕は、ヒーローなんかじゃない。ただの極悪人だよ。
「さ、もう遅くなってきた。…………帰るんだ」
「え? まだ四時ですよ。それより、もっとこの時代を――――」
「帰れッ!!」
ひゃと短い悲鳴を上げた少女は、おそるおそるベンチから離れ、小さくお辞儀をすると、逃げ出すように駆けていった。
「…………許してくれ。綾乃」
僕はラブレターを握って、立ち上がる。
不意に、とことこと、綾乃が消えた入り口とは違う、もう一つの入り口から誰かの足音がした。
それは、高校生くらいの少年だった。誰かを探すように、きょろきょろと辺りを見回し、少し落ち込んだようだった。
「綾乃は、ここに来ないよ」
僕は立ち上がり、驚く表情を見せた少年の目の前に立った。
「西村綾乃はここには来ない。下駄箱に入っていた君のラブレターは、彼女が受け取る前に、僕が抜き取らせてもらった」
「だ、誰だよ、あんた!」
僕は、背丈もさほど変わらない少年を見おろし、
「君は、今から三年後結婚する。そして、その半年後、君が就職した会社は倒産し、君達夫婦は路頭に迷う。二年間、職を転々とした君は、その頃、とてもイライラしていたのだ。なにが切っ掛けだったのかはわからない。君はついカッとなって投げた灰皿で、妻を殺してしまう。殺人罪で八年間、刑務所で暮らし。それから、君は十七年間、後悔の十字架を背負いながら暮らす。そして、あの事件から二十年後、家庭用のタイムマシンが発売された。君は、何度も時間歩行を繰り返し、彼女が死なない世界を目指した。だが、そんなものはどこにもなかったんだ。そう、どこにも。どんなことをしても、彼女が死ぬ事実は変わらない」
「…………あ、あんた、何を言っているんだ?」
「始めからこうすれば良かったんだ。道を歩く人が、旅をする前にいなくなれば」
僕は、懐から、サラ金でタイムマシン購入の資金を求め、その余りで買った一発しか銃弾が入っていない黒い塊を取り出す。その筒を、青年の胸に向けた。
「な」
――――銃声が鳴り響く。
「ッッッッッッッッッッッうわぁああああああああああああ――――――――――――――」
風になびく硝煙と、飛び散った血しぶきを浴びて、僕はため息をついた。
ようやく終わるのだ。ようやく綾乃を救えるのだ。やっと、やっと、やっと。
青年の声が小さくなっていく。虫の息。
僕の視界も段々暗くなっていく。虫の息だ。
ついに、僕は青年の隣に倒れ込んだ。
青年はもう息をしてなかった。
僕は消えていく感覚を確かめながら、
「…………………………許してくれ、あや、の」
そう呟いたのだった。
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相対性理論が崩れるかも知れない? ので、少しSFチックに。
ジョン・タイタ―の言っていた世界線構造に近いかな。
しかし、まさか、自分が生きているうちにこんなことが起こるとは、という感じです。この勢いで、超弦理論や、統一理論の研究を進めていきましょう! がんがれ、CERN! 全世界の物理学者! ホーキング先生!
境界線上のホライゾンが、けっこうおもしろかった。どこか懐かしい気がすると思ったのは僕だけ?
H×Hのクラピカ役、みゆきちの声がかっこよかった!
キャスト変更の是非はともかくとして、みゆきち最高!
ところで、ロリ枠はいずこ?