やわい夜風をこすりつけると、少し肌が拒絶を示した。きっとまだ体が季節の仕様になっていないのだ。
それは、きっと春が来るよりも待ち遠しく、そして、切ない、冬の訪れ
ねえ夜の散歩に出かけようよ。そう言ったのは、今、コンクリート塀の上を歩いている一匹の黒猫。
そこは、私の舞台とでも言うように、リズムを奏でるような足の運び方だ。
「なぁ、どこに行くんだ?」
「もうちょっとだよ」
にひひと意地悪っぽい笑顔を見せた青い目の黒猫は、俺にしか見えない化け猫の少女だった。ある日、いつの間にか、俺の脇にいたのだ。離れろと言っても聞かない意地っ張り、しょうがないので、それからずっと一緒にいた。
まるで字引に記されていくように、あいつの仕草を、定義づける作業が進んでいく。多くの思い出と共に、あいつの表情が俺の脳裏に焼き付いていった。言葉を交わさなくても通じ合える程度には、字引は完成していた。
それならわかるだろ、今、あいつがした表情の意味を――――。
「どうして、お別れなんだ?」
「…………私、悲しい顔見せたっけ?」
「笑ってたよ。微妙に左右の口角の上げ方が違ってただけだ」
「それだけでわかっちゃうんだ。悲しいね」
黒猫は、すごいね、とはやし立てることはしない。
町が眠っているから、悲しいねと小さく呟いた。
「ついった~。ここだよ、君と私が出会った場所」
近所の公園。小さな頃は、よく遊んでいたものだけど、あの鉄棒が窮屈になった頃から、訪れなくなった場所。
黒猫は、ホップステップ、と錆びた電灯が照らす、人工的な日だまりの下に着地した。
向き直ったあいつは、物理的にも手の届かない場所に行ってしまったことを見せつけるように、じっとこちらを見つめている。かすかに尻尾を揺らしながら。感情豊かな耳は垂れていた。
「ここで、俺達は出会ってたのか……?」
「ごめんね。私、ネコだったから言えなかったんだ。だから、人間になったの」
「…………俺は昔」
ここで、痩せこけた一匹の黒猫と出会ったことがある。
「あの時はまだ子供だったから、ただの気まぐれだったんだ。野良だから、ただそれだけの憐れみで」
エサをやったり、毛布をやったり。最後まで面倒を見なくてはなんて、思ってなかった。
「あなたがいなくなって感じたのは寂しさ。だけど、それ以上に楽しい思い出が胸の中で暖かかった。だから、いつか言わなくちゃって思ってたの」
風が吹いたのだろうか、木の葉が散っていき、それでも俺は瞬きをしなかった。
人の気持ちも知らずに、あいつは大きく息を吸った。秋の気配を全て吸い込もうなんて、虫が良すぎる。まだ、こっちは冬支度なんて出来てないんだから。
「ありが――」
「言うなッ……それ以上、言うな」
「………………へぇ! 泣いた顔なんて、初めて見た。君には涙なんて無いと思ってたよ」
「――……ぁぁ、俺もだ」
どこかの道ばたに落としてきたものだと、ずっと思っていた。探すにも当てがないから、見つけようともしなかった。かといって交番に届けるわけにはいかなかった。
「お前のせい…………だ、から、な……」
「いいよ。どんな形であれ、君の中に私が残ってくれて嬉しい」
くそ、瞬きなんかするな、俺! 生理現象? 知ったことか! 瞬きなんかしたら、こいつは、俺の前から……。
霞んでいく視界が、一瞬、夜を取り込んで暗くなった。
次の瞬間には、そこに人の気配はなく。誰それの家の軒下に潜り込んでいるだろうネコの気配なんてあるはずがなかった。もはや、ここには俺しかいない。
――――助けてくれて、ありがとう。
その日以来、秋は一気に深まり、冬が目を覚まし始めた。
今でも思ってしまう。あいつは幸せだったのだろうか、ということを。
それを、思い出の中の彼女に問いかけてみるのだが、いっこうに答えは返ってこなかったのだった。
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どちらかと言えば、僕のスタンダードな作風はこれです。
やっぱり、こういう作品を書いていると、気分がスカッとしますね。
まぁ、オナニー小説なんて言われても仕方ないことです。
まぁ要するに、ロリ百合が最強ってことですよ!
では、みなさん作業頑張って下さい