ここは、とあるメルヘンの世界。
午後のティータイム。紅茶を飲みながら、ヌイグルミを愛した少女は思いました。
ヌイグルミこそが正義である。それ以外は全て敵だ。こうなったら、この世の生きとし生けるもの全てを抹殺しよう。この偉大なヌイグルミの力で。
――ヌイグルミ帝国。
「アイル、ヌーイグルミ様。アイル、ヌーイグルミ様」
帝国には、朝十時に王室前の広場に集まり、王座にいる総帥(ヌイグルミ)を拝めなければいけないという決まりがある。
今日の総帥は、クマのヌイグルミだ。昨日はネコのヌイグルミだった。
総帥は毎日替わる。全ては、少女元帥の気まぐれだった。
――くそ、なにがクマのヌイグルミだ……。バカにしやがって。なんで、あんなものに従わななきゃいけねえんだ?
帝国の敷く圧政に耐えきれなくなった青年がいた。ひろしだ。目深に被った青い帽子が、トレードマークだ。
ともかく、こんな政治はごめん被るぜ。
朝会も終わり、家に戻ると、宝箱からトカレフを取りだした。
「よし。このソ連軍が開発した自動拳銃で、クマのヌイグルミなんてイチコロだぜ」
家を出るとき、母さんに引き留められた。
「これを持って行きなさい」
小さな袋に入ったそれは、おいしそうな団子だった。
「母さん。まさか、これはきびだん――」
「ホウ酸団子よ。鼠退治したときの残りよ」
「オーケーだぜ。じゃ、行ってくるよ」
ひろしは、城塞に向かって歩き出した。
家から出て、数分。公園に通りかかったとき、イヌにあった。
「おお、うまそうな団子だ。それをくれたら、お礼にこれを上げよう」
「それは、89式小銃。イラク派遣の時、自衛隊が使っていたというあれか」
「その通りだ」
――ひろしは、89式小銃を手に入れた。
「では、その団子をおくれ。くれたら、君に付いていってもいい」
「そうか。では、あげよう。取ってこい」
団子を一つつまみ出した。投げる。
イヌの本能だろうか。イヌは団子を追いかけて、茂みの中に駆けていった。見えなくなる。そんなに遠くに投げたつもりはなかった。だが、イヌはとうとう帰ってこなかった。
「む。急がないと日が暮れてしまう。急ごう」
商店街に差し掛かると、サルが現れた。
「お、その団子うまそうだな。それをくれたら、これをやるよ」
「それは、軍用拳銃シェアNO1のコルト社のリボルバー」
「そうだ。コルトパイソンだ」
――ひろしは、コルトパイソンを手に入れた。
「さぁ、くれよ。その団子。くれるなら、ついていってもいいぜ」
「そうか。では、あげよう。取ってこい」
つまみ出した団子を、本屋の脇に生えていた木に向かって放り投げた。
サルは、木を上る。がさがさと木の葉の中に隠れた。そして、ぽとりと落ちてきた。
なるほど、これが猿も木から落ちるというやつか。
「む。急がないと日が暮れてしまう。急ごう」
ひろしは、ついに城塞までやってきた。この門をくぐれば、クマのヌイグルミがある。
――よし。
気を引き締めていると、キジが飛んできた。
「おや、その団子おいしそうですね。それをくれたら、これをあげましょう」
「それは、無反動砲と、ロケットランチャー、両方の特性を持つと言われているパンツァーファウストⅢ」
「その通りです。ジープにも搭載可能ですよ」
――ひろしは、パンツァーファウストⅢを手に入れた。
「では、いただきましょうか。その団子を、いただければ、お供いたしましょう」
「そうか。では、あげよう。取ってこい」
団子を投げる。キジは飛べると思って、少し高く投げすぎてしまった。城門を越えてしまう。
「――しまった」
その時には、もう遅かった。団子を追いかけたキジは、上空で撃たれてしまったのだ。
「くそぉ、よくもキジをおおおおおおおおおおお、許すまじ」
ひろしは、パンツァーファウストⅢを構えた。
「――ふぅぁいやあぁ」
ものすごい爆風と、鼓膜を揺さぶる爆発音。煙が風にながれる。城門は壊れていた。
「キジ、お前のおかげだ。お前の死は無駄にしないぞ」
怒りに燃えたひろしは、殺戮の限りを尽くした。最後には、敵が怖れをなして逃げていくほどだった。
まさに、ここは戦場。そう、ひろしは、一人で帝国に戦争を仕掛けたのだ。
――そして、最上階。
開かれた空間。帝国全土が見渡せるほどの、開放的なバルコニーがある。家具は少ない。床に敷かれた絨毯の上には、椅子に座らされていたクマのヌイグルミがあった。
――やっと見つけた。
「昨日だったらお前を殺そうとは思わなかったさ。日が悪かったと観念しな」
ひろしは、笑顔を崩さないクマのヌイグルミに、ゆっくりと近づく。こめかみに、トカレフの銃口を当てた。
引き金を引こうとしたその時。
「観念するのは、あなたよ」
鈴の音のような透明な声がした。
真後ろに気配があった。首を回して見る。
そこには、ウサギのヌイグルミを抱えた、少女が立っていた。プラチナブランドの髪と、意志の強うそうな青い瞳。
片手で、デザートイーグルを構えていた。
ひろしは、銃を床に落とす。
「出会い方が違かったら、食事にでも誘ったんだがな。少女元帥」
「ヌイグルミを撃とうとする奴なんて、お断りよ」
「はは。残念だ」
一瞬の隙を突いて、ひろしは、腰に隠してあったコルトパインを取り出した。
「死ねええええええええ」
だが、ひろしは撃たれた。
「お、お前は、イヌ……」
少女の背後で、拳銃を構えていたのは、今朝会ったイヌだった。
「お前がなぜ……」
「残念だったな。私は、帝国親衛隊執行部隊、通称SSVTが一人、イヌだったのだ」
「しかし、お前は団子を食べたはず」
「ふふ。考えが浅いな。食べんよ。なにせイヌだからな。よし、と言われるまで、食事には手を付けないのさ」
「ば、ばかな」
冷たい鉛が体の中にある。イヌの放った凶弾だろう。くそ、こんなところで……。
終わった。やっと終わったんだ。
イヌは安堵のため息をついた。
「イヌ。ご苦労様でした」
「いえ、少女元帥様。今回は、諜報部が情報を掴んでくれたおかげです。しかし、惜しい友を二人も失いました」
「彼らのことは、丁重に葬ってあげましょう」
「しかし、その帝国自爆装置を起動させなくてよかったですね」
「ええ」
「なるほどな」
イヌは、まさかと思った。たしかに弾丸は、胸を抉ったはず。生きているはずがない。
そこには、死んだはずのひろしが立っていた。こちらを見てほくそ笑んでいる。
「なぜだ……」
「残念だったな。俺は、ただの人間じゃねえ。いや、人間じゃない」
ひろしは、目深に被ったトレードマークの帽子をはぎ取った。
「お、お前は……」
イヌは愕然とした。ひろしの頭には、ネコのような耳があった。獣の耳。いや、ヌイグルミの耳。
「そうさ、俺はネコのヌイグルミだ。ネコのひろし。猫ひろしだ!」
ひろしは、腰に隠してあった89式小銃を取りだした。連射した。
「がっはははははははははははははははははははははははははははははははははは」
弾が切れた。
辺りは静寂に包まれる。もう誰も息をしていなかった。
「猫を総帥にすればよかったんだ。クマなんかを総帥にするから」
ひろしは、帝国自爆スイッチを拾い上げた。
最後にもう一度、帝国を見渡す。
「ヌイグルミの国か。いい国だったのかもしれない」
スイッチの感触は、柔らかなものだった。
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人生の迷子です。
推敲をしてないので、誤字脱字があったら申し訳ないです。
あと、物語が破綻してるのは、仕様です。
なんか、萌えを書きたい。
ああ――ダリアン。ダリアン。ダリアーン。
あ! 湯音が本命です。
アンチ・マテリアル・ライフルが欲しい。今日この頃。