雨だ。
ぽつり、ぽつりぽつぽつ――――ざぁ――。
いけない。早足になってきた。
私は見回して近くに地蔵堂を見つけた。
小さな屋根の下に5体の地蔵が見世物のように並べられていて、野晒しのそれはどこか遊郭の女どもを思い起こさせる。
(地蔵様になんて罰当たりなことを)
と自分を言葉でぶつが石に謝るわけにもいかず、気持ちばかり頭を下げて、おずおずとその屋根の下に身を寄せた。
肩に乗った滴を簡単に手で払い除け、「まったく間が悪い」と悪態づきながら雨垂れから顔を覗かせる――曇天の空は空を喰い尽してまだ物足りないらしい。地上にまで伸ばしてきた腕がこの雨だ。なんて意地汚い。が、自分がそれを責めるわけにもいかない。
(意地汚いのはお互い様だ)
その時。
「ごめんなさい」
と女が入ってきた。旅芸者のような着物を着ている。
小屋の隅には小さなタンポポが群生しており、女はそれをよけて壁際に寄る。
(流れの一座の者だろうか? ここは伊豆にも行ける道だし)
しばらく黙りこくった後、私は訊いた。
「あなたは何者ですか?」
とずいぶん不躾に。
だが、女はにわかに微笑んで答えた。
「旅芸人の踊子です。この次の町で合流するつもりですがこの雨でどこか雨宿りが出来るところを、と見回したらここを見つけて。ところで、あなたは学生さん?」
と芸人のくせに人慣れしていない様子のうぶな表情を垣間見せた。
私は少し照れる。
「はい……いえ、今の私は……」
「どうしたのですか?」
「実は逃げ出してきたんです。あそこはなんだか違うような気がして。それで旅にでも出て、何か自分がこれだと思えるものを見つけようかと」
私は躊躇したが素直に告白する。どうせ行きずりの人だ、と思ったのだ。
「それで見つかったのかしら」
「……いや、まだ」
すると、女はぱちくりと開いていた目を急に細める。
私はぞっとした。まるで私の全てがその一瞬で見抜かれた気がしたのだ、過去も未来も全て。ひた隠しにしてきた嘘つきの本性さえも見透かされたようだった。
「どんなことがあっても死んでは駄目よ」
そう言い残して、小降りになった雨の中に飛び出していった。
私はその後ろ姿を茫然と眺めていた。それは置いてけぼりにされたような、そんな気分だった。
それからすぐに晴れ間が見えて、雨が穿った道筋が煌めいても、私は躊躇して足を踏み出せなかった。
私はあの瞬間に、あの誠実で真理を得た女の目に呪われたのだ。
―----------------------------------------
最近、暖かくなってきましたね。もういい加減寒いのは嫌です。
そろそろサークルも始まりますね。小説やりたい人入ってこないかなぁ。そうしたら、小説の企画を何かしたいのになぁ。三題噺とかやって、みんなで講評したいなぁ。他にも技術向上のために何かしたいなぁ。シナリオもやりたいですなぁ。
やりたいことが色々出来るよ。だって、休学したから。
それでは。
ぽつり、ぽつりぽつぽつ――――ざぁ――。
いけない。早足になってきた。
私は見回して近くに地蔵堂を見つけた。
小さな屋根の下に5体の地蔵が見世物のように並べられていて、野晒しのそれはどこか遊郭の女どもを思い起こさせる。
(地蔵様になんて罰当たりなことを)
と自分を言葉でぶつが石に謝るわけにもいかず、気持ちばかり頭を下げて、おずおずとその屋根の下に身を寄せた。
肩に乗った滴を簡単に手で払い除け、「まったく間が悪い」と悪態づきながら雨垂れから顔を覗かせる――曇天の空は空を喰い尽してまだ物足りないらしい。地上にまで伸ばしてきた腕がこの雨だ。なんて意地汚い。が、自分がそれを責めるわけにもいかない。
(意地汚いのはお互い様だ)
その時。
「ごめんなさい」
と女が入ってきた。旅芸者のような着物を着ている。
小屋の隅には小さなタンポポが群生しており、女はそれをよけて壁際に寄る。
(流れの一座の者だろうか? ここは伊豆にも行ける道だし)
しばらく黙りこくった後、私は訊いた。
「あなたは何者ですか?」
とずいぶん不躾に。
だが、女はにわかに微笑んで答えた。
「旅芸人の踊子です。この次の町で合流するつもりですがこの雨でどこか雨宿りが出来るところを、と見回したらここを見つけて。ところで、あなたは学生さん?」
と芸人のくせに人慣れしていない様子のうぶな表情を垣間見せた。
私は少し照れる。
「はい……いえ、今の私は……」
「どうしたのですか?」
「実は逃げ出してきたんです。あそこはなんだか違うような気がして。それで旅にでも出て、何か自分がこれだと思えるものを見つけようかと」
私は躊躇したが素直に告白する。どうせ行きずりの人だ、と思ったのだ。
「それで見つかったのかしら」
「……いや、まだ」
すると、女はぱちくりと開いていた目を急に細める。
私はぞっとした。まるで私の全てがその一瞬で見抜かれた気がしたのだ、過去も未来も全て。ひた隠しにしてきた嘘つきの本性さえも見透かされたようだった。
「どんなことがあっても死んでは駄目よ」
そう言い残して、小降りになった雨の中に飛び出していった。
私はその後ろ姿を茫然と眺めていた。それは置いてけぼりにされたような、そんな気分だった。
それからすぐに晴れ間が見えて、雨が穿った道筋が煌めいても、私は躊躇して足を踏み出せなかった。
私はあの瞬間に、あの誠実で真理を得た女の目に呪われたのだ。
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最近、暖かくなってきましたね。もういい加減寒いのは嫌です。
そろそろサークルも始まりますね。小説やりたい人入ってこないかなぁ。そうしたら、小説の企画を何かしたいのになぁ。三題噺とかやって、みんなで講評したいなぁ。他にも技術向上のために何かしたいなぁ。シナリオもやりたいですなぁ。
やりたいことが色々出来るよ。だって、休学したから。
それでは。