血が黒く固まったような腐敗した空に、月がある。
三日月なのか、尖った唇の端が飴色に輝いている。火星以外の星は顔を出さない。
顔を横に動かせば、鮮やかな夕焼けの残照を開発途上のビル越しに見えるらしかった。でも、それは無理だろう。悟った。――死ぬのだと。
剥き出しの鉄筋に遮られた雲に、羽田に向かうのだろう飛行機の明かりを見た。近くで瞬いているように感じた。
「きっとエンジンが錆ついてやがる。墜落するだろうよ」
俺が笑うと、叫び声が聞こえた。
「もう、口を動かすなよ!」
加奈子は銃弾が根ざした、俺の脇腹を絶えず圧迫していた。止めどない血流を止めたいらしい。手遅れだと言っても、聞かない。頑固なところは、千和の娘だと納得できる。
俺は笑った。
「笑うなッ!」
「千和にそっくりだ」
加奈子は血しぶきで汚れた、桃色の肌を強張らせた。それが、ありと出たのは肉付きの良い頬である。走馬灯なのだろうか、加奈子が千和に見えてしまう。
「なんで、母さんのことを……。憎んでたんだろう。母さんは、あんたより、父さんを選んだ。あいつは金しか目にないんだ」
俺は瞳孔の動きに気がついた。それでも、呼吸は荒くならない。
最後の時だから、俺はこの娘に笑っていなければいけない。一生分の笑顔を凝縮しなければいけない。
この時ほど、自分が殺し屋であることを感謝した時はない。笑顔を殺し続けてきたおかげで、一生分の笑顔が一瞬でできるほど僅かになったのだ。良かった。
「加奈子」
声がかすれてきた。もう、……時間が無い。
「なんだよ」
「お願いがある」
「言ってみれば」
目頭が赤い加奈子は、十六歳ができる精一杯の強がりを見せた。眉間に皺を寄せて、何かを堪えているようである。千和は垂れ目だが、加奈子はつり目だ。きっと、父親に似たんだな。
俺は恥ずかしくて、笑った。
「――父さん、と呼んで欲しい」
白んでいく世界の欠片に、加奈子がいた。驚いているようだった。無理もないのかもしれない。父親が殺し屋だと知ったのだ。今まで、資産家の娘だったのに。
その日、世界の片隅に、悲鳴が響いた。猫だけが聞いていた、少女の父を呼ぶ声――。
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一応、小説を書いてみました。
千字です。暗いです。死んじまえ、です。文下手です。文字書くの嫌いです。
一三歳以下の少女が好きです。
以上。