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クチヒゲノムラガニの生態

退職し晴耕雨読的研究生活に入った元水族館屋の雑感ブログ

死しても屍と価値を残す紀伊半島最大のサンゴ 

2023-12-23 | 雑感
紀伊半島最南端にある我が町の西隣町は、以前は研究者を含め一般ダイバーの立ち入りが許可されなかったため、海中の状況が伝わることはなかった。従って、その町の地先にある、紀伊半島最大のサンゴも、世に知られることはなかったはずである。ところが、1989年に実施された和歌山県沿岸のイシサンゴ分布調査によって、それは奇跡的に発見された。その調査は、ダイバーが船から曳行されたボードにつかまり海底を探索する方法(マンタ法)で行われ、海底の状況を線でしか捉えることができないため、船の航路がほんの少しでもずれていたら発見されることはなかったのである。

そのサンゴの種名はコブハマサンゴで、直径約8m・高さ5mあり、徳島の1000年サンゴには及ばないが、九州以北ではそれに次ぐ大きさであると思われる。

最初の発見から凡そ20年後の2010年に、再びマンタ法での調査で当地を訪れた際に、1発で本サンゴに当たらなかったため、船を止め、20分ほど遊泳探索してなんとか探し出すことができた。しかしながら、久しぶりの再会を楽しむことはできなかった。サンゴはほぼ完全な斃死状態、それも骨格が新しかったため死後1~2年と思われた。津波や環境の激変に耐え、500年以上もの長きにわたって生きてきたと思われる、紀伊半島で最も古いサンゴが、ごく最近になって人知れず死んでいたのである。なんということか。近年の環境は、サンゴにとって酷であり、長寿を奪っている。


2010年に再会した巨大コブハマサンゴ。壊滅状態であったが、死後新しく、庇状の突起はきれいに残っていた。

最後はちょっとうれしいニュース。このサンゴは死んでしまったが、サンゴが歩んだ環境を復元すべく、サンゴのコアを掘削し、それを元に同位体解析を行うプロジェクトが始まった。今年度はサンゴ位置を特定し、状態を把握する予備調査が計画され、本日、道案内のために調査に同行した。

幸い、サンゴはすぐに見つかった。死後15年ほどの間に浸蝕が進行し、前回、サンゴの側面に認められた複数の庇状の突起は消失していたが、まだ、崩落は免れていた。来年、掘削にうまく成功すれば、紀伊半島の古環境を読み取ることが可能となる。巨大サンゴは死んでも屍とその価値を残した。

なお、今回、漁師さんへの聞き取りによって、本サンゴの死因を特定することができた。犯人はオニヒトデ。2008年頃に、サンゴがある場所の岸寄りで、ナガレコ(トコブシ)獲りの際に大量のオニヒトデが観察されていた。隣町におけるオニヒトデの大量発生の情報はこれまで得られていなかった。


2023年12月に撮影された巨大コブハマサンゴのほぼ斃死群体


ごくわずかに生き残っていたコブハマサンゴ。生残部は全体の1%程度であるが、このまま好環境が50年以上続けば、復活するかもしれない。
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