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風邪がなかなか治らない。もう1週間以上続いている。寝込むほどではないが、良くなったり、悪くなったりのくり返しである。
医者の話では、今年の風邪(喉に来るタイプ)は治りが悪いという評判なのだそうだが、僕の場合、それに加えて年齢からくる抵抗力・回復力の低下が顕著な気がする。昔なら、病院に行って5日分くらいの薬をもらっても、全部飲みきらずに治っていた(病院に行く頃には既にピークを過ぎているからだが)。薬箱の中に余った風邪薬がガサガサ溜まったりしたもんだ。最近は逆に、足りなくなって追加をもらいに行くはめになることが多い。
本来、風邪などは薬で治すべきものではない、ということは了解している。でも実際問題、体の方からの反撃力が心もとないので、薬に頼るしかない。まとまった休みを取れないせいでもあるが・・・・(大した金にもならんのに!)。
こういう状態だと、なかなか物を書く方もエンジンがかからない、かかっても根気が続かない。しかしそんなことを言っていると、本当にエンジンが錆びてしまうので、無理してでも点火してみよう。
だいぶ前からブログで取り上げたいと思っていたアメリカのアーティストがいる。ソウル・ウィリアムズという黒人の詩人/ラッパーである。ただ、取り上げようにも、詳しく書ける材料に乏しいので、どうすればいいのか迷っていた。
詳しいことと言っても、人物の略歴などは音楽関係のページ(ここがわりと詳しい)を読めば分かる。ニューヨーク出身であること。カフェやライヴハウスなどでのポエトリー・リーディングで話題をさらい、映画『スラム』の主演を務めたこと。2001年に音楽をバックにしたアルバムを初めて出して、ミュージシャンとしてもデビューしたこと、などなどである。
ただ、僕が本当に知りたいのは、一体彼の詩の何がそんなにすごいのか、その中身、そのリーディングの何がそんなに優れているのか、そこなのである。確かに動画などで彼がしゃべり倒している姿、彼のラップ・ナンバーなどを実際に聴けば、ダイナミックで面白いことは分かるが、そのくらいなら掃いて捨てるほどいる他のヒップ・ホップのアーティストとも、大きくは違わないように思う。だけど、英語ネイティヴの人が聴いて感銘を受けているのは、もっと別の、言葉の底力のようなところのはずなのだ。
僕は、2004年に出した彼のセカンド・アルバムに参加した面子を知って、仰天した。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのザック、システム・オブ・ア・ダウンのサージ、マース・ヴォルタのアイキー・オーエンズなど──僕が近年お気に入りのアメリカの先鋭的なロック・ミュージシャンたちが、こぞって参加している。彼らはウィリアムズの何に夢中になっているのだろう──それが僕の彼への興味のきっかけだった。
そして彼は今年に入って、以前から親交のあったナイン・インチ・ネイルズ(NIN)のトレント・レズナーの全面バック・アップによって新しいアルバムを完成させた(11月1日よりネット配信)。
タイトルは『The Inevitable Rise And Liberation Of Niggy Tardust!』。「ニギー・ターダストの必然的隆盛と解放」というような意味だろう。言うまでもなく、デヴィッド・ボウイーの往年の傑作『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars(ジギー・スターダスト&スパイダーズ・フロム・マースの隆盛と凋落)』のパロディである。Niggyはもちろん「黒んぼ」を意味する蔑称Niggerのもじりで、「ターダスト」はタール・ダスト、すなわち「石炭のカス」という風に読める。自虐的なまでに「真っ黒」な自分を強調した芸名、ということになる(もちろん自虐なんかじゃない)。
タイトルだけでも話題性十分だが、それに加え今作はネット配信、しかも5ドルか無料かの2種類を、リスナーが自由に選ぶ形式を取っている。誰でも、とにかく聴きたければ、60分近い大作が無料でダウンロードできる。製作者に敬意を表し、費用をカンパしたければすればよし、なんらかの事情でそれができない人はタダでもってけ、ということである。
僕はこのことを、ホームページの掲示板に来てくれたNINのファンの人から聞いて、早速ダウンロードしてみた。
http://niggytardust.com/ (このページはNINの公式サイトからも行ける)
ここのOrderのところをクリックし、5ドルか無料かどちらかを選ぶ。メール・アドレスを記入して、折り返し送られてきたダウンロード・アドレスに飛べばOK(要Zip解凍)。
内容的にはヒップ・ホップ・サウンドというより、レズナーが曲の大半を手がけているだけあってNINの準新作といってもいいような作風(曲によっては非常にメランコリック、メロディアス)なので、ロックは好きだけどヒップ・ホップはそれほどでも・・・という僕のようなタイプの人間でもかなり楽しめる。これで歌詞がはっきりわかればもっと楽しめるはずなのだが、あいにく歌詞カードが特徴的な手書きの文字で、読み取るのがエライ疲れるから、まだちゃんとトライしていない(誰か訳してくんないかな・・・)。しかし、このpdfファイルの歌詞カード(33ページもある!)、なかなか美的にインパクトがあるので、眺めているだけでも刺激になる。彼の詩の全貌については、いずれ分かる日も来よう。
ちなみにタワー・レコードの記事では、無料の方は音質が劣るヴァージョンだと書いてあったけど、僕は確認していない。無料で落とした方をオーディオCDに焼いて、普通のレコードのように聴いているが、さすがトレントと舌を巻くような音のクオリティはちゃんとある。気になる人は有料の方がいいかも知れないけど。
それにしても、「著作権」「知的財産権」思想の総本山たる米国のど真ん中で、その鼻をあかしているのが無名のインディ・アーティストではなく、米国を代表するミュージシャンの一人、トレント・レズナーとその盟友たちなのである。相当程度の高収入の大物だから挑戦する余裕がある、という面もないとは言えないが、だとしてさえも僕は、新しい潮流を自分達で作り出していこうという、「本気」をここに感じる。彼らはいよいよ、アメリカの「解体」に取り掛かり始めたのかも知れない。これに比べると日本のメジャー・アーティスト達は、ことごとくシステムの中に安住し・眠っているようにしか見えない。
☆YouTubeで観れる動画を、いくつか選んで紹介しておく。
http://www.youtube.com/watch?v=JpEAsSzmS34
"Coded Language"。代表的な詩の一つ。
http://www.youtube.com/watch?v=YEdE5O8XFpQ&NR=1
ドイツで、オーケストラ及び学生エキストラと共演。
http://www.youtube.com/watch?v=nfXiLYcP4SU
"List Of Demands"。NINのライヴにゲストとして登場。
http://www.youtube.com/watch?v=YbwIaVVAac4
"Not In Our Name"という反戦詩のヴァージョンの一つか。レイジのザックがドラムで、SOADのサージ・タンキアンがギターで参加。
http://www.youtube.com/watch?v=w2K0SbxnHeE
『Niggy Tardust』収録曲"Tr(n)igger"。triggerとniggerをかけて、
Trigger is YOU, Nigger is YOU
と歌っている。引き金を引く者、侮蔑の対象となる者、にわとりが先か卵が先か・・・・。
追記:
ソウル・ウィリアムズに先んじて、英国で10月に「オープン価格」(購入者が値段を決める、無料も可)の新作ネット配信を敢行したレディオヘッドのケースについては、IT・音楽ジャーナリストの津田大介という人が日経IT+に寄稿している文章(あくまで“ビジネス”の文脈は逸脱しないけど^^)が興味深い。
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT0g000028112007
医者の話では、今年の風邪(喉に来るタイプ)は治りが悪いという評判なのだそうだが、僕の場合、それに加えて年齢からくる抵抗力・回復力の低下が顕著な気がする。昔なら、病院に行って5日分くらいの薬をもらっても、全部飲みきらずに治っていた(病院に行く頃には既にピークを過ぎているからだが)。薬箱の中に余った風邪薬がガサガサ溜まったりしたもんだ。最近は逆に、足りなくなって追加をもらいに行くはめになることが多い。
本来、風邪などは薬で治すべきものではない、ということは了解している。でも実際問題、体の方からの反撃力が心もとないので、薬に頼るしかない。まとまった休みを取れないせいでもあるが・・・・(大した金にもならんのに!)。
こういう状態だと、なかなか物を書く方もエンジンがかからない、かかっても根気が続かない。しかしそんなことを言っていると、本当にエンジンが錆びてしまうので、無理してでも点火してみよう。
だいぶ前からブログで取り上げたいと思っていたアメリカのアーティストがいる。ソウル・ウィリアムズという黒人の詩人/ラッパーである。ただ、取り上げようにも、詳しく書ける材料に乏しいので、どうすればいいのか迷っていた。
詳しいことと言っても、人物の略歴などは音楽関係のページ(ここがわりと詳しい)を読めば分かる。ニューヨーク出身であること。カフェやライヴハウスなどでのポエトリー・リーディングで話題をさらい、映画『スラム』の主演を務めたこと。2001年に音楽をバックにしたアルバムを初めて出して、ミュージシャンとしてもデビューしたこと、などなどである。
ただ、僕が本当に知りたいのは、一体彼の詩の何がそんなにすごいのか、その中身、そのリーディングの何がそんなに優れているのか、そこなのである。確かに動画などで彼がしゃべり倒している姿、彼のラップ・ナンバーなどを実際に聴けば、ダイナミックで面白いことは分かるが、そのくらいなら掃いて捨てるほどいる他のヒップ・ホップのアーティストとも、大きくは違わないように思う。だけど、英語ネイティヴの人が聴いて感銘を受けているのは、もっと別の、言葉の底力のようなところのはずなのだ。
僕は、2004年に出した彼のセカンド・アルバムに参加した面子を知って、仰天した。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのザック、システム・オブ・ア・ダウンのサージ、マース・ヴォルタのアイキー・オーエンズなど──僕が近年お気に入りのアメリカの先鋭的なロック・ミュージシャンたちが、こぞって参加している。彼らはウィリアムズの何に夢中になっているのだろう──それが僕の彼への興味のきっかけだった。
そして彼は今年に入って、以前から親交のあったナイン・インチ・ネイルズ(NIN)のトレント・レズナーの全面バック・アップによって新しいアルバムを完成させた(11月1日よりネット配信)。
タイトルは『The Inevitable Rise And Liberation Of Niggy Tardust!』。「ニギー・ターダストの必然的隆盛と解放」というような意味だろう。言うまでもなく、デヴィッド・ボウイーの往年の傑作『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars(ジギー・スターダスト&スパイダーズ・フロム・マースの隆盛と凋落)』のパロディである。Niggyはもちろん「黒んぼ」を意味する蔑称Niggerのもじりで、「ターダスト」はタール・ダスト、すなわち「石炭のカス」という風に読める。自虐的なまでに「真っ黒」な自分を強調した芸名、ということになる(もちろん自虐なんかじゃない)。
タイトルだけでも話題性十分だが、それに加え今作はネット配信、しかも5ドルか無料かの2種類を、リスナーが自由に選ぶ形式を取っている。誰でも、とにかく聴きたければ、60分近い大作が無料でダウンロードできる。製作者に敬意を表し、費用をカンパしたければすればよし、なんらかの事情でそれができない人はタダでもってけ、ということである。
僕はこのことを、ホームページの掲示板に来てくれたNINのファンの人から聞いて、早速ダウンロードしてみた。
http://niggytardust.com/ (このページはNINの公式サイトからも行ける)
ここのOrderのところをクリックし、5ドルか無料かどちらかを選ぶ。メール・アドレスを記入して、折り返し送られてきたダウンロード・アドレスに飛べばOK(要Zip解凍)。
内容的にはヒップ・ホップ・サウンドというより、レズナーが曲の大半を手がけているだけあってNINの準新作といってもいいような作風(曲によっては非常にメランコリック、メロディアス)なので、ロックは好きだけどヒップ・ホップはそれほどでも・・・という僕のようなタイプの人間でもかなり楽しめる。これで歌詞がはっきりわかればもっと楽しめるはずなのだが、あいにく歌詞カードが特徴的な手書きの文字で、読み取るのがエライ疲れるから、まだちゃんとトライしていない(誰か訳してくんないかな・・・)。しかし、このpdfファイルの歌詞カード(33ページもある!)、なかなか美的にインパクトがあるので、眺めているだけでも刺激になる。彼の詩の全貌については、いずれ分かる日も来よう。
ちなみにタワー・レコードの記事では、無料の方は音質が劣るヴァージョンだと書いてあったけど、僕は確認していない。無料で落とした方をオーディオCDに焼いて、普通のレコードのように聴いているが、さすがトレントと舌を巻くような音のクオリティはちゃんとある。気になる人は有料の方がいいかも知れないけど。
それにしても、「著作権」「知的財産権」思想の総本山たる米国のど真ん中で、その鼻をあかしているのが無名のインディ・アーティストではなく、米国を代表するミュージシャンの一人、トレント・レズナーとその盟友たちなのである。相当程度の高収入の大物だから挑戦する余裕がある、という面もないとは言えないが、だとしてさえも僕は、新しい潮流を自分達で作り出していこうという、「本気」をここに感じる。彼らはいよいよ、アメリカの「解体」に取り掛かり始めたのかも知れない。これに比べると日本のメジャー・アーティスト達は、ことごとくシステムの中に安住し・眠っているようにしか見えない。
☆YouTubeで観れる動画を、いくつか選んで紹介しておく。
http://www.youtube.com/watch?v=JpEAsSzmS34
"Coded Language"。代表的な詩の一つ。
http://www.youtube.com/watch?v=YEdE5O8XFpQ&NR=1
ドイツで、オーケストラ及び学生エキストラと共演。
http://www.youtube.com/watch?v=nfXiLYcP4SU
"List Of Demands"。NINのライヴにゲストとして登場。
http://www.youtube.com/watch?v=YbwIaVVAac4
"Not In Our Name"という反戦詩のヴァージョンの一つか。レイジのザックがドラムで、SOADのサージ・タンキアンがギターで参加。
http://www.youtube.com/watch?v=w2K0SbxnHeE
『Niggy Tardust』収録曲"Tr(n)igger"。triggerとniggerをかけて、
Trigger is YOU, Nigger is YOU
と歌っている。引き金を引く者、侮蔑の対象となる者、にわとりが先か卵が先か・・・・。
追記:
ソウル・ウィリアムズに先んじて、英国で10月に「オープン価格」(購入者が値段を決める、無料も可)の新作ネット配信を敢行したレディオヘッドのケースについては、IT・音楽ジャーナリストの津田大介という人が日経IT+に寄稿している文章(あくまで“ビジネス”の文脈は逸脱しないけど^^)が興味深い。
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT0g000028112007