没落屋

吉田太郎です。没落にこだわっています。世界各地の持続可能な社会への転換の情報を提供しています。

アカデミックは真理に迫れるのか

2008年12月03日 23時33分36秒 | 日記
 前回に続けて、真実に迫るための与太話を。11月28日のブログにも少し書いたが、ジャーナリスト松永和紀さんは、食品の安全・安心をめぐって似非情報が溢れてしまう背景には、うんといやらしく私なりに書けば、次のような社会構造があるためだ、と主張している。

「絶対的な真実を求めようともせず、下衆な好奇心に満ちた知的水準の低いおろかな大衆がいる」

「大衆に必要なのは、絶対的な真実ではなく、彼らの下衆な好奇心を満たして視聴率さえとれれば、それでよいと考えているマスコミがいる」

「(本当は真理を知っているのだが)下衆な好奇心に満ちた知的水準の低いおろかな大衆や、それにおもねるマスコミを餌食にして暴利を貪ったり、売名行為に走ろうとする意地汚い似非科学者がいる」

「(本当は真理を知っているのだが)、この似非科学者を祭り上げ、下衆な好奇心に満ちた知的水準の低いおろかな大衆を相手とするマスコミに媚び諂わなければ生きていけない貧しいフリーのジャーナリストがいる」

「選び抜かれたエリートたるプロ科学者こそが真理を知っている。しかし、彼らの本義は真理を追究するためにこそあるのだって、知的水準の低いおろかな下界の連中の泥仕合に首を突っ込む気はさらさらない。されば、だんまりを決め込む」

 かくして、神の真実のベールは、永遠の闇に隠されていく。

 そこで、松永さんが解決策としてあげるのは、良心的な科学者。すなわち、本来は低次元の大衆次元までわざわざ舞い降りて来る必要はないのだが、それを承知で、おろかな大衆を導くために、大衆にもわかるわかりやすい言葉で真理を語ってくれる科学者の登場だ。まさに菩薩業。かくして、偉大なる科学者が、似非科学者どもを一掃し、真理の光の前に似非科学を粉砕し、導いてくれる。

 とまあ、ご本人は、ここまでいやらしくは書いてはいないのだが、要旨をかいつまんでいえばこうなる。

 さて、ここまでの私なりの松永本の結論。あるいは、前回の「キューバの真実に迫るために」というブログを読まれて、「そうかいな」と首を傾げられていた方は、実は実にカンがいい。

 そう。これは、少し前までのプチ・サヨにあった、「正義の研究者」Vs「悪の政府系御用学者」という実にわかりやすい図式と同じなのだ。

 そこでは、オールラウンド・プレーヤーである市民派博士が登場し、官僚と癒着したり営利企業から金をもらう悪の手先をばったばったと懲らしめる。まるで、水戸黄門の世界だ。だが、奇妙なことに、なぜか彼らは専門分野を超えて、すべてに精通しているのであった。




 世代がわかってしまうのだが、例えば、私が子どもの頃に魅了されてやまなかったウルトラマンやウルトラQの舞台設定を考えてみよう。ここでも、学術的中立的な立場から科学特捜隊にアドバイスしてくれる、学術顧問、正義の科学者が登場した。彼らも万能だった。

 例えば、ウルトラマンに登場する平田明彦演ずる岩本博士を登場させてみよう。

「博士、東京湾に怪獣が出現しました」

「おおっあれは、古代生物ペギラ」

 おいおい、何でわかるんだ。

「博士弱点は」

「ペギラは南極の苔から取れるペギミンHに弱い。それを撃つんだ」

 おいおい、何で知っているんだ。そんなことまで。

 だが、実際のリアリティの世界はこうなるだろう。

「どうもあの一般的形容から判断するに、ペギラのようにも思えるが、身体の表面にあるざらざらした斑点の数を見ると微妙に少なく、ウルトラマンに登場するチャンドラーのようにも思える。ペギラであればペギミンHは有効だが、チャンドラーだと効力を発揮しえない。いや、より正確に言えば、効力を発揮しえるかのどうかの学術データが累積されていない」

「じゃあ、博士どうすればいいんですか」

「私だけでは判断しかねるので、そうだ。これから、ペギラ・チャンドラー学術特定委員会を開催し、そこで協議をしよう。開催にあたってはウルトラQの一ノ谷博士の出席が欠かせないし、出来れば、別の観点からジュラシック・パークのグラント博士にも特別委員として同席していただいた方が良いと思うが、両博士とも、ニューヨークで開催されている第4回国際古生物生息環境学会に参加されているため、委員会は帰国されてからだな」

「あの、岩本博士、いま、この瞬間にもペギラでもチャンドラーでもいいけど、都民が足で踏み潰されて、死傷者が続出しているんですが・・・・」

 そう。科学者は万能ではなく、専門分化してしまっているのだ。科学が必ずしも正解をもたらさないとなれば、そこにリスクをかけた判断が必要となる。

「よし、あれは、ペギラだ。ぺギミンHを撃て」

「しかし、キャップ。もし、チャンドラーだった」

「いまその瞬間にも人々が殺されている。たとえ、ペギミンHが効かなくても、俺が腹を切ればすむことだ。やれ」

 行政とはこうしたものだ。

 だが、科学特捜隊と違って、権限が地方分権化されていないと状況はさらに複雑になっていく。

「キリヤマ隊長、あなたの判断で命令してください」

「駄目だ。ヤマオカ長官の判断がいる。そして、長官が御判断するには、ヤナガワ参謀、タケナカ参謀、ボガード参謀、フランツ・グルーベル参謀がそれぞれが協議して・・・・」

「キリヤマ隊長、ヤマオカ長官の御決済はまだもらえんのですか。もう、参謀さんたちの意見具申はとっくに終わったんでしょ」

「ああ。長官は最終的にペギミンHを打つとの御判断をされたのだが、その後、パリ本部から横槍が入り、極東支部だけの自己責任ではできなくなったのだ」

「でも、なんでまた、こんな非常時に。スペシャル・ピリオドなんでっせ」

「ペギラが出現した以上、パリにも出るかもしれない。たった一発しかないペギミンHをそんなリスクがあることには使えんと言うわけだよ。しょせん、欧米人ならばともかく、我々黄色人種が殺されてもかまわんという、人種的な価値判断があるんだろうな」

「・・・・・」

 とまあ、こうなるだろう。そして、科学にはトーマス・クーンの言うパラダイムもある。つまり、アカデミックであれば、常に真理に到達できるとは限らないのである。さあ、どうする?。次回に続く。