遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

金工23.別府細工「芯入れ」「芯切」

2022年05月21日 | 金工

突然ですが、金工の品物です。

燭台とセットで使う芯切りと芯入れです。

芯入:最大径 5.2cm(把手状の鉤部含まず)、高 7.1㎝。重 206g。蓋:最大径 4.2㎝、重 24g。

芯切り:長 10.6㎝、幅 3.1㎝。重 25g。 江戸時代後期。

以前、古伊万里コレクターDr.Kさんが染付山水紋灰吹きを紹介されていました。それに対して、この品は、芯入れではないか、とのコメントが寄せられました。

故玩館には、陶磁器の芯入れはありませんが、銅器ならと探しだしたのが今回の品です。

江戸時代、燭台に和ろうそくを燈す場合、熱で蝋が融けて芯がどんどん長くなり、燃えすぎるため、適宜、芯を切って、長さを調節する必要がありました。そこで使われたのが、芯切りと芯入れです。

別府細工は、江戸時代後期、美濃国別府村(現在のJr東海道線穂積駅付近)で、広瀬清八、茂十郎親子によって、30年ほどの短期間だけ作られた蝋型銅器です。唐子や唐人がモチーフとなった燭台や水滴など、エキゾチックな品々が作られ、全国に行きわたりました。この場所は当時一寒村にすぎず、どうしてこのような品が造られたのか、大きな謎です。現存する品は限られていて、骨董市場では良い(良すぎる(^^;)値がつきます。特に地元には熱狂的なコレクターがいて、地元高の品の代表になります(^^;

そんなわけで、故玩館の近隣ではありますが、ビンボーコレクターとしては、小品をぼつぼつと(^.^)

今回の品は、大きさからして、50cm超の大型燭台の付属品でしょう。そんな途方もない本体にはとても手が出ませんから、はぐれた物でも、と勇んで求めた品です(^^;

砂金袋でしょうか。蝋型銅器特有の肌が魅力的です。

所々に孔が開いていますが、破れ袋を意識して、人為的に作られたものでしょう。

紐の装飾は、別府細工にしばしば見られる装飾です。

よく見ると中央に龍の模様が施されています。

顔のまん中に丸い目が一つと、唇がめくれ上がった龍は、別府細工に時々見られます。

蓋にも龍のような模様があります。

蓋の摘みは紐つくりです。

芯切りは鋳造ではなく、真鍮の板で出来ています。何の変哲もない芯切り鋏ですが、柄に丸い凸装飾が施されています。

芯入れは底が平らでなく、床に置いた時安定していません。平らな所に置くようにはなっていません。別府細工の燭台は、梯子や網干をモチーフとした物が多いので、そこへ芯入れの鉤部を引っ掛けておくようになっていたと思います。また、大型燭台の途中にはフックがついていて、芯切はそれに掛けておいたのでしょう。

どこかにあるであろう名品、大型別府細工燭台を想像しながら、掌の上で小さな品を弄んでみました。

蝋型銅器の質感は、何とも言えません(^.^)

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古面26.珍品、漆喰細工「般若?生成?」

2022年05月19日 | 古面

私が集めている古面は木彫です。張りぼてや陶磁器などの面はパスしています。しかし、例外的に、どうしても手元に置きたかった面がありました。それが、今回の品です。

幅 13.3㎝x長 21.7㎝x高 9.8㎝。重 1.12㎏。明治ー大正。

漆喰で出来ています。

幕末から明治、大正にかけて、左官職人が土蔵の壁などに漆喰で極彩色のレリーフをつくりました。鏝絵と呼ばれているこれらの作品は各地に残されています。有名な物は、伊豆で活躍したと言われる入江長八が残した長八細工です。

今回の品は、壁の一部をなす鏝絵ではなく、独立した面です。見た所は木彫面ですが、手に持つとずっしりと来ます。

二本の角、金泥の目、大きく裂けた口 ・・・・・  般若です。

良く出来ています。

しかし、冷静に見てみると・・・

角が短い。

怒りだけがつのった表情で、般若のもつ哀しさが感じられません。

人から大きく外れ、獣のような雰囲気です。

これは、般若というよりも、般若になる前の生成(なまなり)といった方が良いように思います。

しかし、左官職人が、マニアックな生成を知っていて、それを作ろうとしたとは考え難いです。実際のところは、長い角にしたら折れやすいので短くして、その分、怒りの表情を最大限に出したのではないでしょうか。結果として、生成になった(^.^)

時代が経って、表面には、ひび割れが多くあります。

さらに額の際には、植毛の跡がみられます。毛が伸びた状態の生成(般若)は、すごい迫力だったでしょう。

左官職人はこの品を、依頼を受けて作ったのか、それとも手すさびで自分用に残したのでしょうか。謎の一品です。

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古面25.oddな「般若」

2022年05月17日 | 古面

今回も般若面です。

14.4㎝ x 27.7㎝ x 8.1㎝。重 319g。江戸後期ー明治。

全体に漆が塗ってあったようですが、かなり剥げています。

眼や歯の金泥彩色はなく、牙も生えていませんが、

どこから見ても、

般若です。

しかし、

なぜか、

二つの角の長さが大分違います。

 

能舞台用ではないとしても、

これは一体どーゆーこと!???

 

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古面24.早成?の「般若」

2022年05月15日 | 古面

時代の痛みが酷い面です。

16.5㎝ x 23.3㎝、重 267g。江戸時代。

般若系統の面です。

しかし、正統派の般若面からは大きくはずれています。

この品でまず目につくのは、通常の木彫面の作り方とは異なる点です。この面の場合、木彫部に直接胡粉を塗って彩色するのではなく、まず和紙を貼って、その上に胡粉を塗り、彩色してあります。それが剥がれて、木部が露わになっています。特に下方部は酷い状態です。

良くできた面です。しかしこの品は、やはり能に使う面ではないと思います。

能面にしては、裏側の造りが甘い。

さらに、

右側には紐穴がありますが、

左側には何もありません。これでは面を着けれません。

この品は、人が被る面ではなく、奉納面の類でしょう。

 

般若系の面としてこの品を見てみると、

金泥が塗られた眼、大きく裂けた口と牙など、般若面の特徴を備えています。

しかし、

頭には角が生えた形跡がまったくありません。

角のない般若?

正面から見ると、チョッとおまぬけの般若さんという感じです(^^;

怨み辛みの塊の顔ではなく、「恨めしいなあ」と半ば諦めの表情ですね(^.^)

下から見れば・・・

おまぬけさんそのもの。

唯一グッと睨むのは、少しうつむいた角度の時だけ。

泥眼 ⇛ 生成、橋姫 ⇛ 般若(中成) ⇛ 蛇(本成)

という由緒正しい般若形成ルートをたどらずに、

泥眼 ⇛ 般若(中成) へと、一足飛びに般若になってしまった面と考えたらいかがでしょうか。

怒りと怨念を増幅に、増幅を重ねて般若に到るのではなく、猛スピードで般若になってしまった。いわば、早成の般若面ですね。そのため、角が生える時間がなかった。結果、怒り、恨みよりも諦めの表情の般若になってしまったのでしょう。

もし、傍の誰かさんが変身したとしても、こんな早成の般若なら安心ですね(^.^)

でも、うつむき加減で睨まれたら怖い(^^;

 

 

 

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古面23.やけに無気味な「泥眼」

2022年05月13日 | 古面

先回、先々回のブログで、『葵上』の能画を紹介しました。この能は、光源氏との愛に破れ、葵上に激しい嫉妬と恨みをもった六条御息所の生霊が、病床の葵上に襲いかかるも、僧に調伏され、成仏するという物語です。

怨念を主題にした能ですから、面が重要なアイテムです。六条御息所の生霊がつける面は、前半では泥眼、後半では般若です。

故玩館には、正統派の能面はわずかです。そのかわり、能面もどきは多くあります(^^;

そこで、般若を中心に、ガラクタ面を紹介したいと思います。

なお、例によって雑多な面がまだ数多く控えているので、整理の都合上、タイトルに面番号をふる事にしました。以前紹介した面をざっと勘定すると22枚ほどになるので、今回を23番目としました。

幅 13.0㎝x長 21.6㎝、重317g。近年作(明治ー昭和)。

怨みをもった女の生霊の面、「泥眼」です。

般若になる前の段階の面です。大変不気味です。

この品は、能に使われる目的で作られた物ではないと思います。

まず、あまりに不気味すぎます。典型的な能では、前半にいわくありげな女や老人が登場し、後半では、怨霊、幽霊、神などに変身します。その落差が大きくないと劇になりません。ですから、前半に登場するシテの面は、怪しさを秘めながらも、品格をもった人間の様相でなければなりません。ところがこの面は、異形の相貌です。

また、裏側の彫りは、能面以外の一般的な面に共通した彫り方です。能役者は能面を付けて謡い、舞います。この時、演じ手には違和感なく、演じ手と一体になる面が良い能面です。そのために、能面作者は、裏側も大変力をいれて彫り上げます。結果、裏面も、独立した面のように仕上がっているのです。また、大きさは標準的ですが、能面としては重すぎます。

それはさておき、今回の品は、生霊の面としてはよくできています。

どこから見ても不気味です。

光の当たり具合によっても見え方が変わります。

おまけに、偶然か意図的かはわかりませんが、額には亀裂が走っています。

故玩館には100枚ほど、内外の面がありますが、たいていの面は、どこか愛嬌があるものです。

しかし、この面は不気味さに徹していて、怖い(^.^)

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