時代の痛みが酷い面です。
16.5㎝ x 23.3㎝、重 267g。江戸時代。
般若系統の面です。
しかし、正統派の般若面からは大きくはずれています。
この品でまず目につくのは、通常の木彫面の作り方とは異なる点です。この面の場合、木彫部に直接胡粉を塗って彩色するのではなく、まず和紙を貼って、その上に胡粉を塗り、彩色してあります。それが剥がれて、木部が露わになっています。特に下方部は酷い状態です。
良くできた面です。しかしこの品は、やはり能に使う面ではないと思います。
能面にしては、裏側の造りが甘い。
さらに、
右側には紐穴がありますが、
左側には何もありません。これでは面を着けれません。
この品は、人が被る面ではなく、奉納面の類でしょう。
般若系の面としてこの品を見てみると、
金泥が塗られた眼、大きく裂けた口と牙など、般若面の特徴を備えています。
しかし、
頭には角が生えた形跡がまったくありません。
角のない般若?
正面から見ると、チョッとおまぬけの般若さんという感じです(^^;
怨み辛みの塊の顔ではなく、「恨めしいなあ」と半ば諦めの表情ですね(^.^)
下から見れば・・・
おまぬけさんそのもの。
唯一グッと睨むのは、少しうつむいた角度の時だけ。
泥眼 ⇛ 生成、橋姫 ⇛ 般若(中成) ⇛ 蛇(本成)
という由緒正しい般若形成ルートをたどらずに、
泥眼 ⇛ 般若(中成) へと、一足飛びに般若になってしまった面と考えたらいかがでしょうか。
怒りと怨念を増幅に、増幅を重ねて般若に到るのではなく、猛スピードで般若になってしまった。いわば、早成の般若面ですね。そのため、角が生える時間がなかった。結果、怒り、恨みよりも諦めの表情の般若になってしまったのでしょう。
もし、傍の誰かさんが変身したとしても、こんな早成の般若なら安心ですね(^.^)
でも、うつむき加減で睨まれたら怖い(^^;