遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

古九谷瓢形中皿(5客) ~藍九谷転じて古九谷となる~

2021年12月12日 | 古陶磁ー全般

昨日のブログで、古伊万里コレクターのDr.Kさんが、大名品「色絵角徳利」を紹介されていました。私は、焼成時の窯疵を色絵で覆った所に魅入られました。そこで、古伊万里貧庫の故玩館としても何か出さねば、ということになり、今回の品のアップとなりました。

この品は、私の拙い古伊万里類の中では、一番の愛蔵品です。

瓢形の変形皿、5枚です。表の図柄はほとんど同じですが、裏側の模様の配置が微妙に異なります。染付けだけの同型皿は、藍九谷として散見される品です。

5枚を順に見ていきます。

1枚目:

17.1㎝x12.4㎝、高3.2㎝。江戸前期。

高めの櫛高台を備えた瓢形の変形皿です。瓢箪形の皿は古伊万里には結構あるのですが、この皿はひしゃげた瓢箪形です。そして、よくある陽刻紋ではなく、見込みを、ゆるやかな凸状の堤で大きく3分割しています。この凸凹は裏側には全く見られません。その意味では、陽刻の部類に入るのでしょう。ただ、これだけ大きく凸部を作ると器体に相当の歪みをもたらすのではないかと思われます。

3分割の左下には、染付で、海藻、水車、鳥が墨弾き技法も交えて、描かれています。不思議な絵です。残りの三分の二は、古九谷様の色絵模様が描かれています。裏面には、瓢箪と蔓が描かれています。

左下の染付部分に、窯疵があります。成型時の歪みが表れたのでしょう。疵は段差になっていて、裏側に抜けていています。疵の部分は、黒(濃茶?)釉で埋めてあります。

で、裏側を一見すると疵らしきものは見当たりません。ところが手で触ると確かに段差があります。その部分には、緑の葉と蔓(黒線と紫釉)が左下から右上に描かれています。ですから、窯疵は、チョッと見ただけではわかりません。

2枚目:

17.2㎝x11.8㎝、高3.7㎝。江戸前期。

桐紋の右端に、段差のあるニュウがあります。

裏側にまでニュウ(段差有り)が抜けていますが、葉と蔓でうまく隠しています。

3枚目:

17.4㎝x12.5㎝、高3.4㎝。江戸前期。

 

段差のある太いニュウが、染付部の右下端から上へ伸び、よろけ紋を横切って、地紋の右上まで伸びています。器の半分以上にも及ぶ大ニュウです。染付部の段差は他の皿と同じように、黒釉で埋めてありますが、色絵部分にはわずかに透明釉を塗っています。

裏側は、手で触ってそれとわかるニュウが、下の緑の葉からまん中の緑葉へ、さらに瓢箪下部、黄色の葉へと走っています。ニュウは、高台にまで及んでいます。瓢箪の実と蔓の色絵で、うまくかわしています。

4枚目:

17.0㎝x12.1㎝、高3.2㎝。江戸前期。

やはり太いニュウが、染付部右下から上へ走っていて、矢車紋の中にまで及んでいます。

ニュウは、緑の葉から瓢箪のまん中を通っています。見ただけでは、全くわかりません。

5枚目:

16.9㎝x12.0㎝、高3.3㎝。江戸前期。

窯疵は、染付部の右中から色絵のよろけ部に及んでいます。他の4枚の皿と違って、染付部の疵だけでなく、よろけ部の線も、黒釉で埋めています。というより、窯疵に合わせて、よろけ紋を描いたのではないかとさえ思えます。

他の皿と異なり、裏側には、目立った疵は見られません。どうやらこの皿の窯疵は、高台に沿って走っていて、裏面には現れなかったようです。

このように、今回の品には、全部、大きな窯疵があり、それを隠すように色絵が施されています。当時、莫大な経費の掛かる陶磁器は貴重品で、なるべく不良品を少なくせねばなりませんでした。しかし、今回の品のような変形皿では、窯疵のある品が多く出たと考えられます。そこで、貴重な品を生かすために、疵部の上に色絵で絵を描き、不具合を解消しようとしたのではないでしょうか。

一番の問題は、今回の品が染付皿の疵をその場で色絵修正したのではなく、近代に絵付けされた後絵でないかという疑念です。

正確な時代を知る決定的な方法はありません。しかし、藍九谷として作られた物の中の疵物をその場で色絵修正したのではないか、と考えられる理由はいくつかあります。
➀これだけ大きな窯疵がある品物が、不良品として廃棄されず、そのまま後世まで伝わる可能性は低い。
②贋物を作るなら、完品に色絵を施す方が自然である。
③施された色絵は17世紀後半の古九谷様式であり、染付瓢形藍九谷皿が作られた時代と一致する。
④色絵部全体にハレーションが見られる。

さらに、もし、作られてから長い年月が経った後に色絵が施されたなら、器体表面にできた傷の上に新しく色釉をおくわけですから、傷がそこで消えることになります。そこで表面の傷を調べてみました。

表面の疵(染付部と色絵部(菱形紋)境界付近)

一番傷がつきやすい凸帯付近で、染付部と色絵(赤菱紋)との間に、傷線の断絶があるかを観てみました。表面の傷は、両方にまたがっています。どうやら、染付と色絵は、同じ時期に作られたと考えるの妥当なようです。

以上の状況証拠によればかなりいけそうな気がしますが、最終的には、私の直感と信念で、 
「藍九谷転じて古九谷となる」(^.^)

 

顕微写真を撮ったついでに、他の場所の写真ものせておきます。

表面の大窯疵を黒釉で埋めた部分:

表面、桔梗の花(黄)と葉(紫):

表面、菱形地模様と桐の葉(緑):

赤絵の筆使い(上下、前後関係)がよくわかります。

コメント (4)
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