先回のブログで、私としては記録的な大きさの陶胎七宝大花瓶を紹介しました。
しかし、この大花瓶、当初から違和感がありました。
1.他の陶胎七宝に較べて、手取りが重い。
2.他の陶胎七宝に較べて、色調に落ち着きがない。
3.器体の肌合いが、下部と上部で異なる。
1.については、産地がこれまでの京焼とは違うことによると思われます。
2.これも、1.と同じです。この品はおそらく横浜近辺で作られた品ではないでしょうか。
3.は最も深刻です(^^;
こんな手間のかかる贋物をわざわざ作っても、ペイしません。
考えられるのは、疵の補修です。
そこでもう一度、下から上まで詳しく見てみました。
大花瓶の上部の七宝の表面が少しぼやけています。
神経を集中して指で触ってみると違いがわかります。
陶器や七宝の表面はガラス質ですから、ヒヤッとした感じがします。これは、熱伝導度が大きく、指先から熱が奪われるからです。ところが、塗料がぬってあるとプラスチックで覆われているわけですから、熱が伝わり難く、ヒヤッとした感じはしません。
また、物の本によく出てくる10円玉で擦るのも有効です。表面の平滑度が違いますから、滑り具合や音の違いになって表れます。
どうやら、上部の七宝部分には、その下の陶器の輪状部もふくめて、透明な塗料が塗ってあるようです。
陶胎七宝部の下方部は透明塗料が剥げて、本来の地がのぞいています(^^;
(
この部分は大きく剥がれています。
写真で青い三角形の部分は、左方の青い地と異なります。左側の青部は陶胎七宝の青色、写真ではわかりずらいですが、ジカンがあります。それに対して、右方の三角形の青い部分はスベスベです。七宝釉ではなく、青いパテが充填されています。
この品の金属植線による地模様は渦巻きですが、右青三角形の部分にはそれがありません。この場所が、大きく傷ついていたことがわかります。透明塗料の剥がれ部分を見ると、渦巻き模様が途中で切れています。塗料の上に描かれていたのですね(^^;
さらにその下のクリーム色の輪状陶磁部をよく見ると、左側のジカンに見える部分は、非常に細い筆で黒線を描いてあることがわかります(顕微写真機が壊れてしまい、拡大写真が撮れません)。
口の内側にも剥がれがあります。この部分は、外側と異なり、クリーム色のペイントがべったりと塗ってあります。
大きく剥がれた部分は、陶胎があらわれ、薩摩系に特有のジカンが一面にあります。ニュウのような線も見えます。
またそこには、本来の蔓の一部があらわれています。つまり、口内の模様は、オリジナル模様の上をなぞって新たに描かれていることがわかります。
奥までペイントは塗られています。
このように、非常に手のこんだ補修がなされていることがわかりました。
おそらく、英国のプロによる修復でしょう。
さて、どうするか。
このままでも、何とか鑑賞には耐えます。
しかし、いったん補修物とわかってしまったからには、オリジナルがどのような物であったかを知りたいと思うのは人の常(^.^)
Dr.Kさんにならって、秘密のベールをあばくことにしましょう。
作業に一週間以上はかかると思います。
今回の教訓:大きさに 目を奪われて 疵花瓶。
全く、トホホの経験でした(^^;
陶胎七宝関係はまだまだ続きますが、とりあえず第一部、終(^.^)