遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

能楽資料15 江戸の小謡集(4)『萬葉小謡千秋楽』

2020年10月20日 | 能楽ー資料

江戸の小謡本の4冊目です。

 

    『萬葉小謡千秋楽』

京都書肆 菊屋長兵衛、天明七(1787)年、56丁。

 

挿絵を描いているのは、先回の『観世當流大宝小謡諸祝言』と同じ、京浮世絵師、下河邊拾水です。

本の大きさは他の小謡集と同じですが、厚さが倍近くあるぶ厚い本です。

 

見開きは、おめでたの高砂図。誰かが赤で手彩色を施しています(^^;

 

 

目録を見ると、高砂以下、二百番余もの小謡が載っています。

御裳濯、神有月、護法、鼓瀧など今では演じられない曲も多くあります。

 

目次の下の絵は、能楽に必要な装束や道具を運び入れている様子です。

立派な門の前には門番が立ち、その横には、武士が跪いて一行を迎えています。大名の関係者でしょうか。規模の大きな能楽の会、おそらくは勧進能の場外の場面でしょう。

 

下の図には、楽屋の様子が描かれています。

 

右上は、謡本の記号の説明。

右下は、楽屋の様子。小鼓方の調整と役者の装束付け。

 

この謡本には、やはり上欄が設けられていますが、他の小謡集のようにプチ教養的なものはなく、すべて能、謡いに関したものばかりです。

この頁の上欄は、謡いではなく、語りの部分がのっています。先回の『観世當流大宝小謡諸祝言』と同様、謡いでない所にも重点がおかれています。

 

絵師が挿絵を描いているので、これも見どころです。

           加茂

 

           熊野

 

            道成寺

 

この本では、狂言も扱っています。

        朝比奈

 

          末廣

 

        靱猿

 

そして、この本の最大の特徴は、謡いそのものについての説明が多くなされていることです。

 

何が書かれているのか、少し見てみます。

〇謡とハ、うたうたふといふ
ことにして、すなハち和歌
を吟ずるに等けれバ、仮名
遣をあらため、五音をよ
く弁へしるべし。五音を
しらざれバ常に言もわろし。
    かなづかひをあらためる 
    とハ高祖皇帝の類。五
    音をしれとハ、はひふへ
    ほと唇にあたり、たち
    つてとと舌のさきにか
    けていふべき類なり。
芸をまなハんとこゝろざす
人ハ、まづ正直をもとゝして
すこしの事にも慢ずる心
なくその道に進むべし。す
なをならねばすゑ通らず。
 よろづのみちこれに同じ。
諷をうたふべし。聲をうた
ふハきたなきなり。謡を
うたふとハ、その唱歌の文章
によりて、祝言ならバ其意
をうたひ、哀傷恋慕の
類それ〳〵の情をうたふ
べきことなり 。

これは謡い方の一部ですが、その外、謡いの心構え、学び方、発声の仕方などが書かれています。

現在の能や謡曲関係の本では、こういった記述はほとんどありません。当時の人々の謡いに対する思いが反映されていると考えると興味深いです。

 

 

 

 

コメント (4)
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