フレデリック・フォーサイスの小説『ジャッカルの日』を読んだのは20年ぐらい前だと思う。
読み応えのある内容だった。
フォーサイスはジャーナリストとしての経験から、
歴史の表舞台に登場しない「裏の世界」についての情報に通じていた。
『ジャッカルの日』も、どこまでが本当で、どこからがフィクションなのか、よくわからない。
欧米諸国の各諜報機関の内情とか、テロ組織や犯罪組織の動向とか、
国際政治の闇の部分などを実にリアルに描く。
この小説はフランスのド・ゴール大統領暗殺未遂事件を背景にしている。
第二次世界大戦後のフランスの政治は混乱し、植民地政策を巡って国論が割れていた。
第一次インドシナ戦争では、ディエンビエンフーの戦いでフランス軍が敗北し、インドシナ半島から撤退する。
その他の植民地も手放していった。
だが、アルジェリアは、なかなか手放そうとしなかった。
アルジェリアでは、民族解放戦線(FLN)が中心となって、激しい独立闘争が続く。
アルジェリア戦争である。
FLNは爆弾テロ攻撃などを強化し、商店や学校などが襲われた。
プラスティック爆弾があらゆる場所に仕掛けられた。
数多くの民間人が犠牲となる。
これにに対し、フランスは徹底的な掃討作戦で、これを鎮圧しようとした。
これまた、残虐非道なもので、テロ組織を支援した疑いのある村の村民虐殺が行われる。
フランス側の犠牲者は約10万人、アルジェリア側は100万人以上の死者を出したと思われる。
想像を絶する血生臭い戦いであった。
フランスの過酷な弾圧に対し、国際世論はアルジェリアに同情的だった。
フランス国内の世論も大半は、犠牲の大きさを嫌い、アルジェリア独立を認める方向へ進む。
もはや植民地を維持することは、割に合わない時代になったのだ。
しかし、数多くの犠牲を出した軍部や極右勢力、アルジェリア在住フランス人たちが、
強硬に反対した。
そして、アルジェリア独立反対派による反乱が起きて、第4次共和制が崩壊する。
反乱勢力は、第二次世界大戦のレジスタンスの英雄であるド・ゴールを政府首班に担ぎ出す。
こうして、ド・ゴール政権が誕生する。
ド・ゴールは着々と政権基盤を固め、大統領権限を強化した第5次共和制で大統領となる。
これで、フランスはアルジェリアを手放すことはなくなるはずだ!
ところが、ド・ゴールは極めて現実的な人物だった。
さっさとアルジェリアの自治を認め、テロ組織FLNとの交渉を進める。
アルジェリアはフランスの重荷でしかないことを、ド・ゴールは熟知していたのだ。
極右勢力にとって、ド・ゴールは裏切り者だった。
何が何でもド・ゴールを倒さねばならない。
幾度と無く反乱や大統領への暗殺未遂が続いた。
ここまでは史実である。
ジャッカルの日の解説なども参考になるだろう。
こうした背景に暗殺のプロフェッショナル“ジャッカル”が登場する。
ここからが、小説の世界、少なくとも表の歴史に載らない話となる。
極右勢力が組織した秘密軍事組織は、ド・ゴールを消すために、
政治暗殺のプロを雇うことにする。
この殺し屋は、単なるマフィアの手先程度とは違う。
法外な報酬を要求するが、仕事は完璧に果たす。
恐るべき殺しのプロフェッショナルだ。
殺し屋“ジャッカル”に接触を試みると、
それを“ジャッカル”は、察知する。
極右組織の情報や暗殺目的、暗殺対象を徹底的に調査する。
極右組織に余り金がないことも承知だ。
“ジャッカル”は金を作る方法として、銀行強盗を勧める。
一斉に各地で銀行強盗が頻発するようになった。
“ジャッカル”への報酬を払う金を作るためだ。
“ジャッカル”はド・ゴール個人の情報も徹底的に調査する。
ド・ゴール本人が暗殺者に狙われていることを知っていても、
絶対に欠かすことのできない式典があることを“ジャッカル”は把握する。
暗殺のプロはまるで心理学者のように、ターゲットを知り抜くのだ。
暗殺計画の存在は、やがてフランス諜報機関の知ることとなった。
この諜報機関というのも、平気で人を拷問にかける。
フランス政府は対策を思案した挙句、一人の優秀な刑事に全権を委ねた。
刑事は“ジャッカル”との対決のために、政府の全ての資源を活用できる。
小説はこの刑事と“ジャッカル”の対決というストーリーになってくる。
フランス政府に計画が露見したことを“ジャッカル”は知る。
極右組織は女性メンバーを政府高官の愛人として送り込んでいたために
“ジャッカル”に政府内部情報は筒抜けだったのだ。
この女性メンバーの気持ちが面白い。
解放勢力に弟を虐殺された恨みに生きる女だ。
なんか極右組織を応援したくなる。
“ジャッカル”は暗殺計画を中止しない。
追っ手をかわしながら、パリに入る。
波乱万丈、お色気を混ぜながら、“ジャッカル”と刑事の対決が進む。
両者は闘争しながらも、相手のプロとしての実力を尊敬しあう。
最後に銃弾がド・ゴールの脇をかすめるが、
刑事が“ジャッカル”を倒す。
“ジャッカル”の死を刑事だけが惜しむ。
こんな殺し屋が実在したのかどうかは知らない。
フォーサイスは、『ジャッカルの日』をベストセラーにした後、
アフリカの傭兵を描いた『戦争の犬たち』でも有名になった。
ところが、後にフォーサイス自身が傭兵を使って、
アフリカの国の政府転覆計画を推進していたことが明らかになった。
この政府転覆は失敗に終わるが、この経験が『戦争の犬たち』に生かされる。
全く、どこまでが事実で、どこからがフィクションか、わからないものを書く作家だ。
それも現代史の闇の部分を扱う点で、興味深い。
読み応えのある内容だった。
フォーサイスはジャーナリストとしての経験から、
歴史の表舞台に登場しない「裏の世界」についての情報に通じていた。
『ジャッカルの日』も、どこまでが本当で、どこからがフィクションなのか、よくわからない。
欧米諸国の各諜報機関の内情とか、テロ組織や犯罪組織の動向とか、
国際政治の闇の部分などを実にリアルに描く。
この小説はフランスのド・ゴール大統領暗殺未遂事件を背景にしている。
第二次世界大戦後のフランスの政治は混乱し、植民地政策を巡って国論が割れていた。
第一次インドシナ戦争では、ディエンビエンフーの戦いでフランス軍が敗北し、インドシナ半島から撤退する。
その他の植民地も手放していった。
だが、アルジェリアは、なかなか手放そうとしなかった。
アルジェリアでは、民族解放戦線(FLN)が中心となって、激しい独立闘争が続く。
アルジェリア戦争である。
FLNは爆弾テロ攻撃などを強化し、商店や学校などが襲われた。
プラスティック爆弾があらゆる場所に仕掛けられた。
数多くの民間人が犠牲となる。
これにに対し、フランスは徹底的な掃討作戦で、これを鎮圧しようとした。
これまた、残虐非道なもので、テロ組織を支援した疑いのある村の村民虐殺が行われる。
フランス側の犠牲者は約10万人、アルジェリア側は100万人以上の死者を出したと思われる。
想像を絶する血生臭い戦いであった。
フランスの過酷な弾圧に対し、国際世論はアルジェリアに同情的だった。
フランス国内の世論も大半は、犠牲の大きさを嫌い、アルジェリア独立を認める方向へ進む。
もはや植民地を維持することは、割に合わない時代になったのだ。
しかし、数多くの犠牲を出した軍部や極右勢力、アルジェリア在住フランス人たちが、
強硬に反対した。
そして、アルジェリア独立反対派による反乱が起きて、第4次共和制が崩壊する。
反乱勢力は、第二次世界大戦のレジスタンスの英雄であるド・ゴールを政府首班に担ぎ出す。
こうして、ド・ゴール政権が誕生する。
ド・ゴールは着々と政権基盤を固め、大統領権限を強化した第5次共和制で大統領となる。
これで、フランスはアルジェリアを手放すことはなくなるはずだ!
ところが、ド・ゴールは極めて現実的な人物だった。
さっさとアルジェリアの自治を認め、テロ組織FLNとの交渉を進める。
アルジェリアはフランスの重荷でしかないことを、ド・ゴールは熟知していたのだ。
極右勢力にとって、ド・ゴールは裏切り者だった。
何が何でもド・ゴールを倒さねばならない。
幾度と無く反乱や大統領への暗殺未遂が続いた。
ここまでは史実である。
ジャッカルの日の解説なども参考になるだろう。
こうした背景に暗殺のプロフェッショナル“ジャッカル”が登場する。
ここからが、小説の世界、少なくとも表の歴史に載らない話となる。
極右勢力が組織した秘密軍事組織は、ド・ゴールを消すために、
政治暗殺のプロを雇うことにする。
この殺し屋は、単なるマフィアの手先程度とは違う。
法外な報酬を要求するが、仕事は完璧に果たす。
恐るべき殺しのプロフェッショナルだ。
殺し屋“ジャッカル”に接触を試みると、
それを“ジャッカル”は、察知する。
極右組織の情報や暗殺目的、暗殺対象を徹底的に調査する。
極右組織に余り金がないことも承知だ。
“ジャッカル”は金を作る方法として、銀行強盗を勧める。
一斉に各地で銀行強盗が頻発するようになった。
“ジャッカル”への報酬を払う金を作るためだ。
“ジャッカル”はド・ゴール個人の情報も徹底的に調査する。
ド・ゴール本人が暗殺者に狙われていることを知っていても、
絶対に欠かすことのできない式典があることを“ジャッカル”は把握する。
暗殺のプロはまるで心理学者のように、ターゲットを知り抜くのだ。
暗殺計画の存在は、やがてフランス諜報機関の知ることとなった。
この諜報機関というのも、平気で人を拷問にかける。
フランス政府は対策を思案した挙句、一人の優秀な刑事に全権を委ねた。
刑事は“ジャッカル”との対決のために、政府の全ての資源を活用できる。
小説はこの刑事と“ジャッカル”の対決というストーリーになってくる。
フランス政府に計画が露見したことを“ジャッカル”は知る。
極右組織は女性メンバーを政府高官の愛人として送り込んでいたために
“ジャッカル”に政府内部情報は筒抜けだったのだ。
この女性メンバーの気持ちが面白い。
解放勢力に弟を虐殺された恨みに生きる女だ。
なんか極右組織を応援したくなる。
“ジャッカル”は暗殺計画を中止しない。
追っ手をかわしながら、パリに入る。
波乱万丈、お色気を混ぜながら、“ジャッカル”と刑事の対決が進む。
両者は闘争しながらも、相手のプロとしての実力を尊敬しあう。
最後に銃弾がド・ゴールの脇をかすめるが、
刑事が“ジャッカル”を倒す。
“ジャッカル”の死を刑事だけが惜しむ。
こんな殺し屋が実在したのかどうかは知らない。
フォーサイスは、『ジャッカルの日』をベストセラーにした後、
アフリカの傭兵を描いた『戦争の犬たち』でも有名になった。
ところが、後にフォーサイス自身が傭兵を使って、
アフリカの国の政府転覆計画を推進していたことが明らかになった。
この政府転覆は失敗に終わるが、この経験が『戦争の犬たち』に生かされる。
全く、どこまでが事実で、どこからがフィクションか、わからないものを書く作家だ。
それも現代史の闇の部分を扱う点で、興味深い。