良い子の歴史博物館

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アドルフ・ヒトラー

2006年03月02日 | 人物
20世紀を代表する人物を一人だけ挙げなさい。
と、言われたら、私はヒトラーと答える。
様々な意味で現代史の特徴を捉えた独裁者だから。
第二次世界大戦は、この人物を中心に世界が動いた。
まさに世界の中心にヒトラーがいた。

ヒトラーはオーストリア人で、オーストリア・ハンガリー帝国の兵役を拒否し、
ドイツに移住したことがある。
ヒトラー自身の言葉によれば、老大国のオーストリアより、
ドイツの発展ぶりに未来を感じたためらしい。

第一次世界大戦でドイツ軍に志願する。
軍隊生活で多くのことを学んだと後に語っている。
人生で一番の教育だったと。

敗戦後、ドイツ労働者党に入党する。
入党後は、めきめきと頭角を現す。

よくヒトラーのプロパガンダ能力の高さが指摘される。
もちろん、それもあるだろう。

ノルトが思うに、ヒトラーの最大の才能は「組織力」にあったと思う。
党組織を一気に戦闘的集団へと変革していった。
政権を掌握した後も、彼の「組織力」がフルに活用されているように思う。

小政党であった時代から、ナチの凶悪な性格が出ていた。
だが、敗戦国ドイツは、経済の破綻、600万人の失業者、
屈辱的な条約によるみじめさ、などで、極端な思想がまかり通るようになっていた。

ナチと同様に、共産党も勢力を伸ばしている。
結局、共産党の躍進を恐れるドイツ保守層の支持を受け、
ナチが政権を獲得する。

ヒトラー政権発足時は、ヒトラーを支持しない、あるいは懐疑的な人々が
たくさんいた。

驚くべきことに、ヒトラー政権は、破綻した経済の建て直しに成功する。
緊縮財政をやめ、大幅な財政支出で、完全雇用を実現したのだった。
景気が回復し、各家庭に一台フォルクスワーゲンを所持できるほどに、
豊かな生活を楽しめるようになっていった。

よくヒトラーは軍需産業に力を入れたために、経済を回復できたという、
解説を読むことがある。
これは事実の半分でしかない。
実際にはドイツ経済は、民需品も大量に生産するようになっていった。

ヒトラーの成功は経済だけではない。

外交面でもめざましい成功を収める。
屈辱外交から、強気の外交へと転換したのだ。
ドイツ人にとって、屈辱的なヴェルサイユ条約をついに破棄する。
再軍備にも着手する。

ヒトラーは選挙演説で平和を約束した。
実際、一発の銃弾を撃つこともなく、
失われた領土の回復、オーストリア併合と、次々と国際的地位を高めていった。
しばらくの間、他の欧州諸国はヒトラーの行動を黙認するしかなかった。

こうなると、ドイツの一般民衆がヒトラーを熱狂的に支持してしまうわけだ。

いったい誰が、600万人の失業者を救ったのか?
いったい誰が、我々に比較的豊かな生活を楽しめるようにしてくれたのか?
いったい誰が、ドイツに誇りを取り戻してくれたのか?
それは我らが指導者(ヒューラー)ヒトラーではないか!
ヒトラーを支持しない人は、偏屈な変わり者だけだ。

悪魔の力を侮ってはならない。
ヒトラーが信じられないほどの有能さを発揮したことは事実である。

なるほど、ヴェルサイユ体制が既に崩壊寸前だったことや、
ワイマール共和制も弱体化して機能しなくなっていたこと、
優れた経済官僚の策定する財政計画があったことなど、
ヒトラー個人の資質以外に
第三帝国の成功の様々な原因を求めることもできるだろう。

しかし、ノルトの思うに、ヒトラーの才能こそが最も重要な成功の原因だった、
と思う。
ヒトラーでなければ、ドイツがすぐに立ち直ることはなかったのではないか?

だが、ヒトラーは破滅を好む悪魔だった。

敗戦色が強まると、戦争での勝利よりも、
より多くの破壊を目的にしたとしか思えないような、命令を下している。

ヒトラーが語ったという言葉の中に
「支配せよ、さもなくば破壊せよ」
がある。
本心だったのだろう。
完全にドイツそのものですら、破滅させようとしたのだ。
もしドイツが勝利できなければ、ドイツなど滅んだ方が良い!
と考えていた。

ヒトラーの才能には限界があった。
彼は自分よりも弱いもの(ワイマール共和制、ヴェルサイユ体制)には強い。
しかし、自分より強いもの(連合国軍)には対処する術を持たず、弱い。

破壊と暴力、マスメディアの利用、表向きは平和主義、・・・。
一つ一つが現代史の特徴を体現した人物、それがヒトラーである。