気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

そして、春 柊明日香 

2017-07-12 18:37:35 | 歌集
わが作りしネクタイに首しめられて夫は出でゆく転勤初日

想い出をたどりいるのか母の手にほどかれてゆく吾のセーター

エプロンにくるみし蜜柑ころがって畳の上に一瞬の春

間違えて乗りたるバスに揺られつつ虹たつ橋のいくつかを過ぐ

春近き自治会館より老い人がラップ手に手にぞろぞろ出で来

「子を持って知る親の恩」美容師は子のなき吾にほがらかに言う

風呂の椅子に座りて豆の莢をもぐ米寿の母に秋の陽やさし

雪おろし終えたる夫の身体からもうもうと湯気が立ちのぼりおり

明日には忘れてしまう舅姑と桜の下に弁当ひらく

野ざらしのプラットホームを離れゆく一両列車雨に濡れつつ

(柊明日香 そして、春 六花書林)

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短歌人会同人の柊明日香の第一歌集『そして、春』を読む。

柊さんは北海道旭川の方。わたしとほぼ同年代でほんの少し若い。
歌は新かなで詠まれていて、穏やかな印象を受ける。ご両親、舅さん姑さんが高齢で近くにおられて、家族のなかでの生活が素直に詠まれている。
雪国の厳しい暮らしの様子は、例えば八首目の歌から実感としてよくわかる。
三首目の蜜柑、作者の感覚が冴えている。四首目の虹、目線が遠く放たれている。六首目、人の運命はそれぞれ違うのに、美容師はなぜこういうことを言うのだろう。あれこれ揃う人生はない。あればあったで厄介だ。
家族を詠いながら、背景に四季の情緒がうまく詠み込まれている。むかし見た松竹映画の倍賞千恵子が演じるような人生と思ってしまった。
早くに両親をなくし、夫の両親ももはや居ないわたしには、新鮮に見える。多くの人の共感を得る歌集と思った。


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