砂あびる雀みてをり砂あびるといふたのしみをつひぞ知らずに
小さき虹つかのまうかぶふゆの水あびせ重機の泥おとすとき
ひだまりを汲む井戸がある匿つてくれたあなたのちひさな庭に
花槐ほろほろとふる待つのではなくやり過ごすときのながさを
消した火をふたたびともす(同じ火ぢやないけれど)春の闇はやはらか
天津飯れんげですくふ船にのりおくれたやうなはるの夜更けを
壁にもたれねむつてたひとおどろいておとなの顔にもどるさびしさ
おろそかにしてたとおもふ雨がふればヴィニール傘をむだにふやして
チェーンソーと斧といづれかえらべといふ。こゑは冬木の膚の強(こは)さに
ローソンのバックヤードでくちづけをおぼえる子供たちによろしく
(魚村晋太郎 バックヤード 書肆侃侃房)
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第三歌集。魚村さんの歌集から十首えらぶなんて出来ないと思うほど、すきな歌が並ぶ。一首に多くを語らず詰めこまず。読者の視線を遠くに運ぶ。遠くにあるのは詩情だ。旧かなの柔らかさも魅力。連作の「路地と蒟蒻」はマラソンリーディング2015より。朗読を一度は聞かなくてはと思う。ドラマティック。かすかな背徳感。しみじみと色気を感じさせる一冊。