わが額(ぬか)に置かれし友の緑の手ひと滴づついのちを注ぐ
ミルク飲み人形のごとき一本の管なりわれは白湯(はくたう)を飲む
冷房のなき病室に見舞ひくれし小池光の白シャツの袖
「短歌人」の八十周年近きと聞きあと二十年は生きむと思ふ
三人の子らを忘れし母が歌ふ「主われを愛す」オルガンにのせ
ありつたけの生きる力で身構へて母の葬儀へ向かふ車椅子
コロナとは孤独の病と見つけたり誰にも会へず死して焼かるる
死ぬるまでわれは歌はむ 看護師の密かにくれし水羊羹を
一年と九箇月ぶりの車椅子庭にコスモス空に夏雲
もう二度と乗れぬと思ひし車椅子身体が縦になるを驚く
(有沢螢 縦になる 短歌研究社)
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短歌人の先輩である有沢螢の新しい歌集。コロナ禍になってから、螢さんに実際に会うことができなくなっていたが、心のどこかで螢さんのことを思っていた。ならば電話をかけるとか、手紙を書くとかすればいいのに、いつも戸惑っていた。そして歌集が送られてきて、また螢さんの底力を思い知ることになった。わたしも短歌人の仲間として、歌に助けられている。ありがとう。