気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

ひともじのぐるぐる 田上義洋 六花書林

2022-09-20 19:28:58 | 歌集
幾千の花を水面に散らし終へ五月の山へ消ゆる大藤

親鶏の名も書かれたる卵三つ謹んで食む春の夕暮れ

南蛮と蔑せし裔(すゑ)のわれら今カステラおいしく頂いてをり

身のうちゆはがれ来しかとゆくりなく眼鏡レンズはぱらりを外る

街の湯に父と入りしは去年なり寡黙なりしよその日も父は

居酒屋を出で来し男女が手を繋ぐふと街の灯の途切るる辺り

換気扇をりをり回り気まぐれに夏の日差しを細切れにする

触れられてふとも鳴りだす風鈴の鳴り止むまへの音のかそけさ

東京のバナナと飯塚のサブレーが新幹線で東北へ行く

ふるさとの葱のぐるぐる肥後弁のふとも懐かし酢味噌に食みき

(田上義洋 ひともじのぐるぐる 六花書林)

************************

短歌人の田上義洋(たのうえよしひろ)の第一歌集をよむ。短歌をはじめて日が浅いとのことだが、なかなかどうしてかなりのセンスの持ち主とわかる。文語旧かなを使いこなして、違和感がない。モノを見る目が鋭く、独自の切り取りをしながら、のどかなユーモアを醸し出している。音感がよい。「南蛮と蔑せし」は「な」音の連なりが楽しい。音が次の音を呼ぶのだろう。これからの活躍が楽しみだ。