春の雨ゆふべに飢ゑてゆでたまごふたつを蛇のやうに吞み込む
けだものの骨かと見えて川砂のうへに砕けてゐる蛍光灯
薄暮光けふは世界に触れ過ぎた指が減るまで石鹸で洗ふ
牛小屋の裏の茱萸の木、横坐りしてゐる牛の乳ゆがみをり
焚けば減る嵩や野づらに古だたみ四五枚ほどが焼かれてをりぬ
左目は本を読む目で右の目は遠くを見る目、左目使ふ
花のうへに花は積まれて腐りつつ土手へとつづく日ざかりの道
定型に身を委ねれば幾許かわれを失ふよろこびはあり
洗濯機に呼ばれて立ちぬ壇ノ浦新中納言いまはのときに
墓山の向かうにものを焚くけむり、朱欒(ざぼん)かかへて風狂のひと
(大室ゆらぎ 夏野 青磁社)
***********************************
短歌人同人、大室ゆらぎの第二歌集を読む。
大室さんとは親しくさせていただいているが、プライベートなことは話さない人なので、よくわかっていない。不思議なひと。歌が上手い。
歌の舞台は、荒れて人の気配のなくなった原っぱのようなところだ。牛小屋くらいはあるらしいが、犬を連れてゆらぎさんがそこを散歩する。ときに山羊と遊んだりしながら。一方、家では読書家であり、ギリシャ、ローマの古典などを読む。人間よりも動物が好き。こんな人物評をしても歌の面白さは伝わらない。わたしの力で解説など出来るわけもなく、ただただ味わいたい。
散相(さんさう)のわれの眼窩を這ひ出して百年後に咲くゆふがほの花
けだものの骨かと見えて川砂のうへに砕けてゐる蛍光灯
薄暮光けふは世界に触れ過ぎた指が減るまで石鹸で洗ふ
牛小屋の裏の茱萸の木、横坐りしてゐる牛の乳ゆがみをり
焚けば減る嵩や野づらに古だたみ四五枚ほどが焼かれてをりぬ
左目は本を読む目で右の目は遠くを見る目、左目使ふ
花のうへに花は積まれて腐りつつ土手へとつづく日ざかりの道
定型に身を委ねれば幾許かわれを失ふよろこびはあり
洗濯機に呼ばれて立ちぬ壇ノ浦新中納言いまはのときに
墓山の向かうにものを焚くけむり、朱欒(ざぼん)かかへて風狂のひと
(大室ゆらぎ 夏野 青磁社)
***********************************
短歌人同人、大室ゆらぎの第二歌集を読む。
大室さんとは親しくさせていただいているが、プライベートなことは話さない人なので、よくわかっていない。不思議なひと。歌が上手い。
歌の舞台は、荒れて人の気配のなくなった原っぱのようなところだ。牛小屋くらいはあるらしいが、犬を連れてゆらぎさんがそこを散歩する。ときに山羊と遊んだりしながら。一方、家では読書家であり、ギリシャ、ローマの古典などを読む。人間よりも動物が好き。こんな人物評をしても歌の面白さは伝わらない。わたしの力で解説など出来るわけもなく、ただただ味わいたい。
散相(さんさう)のわれの眼窩を這ひ出して百年後に咲くゆふがほの花