●10月号相談事例
相談(1)中学1年生の母から
中学で初めてのテストで思うような結果が出ず、すっかりやる気を失った息子に、「目標
があったからがっかりするんだよ。目標に近づけるようにがんばろう!」と話したところ、
「直前に詰め込むのでなく、毎日がんばるぞ!」と言ってくれたのもつかの間、次の日に
はやっぱりお楽しみが先になって、お勉強は忘れられ……。子どものやる気を長続きさせ
るよい方法は、何かないでしょうか。
(静岡市・HA)
A:『親は海。子どもは船』。こういうときの鉄則は、動揺しないこと。親が動揺すればす
るほど、子どもは不安定になり、落ち着いて勉強に集中できなくなります。目標といって
もこのケースのばあい、それは親の目標であって、子どもの目標ではないということ。親
の目標を子どもに押しつけてはいけません。「目標」という言葉を使って、あなたは子ども
を自分が望む方向に誘導しているだけ。
中1といえば、すでに思春期。『自我の同一性』の構築を始める大変重要な時期です。子
どもがどういう未来像を描いているか(=自己概念)を知り、それを側面から応援してい
きます。が、たいていのばあい子どもの描く未来像は、親の希望とはちがったものです。
そのためこの先、親子の間で長くて苦しい葛藤がつづきます。つまり子どもは親の夢や希
望をひとつずつ潰しながら、成長していきます。それともあなた自身は、親の希望通りの
「娘」になりましたか。
で、第二の鉄則は、『最後まで子どもを信ずる』です。子どもがどんな道を選ぼうとも、
あなたは子どもを信じます。そして子どもにはこう言います。「お母さんは、あなたがど
んな道を選んでも、あなたを信じていますからね」と。
子どもはこうして現実の自分を作り上げていく。つまり自我の同一性を確立していきま
す。やる気(自発的行動)はあくまでもその結果として生まれるものです。
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司
相談(2)小学2年生の母から
毎日、学校から帰ってすぐ遊びに来る子に悩んでいます。遊ぶなら宿題を終えてからに
させたいので、その子と宿題を一緒にさせたり、遊びに来るなら一時間くらい後に来てほ
しいとその子に伝えたこともありますが、わかってくれていないようです。
親御さんは仕事で遅いらしく、なかなか連絡がしにくいです。いい方法はないでしょう
か。
(浜松市・MH)
A:夜、寝る前になってあなたの子どもが、宿題をやっていないと言ったら、あなたはど
うしますか。(1)いっしょに宿題を片づけてやる。(2)「明日、学校で先生に叱られてき
なさい」と言って、寝させる。
「自由」とは、もともと「自らに由(よ)る」という意味です。子育てについて言えば、
「由らせる」。「自分で考えさせ」「自分で行動させ」「自分で責任をとらせる」です。その
自由が子どもを自立させます。
こういうケースのばあい、言うべきことは言い、あとの判断は子どもに任せます。小2
といえば、その自覚のある子どもは、どんなに忙しくても時間を見つけ、宿題(勉強)
をします。そうでない子どもは、いくら親がお膳立てをしても、つまり時間を作ってあ
げても、宿題をしません。仮に相手の子どもが1時間あとに遊びに来るようになっても、
宿題はしないでしょう。相手の子どもの親に相談しても、無駄です。そういう点では、
あなたの家庭教育はすでに失敗しています(失礼!)。自分の子どもが宿題(勉強)をし
ないことを、相手の子どものせいにしてはいけません。
過保護ママと依存性ベタベタの子ども。この相談の向こうに見えるのは、そんな母子関
係です。それを是正するためには、心を鬼にして、先の(2)のような親をめざしてくだ
さい。子どもは小3前後を境に、急速に親離れを始めます。今のあなたにとって大切なこ
とは、「いかにうまく子離れするか」です。
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司
●9月号相談事例
相談(1)小学2年生の父から
小学2年生の息子に「目標に向かってがんばれる力をつけたい」という思いから、小
3の誕生日までにクリアできそうな課題を設けてがんばらせようかと思っています。課
題をクリアできれば、ごほうびは何でも欲しい物を買ってあげるつもりです。
でも妻から、「ごほうびがないとやる気が出ない子にならない?」と言われて、止め
た方がいいかと迷っています。こういうやり方は、いけないのでしょうか?
A:完全に的はずれです(失礼!)。動機付けの三悪に、無理、比較、条件があります。
「課題をクリアできれば…」は、この中の条件ということになります。よくあるのは、
「100点を取ったら、小遣いをあげる」というもの。
条件のこわいところは、年齢とともにエスカレートしやすいこと。小学生のときは、
1000円のほうびでも、高校生になると、10万円になります。
さらに進むと、条件なしでは、何もしなくなります。物欲と結びつくと、さらにやっ
かいなことになります。それが必要だから、それを求めるのではなく、物欲を満足させ
るために、それを求めるようになります。脳の中で、ニコチン中毒と同じようなメカニ
ズムが働くようになります。
で、問題は「課題」の中身ということになります。もしそれが個人的なものであれば、
「自分のためにする」を徹します。勉強であれば、なおさらです。「勉強は自分のた
めに、自分でするもの」と。
大切なのは、達成感です。「できた!」という実感が、子どもを前向きに引っ張って
いきます。
「何でも欲しい物を買ってあげる」? 愚かな育児観は捨てなさい(失礼!)。あの
バートランド・ラッセルは、こう書いています。『限度をわきまえた親のみが、真の
家族の喜びを与えられる』と。
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司
相談(2)小学4年生の父から
小学4年生の長男のことで相談します。
私の仕事が忙しく、なかなか相手をしてやれないまま過ごしてしまったのがいけなか
ったのか、遊びといえばひとりでゲームばかり、友達と遊んだり外に遊びに行ったりし
ません。
先日、「外で遊ばないの?」と聞いたところ、「外で何して遊べばいいの?」と返され
て、がく然としました。このまま、集団で遊ぶ経験もなく成長すると、どんな子になっ
てしまうか不安です。今からできることは、何かないでしょうか?
A:(相手をしてやらなかった)から(ゲームばかりする)と、短絡的に結びつけて考
える必要はありません。あなたは父親として、じゅうぶん、その責任を果たしています。
たしかに最近の子どもは、集団で遊ぶということをしません。が、こうした傾向はすで
に20年以上も前から始まっていることです。
で、どんな子どもになるかですが、すでにあなたの子どもは大きな流れの中にいます。
その流れの中で、子どもたちはつぎの世界を創りあげていきます。その流れに対しては、
私もあなたも、無力でしかありません。あえて言うなら、つぎの格言が役に立つでしょ
う。『子どもを産み育てるのは母親の役目。狩の仕方を教えるのは父親の役目』(イギリ
スの教育格言)と。
つまり社会性の養成と、母子関係の是正。この2つがこの時期の父親に与えられた重
要な使命と考えてください。
なおゲームについてですが、韓国や中国では、ゲーム中毒が問題にならない日があり
ません。そのための矯正プログラムや矯正施設もできています。が、この日本では、野
放し。ゲームを批判しただけで、猛烈な抗議の嵐にさらされます。私自身も経験してい
ます。
ゲームを許すにしても、ある程度の自制は必要です。時間を決めてさせるとか、ゲー
ムの内容を決めるとかなど。
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司
●8月号相談事例
相談(1)小学2年生の母から
小学2年生の三男は、1年生ときから、「最後までやり遂げようという意志は認めますが、
行動がほかの子に遅れがち」と、担任の先生に面談で言われます。では、実際にどうした
ら早く行動できるようになるのか知りたいです。
3人兄弟の末っ子で、とてもマイペースな子になってしまったようで、親としてもどう
していいのかわかりません。
A:『欠点を見つけたら、ほめる』です。子どもには、こう言います。「最近、あなたは早
くできるようになったわね。先生も、ほめてくれたわよ」と。欠点を責めれば責めるほど、
子どもは自信をなくします。それが悪循環となって、子どもはますますあなたの望むのと
は、別の方向に進んでしまいます。
また子どもに何か問題を見つけたら、『子どもは家族の代表』と考えます。子どもの問題
は、家族の問題ということです。先生はたぶん、子どもの緩慢行動を言ったのだと思いま
す。が、こういうケースのばあい、まず疑ってみるべきは、あなた、つまり母親の育児姿
勢です。子どもが生まれたときから、何かにつけ、母親がせっかちで、こまごまとうるさ
いことを言い過ぎた? 「早く、早く」を言い過ぎた? 「根」が深い分だけ、簡単には
なおらない。…と考えて、「うちの子は、まあ、こんなもの」と、子どもの特性を認め、あ
とはあきらめます。『あきらめは悟りの境地』です。子どもというのは、親がカリカリして
いるときは、伸びません。が、親があきらめたとたん、伸び始めます。子ども自身の心が
軽くなるからです。
どうにもならない問題は、どうにもならない。今は、先生とのリズムが合っていない程
度に考え、あまり深刻に悩まないこと。小学3年生以上になり、自己管理能力が発達して
くると、この種の問題は、自然と解消していきます。
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司
相談(2)小学6年生の母から
小学6年生になった息子は、自己主張が強くなり、親としてうれしい半面、自分が興味
をもてないこと、(たとえば苦手な教科の復習など)は、頑としてやりません。
「本人の好きなこと、得意なところを伸ばしてやるとよい」とよくアドバイスされますが、
6年生の今からこんなことでは、この先どうなるのだろうと悩みます。
A:「この先どうなるだろう」ということですが、何も変わりません。5年後も、10年後
も、今のままです。あるいはあなたはいったい、あなたの子どもを、どうしたいのですか。
相談を一読して、そこに子離れできない母親の姿を想像してしまいました(失礼!)。
『本人の好きなこと、得意なところを伸ばして…』は、家庭教育の大原則です。ひとつ
が伸びると、その相乗効果で、ほかの部分(科目)も伸びてきます。大切なことは、子ど
もに一芸をもたせること。「これだけは人には負けない」というのが、一芸です。その一芸
が子どもの心を支え、守ります。将来の職業につながることもあります。
また6年生という年齢からして、いよいよ自我の同一性の確立の時期に入ったと考えて
ください。「自分はこうあるべきだ」という自己概念と、現実の自分を一致させる時期です。
その構築に失敗すると、心は無防備状態になり、精神的に軟弱な子どもになってしまいま
す。非行にも走りやすくなります。
また「苦手な科目」というのは、「点数が低い科目」ということでしょうか。もしそうな
ら、その判断は、子どもに任せなさい。親があれこれ言っても、かえって逆効果です。
子どもというのは、親の夢を一つ一つつぶしながら、成長していくものです。それがわ
かなければ、あなた自身を振り返ってみることです。あなた自身は、優等生だったでしょ
うか。答は、「NO!」のはずです。
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司
●7月号相談(Q&A)
相談(1)小学4年生の母から
最近わが子の親に対する話し方が気になります。たとえば、私が何か「こうしなさい」
と注意すると、「そんな法律がどこにあるの?」などと言ってくるので、ついつい怒ってし
まうこともしばしば……。
これは反抗期なのでしょうか?
A:思春期最大のテーマは、「同一性の確立」(エリクソン)です。(私はこうでありたい)
という理想の自己像と、(現実の私)、つまり現実自己を、一致させようとします。一致し
た状態を「自我の同一性」と言います。その第一歩が、おとなの優位性の打破です。それ
が「思春期の反抗」と考えてください。
(悪態)もそのひとつ。「そんな法律がどこにあるの?」と。それを許せということでは
ありません。それができないほどまでに、子どもを抑えてはいけないということです。カ
リカリするのはしかたないとしても、「ああ、うちの子は、今、児童期から青年期へと、脱
皮を始めているのだ」と、一歩退いて子どもを見ます。
この時期、親意識(とくに「親に向かって何よ!」式の悪玉親意識)が強すぎると、子
どもは親の前では仮面をかぶるようになります。自我の確立に失敗し、非行に走ったり、
親子の間にキレツが入り、親子が断絶するケースも目立ちます。最悪のばあいには、自我
の崩壊……。ナヨナヨとした軟弱な人間になることもあります。
親には3つの役目があります。(1)ガイドとして子どもの前に立つ。(2)保護者とし
て子どものうしろに立つ。そして3番目が重要ですが、(3)友として子どもの横に立つ、
です。
悪玉親意識を捨て、子どもの友になるつもりで、子どもの横に立ってみてください。と
たん、肩の荷が軽くなりますよ。
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司
相談(2)小学4年生と小学1年生の母から
長男への接し方で悩んでいます。長男にはどうしても小言を言う機会が多く、下の子は
女の子で要領がよく、注意された長男をからかって、長男を怒らせます。それを見て私が
怒る……の悪循環で、ときどきそんな雰囲気で日々を過ごしている長男がかわいそうにな
ります。
長男への接し方を変えるアドバイスはないでしょうか。
A:長男、長女に対しては、どうしても不安先行型の子育てになりがちです。「何をしても、
不安」と。それが過干渉になったり、過関心に転じたりします。度を越すと、子どもの心
が萎縮したり、反対に粗放化することもあります。
あなただけではありません。ほとんどの親がそうです。が、そのリズムは、妊娠したと
きから始まっています。つまり「根」が深いということ。そういう思考回路が、あなたの
脳の中にできあがってしまっています。そのためそのリズムを変えるのは、ほぼ不可能と
考えてください。では、どうするか?
(1)そういう自分であると知って、仲よくつきあうこと。(2)「あなたはいい子」を
口癖にし、あなた自身の心を作り変えること。
長男の顔や姿を見たら、本人にはもちろん、父親や長女の前で、題目のようにその言葉
を繰り返してみてください。3~4か月もすると、(それでも早いほうですが……)、あな
たは自然な口調で、それが言えるようになります。そのとき、あなたが今、心配している
問題は解決します。
大切なことは、「子どもを直そう」と思わないこと。「今より状態を悪くしないこと」。そ
れだけを考えて対処します。この種の問題には、二番底、三番底があります。親は、自分
の子どもがより悪くなって、それ以前の状態が、まだよかったことを知ります。それが「悪
循環」と言われるものです。
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司
●5・6月号相談事例
相談(1)小学3年生の母から
小学3年生になると、友達関係でいろいろあるとは先生から聞いていたのですが、早速
わが子のカラーペンが一式なくなってしまい、とても心配しました。
悪意からではなく、いたずらかもしれませんが、こういうときは、ただ見守るしかない
のでしょうか? それとも、担任の先生に相談した方がいいのでしょうか?
(焼津市・A)
A:鉄則はただひとつ。『友を責めるな、行為を責めよ』(イギリスの教育格言)です。担任
の先生にこうした事案は、遠慮なく報告したらよいでしょう。しかしそのとき、事実だけ
を客観的に話し、特定の子どもの名前を出したり、批判したりしてはいけません。自分の
判断を加えていけません。「事実」だけを話します。あとの判断、対処の仕方はプロの先生
に任せます。
もし相手の子どもの名前がわかっていたら、逆にその子どもをほめてみます。「あの子は
いい子ね」と。あなたの家に招待するのもよいでしょう。あなたがその子どもと友だちに
なるつもりで、間に入ります。子どもというのは、自分を信じてくれる人の前では、よい
子を演じようとします。逆にそうした性質を利用して、その子どもを、よい友だちに作り
変えてしまいます。
日本でも昔から『魚心あれば、水心』といいますね。英語にも、『相手は、あなたの思う
ように、あなたのことを思う』というのがあります。心理学の世界では、これを「好意の
返報性」といいます。あなたがその子どもをよい子と思っていると、そうした心は、あな
たの子どもを介してかならず、相手の子どもに伝わります。
大切なことは、あなたの子どもが気持ちよく、楽しく通学することです。負けるところ
は負け、妥協するところは妥協します。けっしてカリカリしてはいけません。
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司