「もののあはれ」の物語

古き世のうたびとたちへ寄せる思いと折に触れての雑感です。

「卯花墻」に逢う

2008年11月24日 | みやびの世界
 華やかな琳派展を見た翌日、三井記念美術館で開催中の特別展“茶人のまなざし 森川如春庵の世界”に出かけました。



 今回の上京を決めたもう一つの目的でした。飛行機の時間は5時過ぎでしたから11時のチェックアウトまでホテルでゆっくりして、日本橋に向いました。いわば祭りの後の“鎮めの能“拝見のつもりでした。
 三井本館の中、重厚な静かな雰囲気の中で如春庵が出迎えてくれました。三月に図録を見て以来、自分の目で確かめてみたかった名碗と、佐竹本三十六歌仙切、紫式部日記絵詞といった所蔵品に期待がありました。
 会場は土曜日の昼でしたが人も少なく、ゆっくりと7つに分割された会場を巡ることができました。
 第一の収穫は、志野茶碗「「卯花墻」三井記念館所蔵に逢えたことでした。前から横からと眺めて、図録で見たよりも大きいというのが第一印象でした。
 たっぷりとして力強い姿形でした。
 「時雨」よりも1センチ小さい口径ですが、志野独特のやわらかな肌合いと、白の釉掛けの下にさりげなく引かれた二本の線が、大きく見せるのでしょうか。胴の削りも口辺の箆も嫌味がなく、自然です。日本で焼かれた無数の茶碗の中でこれが国宝であることを納得しました。
 期待の「乙御前」は、前日に大琳派展で見た同じ光悦の赤樂茶碗「峯雲」の連れのようで、手に持てば、「たまらぬものなり」と思えるかもしれませんが、ガラス越しの拝見では、「峯雲」の方が好みでした。
 同じく黒樂の光悦茶碗は、琳派展の「雨雲」とどちらか一つをといわれればこちらの「時雨」でした。気品高く、左右の曲線にかすかな差を見せるだけの装飾性を排除した清々しい一口でした。こんな茶碗で一服をいただいたら、どんなに波立つ気持ちも静まるだろうと想ったことでした。
 佐竹本の三十六歌仙切は、短い期間の特別展示で見ることはできませんでしたが、紫式部日記絵詞を見ることができました。如春庵が発見者である鎌倉時代のやまと絵は、源氏物語千年紀の今年を祝うかのように晴れやかに飾られていました。
 そのほか印象に残ったものに、道入作の黒樂茶碗「無我」、和歌短冊2枚。宗達が芍薬と木蓮を描いた下絵に光悦が和歌をしたためたものです。桃山時代の連歌の懐紙。藍色と紫の繊維を天地の雲形に漉き込んだ料紙が目を引きました。下の手あぶりは、七宝の釘隠しを火屋として銅で細工したもので、見立ての発想と形のよさはさすがのものを見る目でした。
 土曜日で孫娘も一緒に、娘と4人で会場を回れたのは幸せな時間でした。
 2泊3日の短い日程を充足して、豊かな気分で帰宅することができました。


流水蛇籠文七宝釘隠 手焙