クラスター爆弾:使用禁止条約づくり加速 NGO主導で(『毎日新聞』11月14日)
主権国家からなる社会(国際社会)から、多様な主体が参画する世界社会(あるいはグローバル・ガヴァナンス)への転換を象徴する事例として、非国家主体「対人地雷禁止キャンペーンICBL」が重要な役割を担った対人地雷禁止条約の形成過程(オタワプロセス)は、地雷のように非人道的な兵器の使用や製造を規制しようとする運動にとって、一つの雛形とみなされている。『毎日』が報じるように、クラスター爆弾の使用禁止条約策定にあたっても、オタワプロセスの経験に負うところが大きく、人道主義を基調とする「長い21世紀」の趨勢を反映する動きだといえる(たとえば、目加田説子『国境を超える市民ネットワーク――トランスナショナル・シビルソサエティ』東洋経済新報社, 2003年や、足立研幾『オタワプロセス――対人地雷禁止レジームの形成』有信堂高文社, 2004年が日本語で読める代表的な研究である)。
国際政治学的な関心から、このような動きを考えてみるならば、オタワプロセスの経験ないし教訓がほかの隣接領域において波及し、規範やレジーム形成を促すように作用する状況は、「ある特定領域における原理・規範・ルール・意思決定のセット」という定義に基づくレジーム観に対して修正を加える。つまりこれまでのレジームが「特定領域における」という文言から明らかなように限定的な閉じた系と理解され、レジーム内部の動きに焦点が定められていたとすれば、オタワプロセスの事例が示唆しているのは、ある規範やルールがほかの領域に波及していくレジーム横断的な(trans-regime)関係、そしてその動態力学を分析の射程に取り入れた視座の必要性となるだろう。
この問題意識は、レジーム論の後継者といえるグローバル・ガヴァナンス論と共通しているが、その包括性のため概念としての有用性に疑問符が付き纏うグローバル・ガヴァナンス論に辿り着く手前に、未開拓の研究資源が眠っていることに注意を向けることも含意している。つまり対人地雷にしても、クラスター爆弾にしても、軍事・安全保障という特定領域に属する点で、軍事・安全保障レジームの下位体系に位置づけられ、その分析に際しては、レジーム論の知見で十分に対応できる。他方で、特定領域に存在するレジームの重層的複合関係に関する視点や、レジーム形成のスピルオーバー効果とも形容できる現象を考察するためには、グローバル・ガヴァナンス論が問題化する既存のレジーム論の刷新が求められる。栗栖薫子の研究(「人間安全保障『規範』の形成とグローバル・ガヴァナンス――規範複合化の視点から」『国際政治』143号, 2005年) などは、こうした問題関心と重なり合うといえるし、彼女が指摘するように、このところ流行の規範サイクル論と批判的に架橋する試みもまた新たな研究領域を切り開くことに寄与すると思われる。
・追記(11月19日)
クラスター爆弾禁止条約へ国際会議 ノルウェー呼びかけ(『朝日新聞』11月18日)
オタワプロセスでカナダ政府が担った役割は、クラスター爆弾ではノルウェー政府に受け継がれる。
主権国家からなる社会(国際社会)から、多様な主体が参画する世界社会(あるいはグローバル・ガヴァナンス)への転換を象徴する事例として、非国家主体「対人地雷禁止キャンペーンICBL」が重要な役割を担った対人地雷禁止条約の形成過程(オタワプロセス)は、地雷のように非人道的な兵器の使用や製造を規制しようとする運動にとって、一つの雛形とみなされている。『毎日』が報じるように、クラスター爆弾の使用禁止条約策定にあたっても、オタワプロセスの経験に負うところが大きく、人道主義を基調とする「長い21世紀」の趨勢を反映する動きだといえる(たとえば、目加田説子『国境を超える市民ネットワーク――トランスナショナル・シビルソサエティ』東洋経済新報社, 2003年や、足立研幾『オタワプロセス――対人地雷禁止レジームの形成』有信堂高文社, 2004年が日本語で読める代表的な研究である)。
国際政治学的な関心から、このような動きを考えてみるならば、オタワプロセスの経験ないし教訓がほかの隣接領域において波及し、規範やレジーム形成を促すように作用する状況は、「ある特定領域における原理・規範・ルール・意思決定のセット」という定義に基づくレジーム観に対して修正を加える。つまりこれまでのレジームが「特定領域における」という文言から明らかなように限定的な閉じた系と理解され、レジーム内部の動きに焦点が定められていたとすれば、オタワプロセスの事例が示唆しているのは、ある規範やルールがほかの領域に波及していくレジーム横断的な(trans-regime)関係、そしてその動態力学を分析の射程に取り入れた視座の必要性となるだろう。
この問題意識は、レジーム論の後継者といえるグローバル・ガヴァナンス論と共通しているが、その包括性のため概念としての有用性に疑問符が付き纏うグローバル・ガヴァナンス論に辿り着く手前に、未開拓の研究資源が眠っていることに注意を向けることも含意している。つまり対人地雷にしても、クラスター爆弾にしても、軍事・安全保障という特定領域に属する点で、軍事・安全保障レジームの下位体系に位置づけられ、その分析に際しては、レジーム論の知見で十分に対応できる。他方で、特定領域に存在するレジームの重層的複合関係に関する視点や、レジーム形成のスピルオーバー効果とも形容できる現象を考察するためには、グローバル・ガヴァナンス論が問題化する既存のレジーム論の刷新が求められる。栗栖薫子の研究(「人間安全保障『規範』の形成とグローバル・ガヴァナンス――規範複合化の視点から」『国際政治』143号, 2005年) などは、こうした問題関心と重なり合うといえるし、彼女が指摘するように、このところ流行の規範サイクル論と批判的に架橋する試みもまた新たな研究領域を切り開くことに寄与すると思われる。
・追記(11月19日)
クラスター爆弾禁止条約へ国際会議 ノルウェー呼びかけ(『朝日新聞』11月18日)
オタワプロセスでカナダ政府が担った役割は、クラスター爆弾ではノルウェー政府に受け継がれる。
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