ガラパゴス通信リターンズ

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バルタン星人(ウルトラマンの結婚式には出るのかにゃ?・声に出して読みたい傑作選26)

2007-05-15 08:17:56 | Weblog
 6年前の秋。ぼくは神奈川県内の大学病院の無菌室にいた。白血病治療のためである。この年の春。鹿児島から東京の大学にかわってすぐぼくは白血病(骨髄異形成症候群)の告知を受けた。幸い兄とHLA(白血球の型)が一致。骨髄移植を受けることになった。9月のなかばに入院。30数種類の検査を受けた後9月の末に無菌室に入った。致死量をはるかに超える抗癌剤の投与と放射線の照射とで、ぼくは文字通り半死半生の状態に陥っていた。

 伊奈正人さんの『サブカルチャーの社会学』(世界思想社)が届いたのはそんな時だった。ミード、ヴェブレン、ミルズ。若者文化への関心と、地方の大学に10年以上勤務したこと。大学院生時代からの仲間である伊奈さんとは共通点が多い。無菌室のなかでさっそく読んだ。仲間がよい仕事をしているのをみるのはとても励みになる。ぼくも元気がわいてきた。

 読み終わって礼状をすぐに書くことにした。ところが手元にはウルトラマンとポケモンとディズニーのはがきしかない。子どもに手紙を書くことしか頭になかったのである。まあいい。ぼくはバルタン星人のはがきにお礼を書き始めた。ところが抗癌剤の影響で手が震えてどうしようもない。ただでさえヘタな字がとんでもないことになってしまった。どうにかこうにか礼状を書き上げた。はがきに余白が多いのが気になったのでバルタン星人の横に「しゅわっち」と書き足した。ぼくは礼状の出来栄えに深い満足を覚えたのである。

 興が乗ったので学部長にもはがきを書くことにした。いまの大学に呼んでくれた偉い先生である。「せっかくお呼びいただきながら着任早々このようなことになりまことに申し訳ございません。復帰した暁には…」。字は読めたものではないが格調高い大人の文章だ。これにもぼくは満足した。やはり余白が気になった。今度はゼニガメのはがきである。ぼくは「ぴかちゅう」と書き添えた。何故だかこちらのはがきが投函されることはなかった。