愛煙家の多事総論

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項羽と劉邦と中国人

2006-09-07 16:43:20 | 国際情勢
自分の愛読書、つきに一回は読み直す小説、司馬遼太郎著「項羽と劉邦」が、このほど小説の舞台である中国で発刊。

中国で「項羽と劉邦」出版-司馬遼太郎氏の歴史小説

【北京7日共同】日本の著名作家、故司馬遼太郎氏の代表作の1つである「項羽と劉邦」が7日までに中国の南海出版社から初めて出版された。中国では、村上春樹氏の現代小説などがベストセラーとなっているが、日本人が書いた中国歴史小説の翻訳は珍しい。

中国の有名作家、熊召政氏は中国紙、東方早報に対し「司馬遼太郎氏の中国史への研究(の深さ)は驚くべきもの」と称賛。「口語で物語る方式で項羽と劉邦の死闘を描き、普通の小説とは違った独特の心地よい読後感がある」と評価した。

「項羽と劉邦」は秦(紀元前221-同206年)の滅亡後、覇権を争った2人の武将を描いた英雄劇。

司馬氏は1994年、台湾の李登輝総統(当時)と対談。李氏が「台湾人として生まれ(ながら)台湾のために何もできない悲哀があった」と発言したことから、「1つの中国」原則を掲げる中国政府の強い反発を招いたことがある。

「項羽と劉邦」は趙徳遠訳。上下巻で小売価格は49・8元(約730円)。



元来、中国での劉邦の位置づけは高い。
武力で天下統一を成し遂げようとした項羽に対し、徳でもって味方を増やし最後の最後で逆転勝ちした劉邦。
尊王賎覇の思想が脈々と受け継がれている中国人間では、まさに劉邦は「王道」の体現者・・・そんな風に思われている。

昔、中国の河南省の小さな都市で旅劇団による史劇を見たことがあるが、劉邦は見目麗しい美丈夫なのに対し、項羽は豚面のお面を被らされていた。
また、三国志時代の史劇でも、曹操は豚面なのに対し、劉備はこれまた見目麗しい美丈夫、となっている。考えてみれば、蜀の武将、趙雲や張飛、諸葛亮が一部地域では神と崇められ、関羽に至ってはほとんどの中国人民に慕われて、完全に神格化しているのに対し、実際に天下を平定した魏の武将にはそういった逸話があまりない。

こういった事例に見られるように、中国人の「尊王賎覇」思想は、骨髄に染み渡っているかのようだ。

そして、そんな国で発刊される「項羽と劉邦」。

項羽と劉邦で描かれる項羽は、堂々たる偉丈夫であり、勇猛果敢な戦将であり、涙もろく、部下に畏怖される人間として描かれている。
対して劉邦は、うだつの上がらない中年親父であり、働きもせず、やることなすこと失敗ばかりで、飯に汚く女にだらしなく、学殖なんてものは毛ほどもなく、思い通りに行かなければ部下を怒鳴り散らし、100戦100敗し、ろくに剣の振り方も知らず、儒者の冠に小便を掛け、平気で部下を見捨てる人間として描かれている。ただ、劉邦は地球上の生き物とは思えないほど度量海闊で、他者の意見の良し悪しだけが分かる脳みそを持っている、とされている。

中国人の美意識からすれば、劉邦なんぞは虫けらに等しいような酷い描かれ方である(ちなみに、自分は劉邦が好きですが、「項羽と劉邦」の劉邦像をまとめるとどうしてもああなってしまうのです・・・)。

そんな「項羽と劉邦」。中国でどんな反応を受けるのかがとても楽しみだ。


ちなみに、中国人の友人に読ませてみたところ

「こんなに面白い中国の時代小説は、本土でも詠んだことがない」

と大絶賛。


司馬遷に遼か及ばず・・・そういった意味を込めて作られた「司馬遼太郎」のペンネーム。その司馬遷の生まれた大地で、自分の本が発刊されると知ったら、泉下の司馬遼太郎は何を思うだろうか。



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