御年九十ニだか三だかになる祖母が遊びにきて、
「ときにあなた、私とひろしさん(半世紀ぐらいまえに死んだ、祖母の連れあい)が交わしたラブレターを読みたい?」
と聞く。
いつもながら、なんの前振りも脈絡もなく会話をおっぱじめるなあ、と思いつつ、
「そうだね、読ませてくれるんなら、読みたいね」
と答えると、
「引き出しに大切にしまってあるんだけど、四、五十通はあるかしらねえ。うふふ」
と、もじもじしている。「でも、引き出しの鍵をなくした」
おいおいおい!
「……じゃあ、読ませてもらいたいけど、読めないね」
「そうなのよ。私ももう三十年以上、読み返していない。なにしろ鍵を探しだせなくて」
じゃあなんで、「読みたい?」って話を振ったんだよ、ばあちゃん。
たぶんそのラブレター、引き出しのなかで原料(「こうぞ」とか?)に戻っちゃってるぞ、ばあちゃん。
「ときにあなた、私とひろしさん(半世紀ぐらいまえに死んだ、祖母の連れあい)が交わしたラブレターを読みたい?」
と聞く。
いつもながら、なんの前振りも脈絡もなく会話をおっぱじめるなあ、と思いつつ、
「そうだね、読ませてくれるんなら、読みたいね」
と答えると、
「引き出しに大切にしまってあるんだけど、四、五十通はあるかしらねえ。うふふ」
と、もじもじしている。「でも、引き出しの鍵をなくした」
おいおいおい!
「……じゃあ、読ませてもらいたいけど、読めないね」
「そうなのよ。私ももう三十年以上、読み返していない。なにしろ鍵を探しだせなくて」
じゃあなんで、「読みたい?」って話を振ったんだよ、ばあちゃん。
たぶんそのラブレター、引き出しのなかで原料(「こうぞ」とか?)に戻っちゃってるぞ、ばあちゃん。