日伊文化交流協会

イタリアに関する色々なこと(旅行、料理、語学、本、映画など)を書いています。ブログをお持ちでない方のコメントも大歓迎!

『ミラノ 朝のバールで』

2009年10月24日 05時22分26秒 | おすすめの本
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 今日はちょっと古い本ですが・・・

ずいぶん前に読んだ本で、がっちゃんの中で超おすすめ本に入るのに、既に日伊文化交流協会の会報誌LA SPIGAの書評に載せているし、話題になった本だから今更紹介するのも・・・
なんて思ってここに書くのを控えていたんですが、やっぱり自分が好きな本、良かったと思う本は、いつ出版されたかなど関係なしにご紹介しよう。って決めました。
一つはブログっていうのは、一種のアーカイブスになっているので、気になった人がいつでも見れるし、その意味でも、一人でも多くの人に読んで頂けるようにご紹介するという役目が果たせるかななんて思います。
それに、もうそろそろ文庫化されるかもしれませんしね。


■書籍名:ミラノ 朝のバールで
■作家名:宮本 映子
■出版社:文芸春秋
■価 格:1381円+税



≪LA SPIGA99号(平成20年7月20日発行)書評欄より転載≫

 冒頭の「人と出会うとき」と題された文の中に、著者が渡伊したきっかけや、恐らく誰もが陥るであろう、外国生活の中での孤独との戦い、そして家族との絆が凝縮され、そのあとも一気に読んでしまった。
 近年、これほど読後の清涼感に満ちた本も珍しい。とにかく、この本が広く読まれ、そしてこの著者が近い将来に、次の作品を発表することを切望する。一つ一つのエピソードが宝石のように輝き、良い意味で鳥肌が立つような、素晴らしい本であった。
 巷に溢れる海外紹介本の多くは、本来モノカキではない人が、「海外に住んでいる」と言うその1点でペンを取っている場合がある。確かにそこに書かれているのは、その国で暮らしていなければ解らない内容のものであり、また生活することでしか得られない知識や情報が詰まっている。しかし、それはターゲットを細分化した雑誌と同じで、いずれ外国に住むことを考えている人や、旅行を控えた人には、参考になる部分も多いだろう。しかし、一般の読者を巻き込んで感動を呼び込むまでには至らない。と言うより、当初からそのような目的はないのであるが、「読み物」ではなく、「書物」と言えるものに出会うことは、期待できない。
 本書を店頭で見つけたときも、宮本映子と言う名前に、思い当たる作品もなく、「ミラノ 朝のバールで」と言うタイトルからは、在伊邦人のありがちなエッセイだろうと予想していた。それだけに、思いがけず良書に出会ったときの喜びはひとしおである。
 正直、余りに心を揺り動かされてしまったせいで、冷静な書評が書けず、何度も再読を試みたが、ページを捲る度に、惚れ惚れするような言葉に出会い、付箋を貼り続けるうちに、本が付箋だらけになって、結局また一から読み直すということを繰り返した。
 例えばイタリア人の生活に欠かせないバールについて、「バールマンに何も言わなくても、自分の好みの飲み物がサービスされることは、甘やかされているみたいで、お客にとってはほんのりと心地よいものだ」(一部抜粋)
 なんと表現すればよいのだろう、全ての文章が上質のチョコレートのように、甘く、ほろ苦く、その口解けの中に余韻が残る。そんな感じだろうか。それは、程よい距離感が成せる業なのだろう。全てのエピソードに劇場で芝居を見ているかのような、突き放した視点を感じる。しかしその視線の中にはあたたかみと、哀愁。そして仄かなおかしみが宿り、人間愛に満ちている。
 とにかく、この本を手にとって欲しい。それが評者としての素直な望みである。


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なんだかエラソーな書評になっちゃってますけれど、いやこれがホントすっごくステキな本なんです。
きっと、この著者の方は普段の生活の中でも、言葉をとても大切になさる方なんだろうなぁ~って思います。
その意味ではいつか、この方がステキな翻訳本を出してくださらないかしら。って言う期待も・・・
イタリア文学を愛する人の中には、須賀敦子さんのファンもたくさんいらっしゃることでしょう。私も何冊も読み、それぞれに違った味わいを感じました。
ただ、私には須賀さんの文章は少し硬質すぎて、私のような不浄な者と言うのか、不心得者を撥ね付けるような、そういう感じ(あくまで印象ですよ)があるんですけれど、この宮本映子さんと言う方の文章は、須賀さん同様に、硬質で、透明感があって、美しい文体でありながら、まさにこの本の装丁にあるような、窓差し込む一筋の明かりのような暖かみを感じます。

また、これは須賀さんが亡くなったから言うのではなく、以前から思っていたのが、須賀敦子さんの文章にはいつも何か『死の陰』が寄り添っているようでその静けさが時に恐ろしく感じたものです。
宮本映子さんの文章は、同じ静けさの中にも、時に鳥の囀りが交じる。そんな感じでしょうか。
私みたいなディスコ級のやかましさを誇る人間にとっては、それでも静か過ぎて、ちょっと落ち着かなかったりもしますが、怖さは感じない。

なんだか喩えが悪いですね。

あぁもうちょっとマシなことを書こうと思って、今ちょっとパラパラとめくって読み始めたらもういけない。またもやあっという間に引きこまれてしましました。

今日は久々にオフなので、美味しいカップチーノをたっぷり作って、ゆっくりと読み直すことにします。

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18 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ご無沙汰しております (masa)
2009-10-24 07:04:05
あまりにも記事が沢山ありすぎて、どこからコメントしていいのか分からないくらいです。
って、そんだけ僕がブログから遠ざかっていただけですけれども。

「イタリアで生活していて何が良かったのか?」
帰国してからというもの、折りに触れては自問している事柄です。
僕もイタリアに行くまでは、いくつかの滞在記やブログなどを読みました。いろんな思いを膨らませて旅立ったわけですが、今にして思えば、バールで注文した飲み物に対して、そこまでの思いをはせることは無かったなぁと。紹介文の、そのたった一文だけでも筆者の思いが伝わってきました。
そう考えると、イタリアで過ごした時間が勿体無く感じてしまったり、或いは心の底に閉じ込められてしまっているのかも知れません。

なぁ~んて書くと病んでるように思われるかな?いえいえ、至って元気です(笑
本は買い始めると止まらなくなるので自重しているのですが、これは是非手にとってみたいと思いました。
返信する
今日はゆっくりお過ごしてください (Delfino)
2009-10-24 11:53:37
今日は帰りが遅いので今のうちにと思ってみたら、わ~い、新しい記事だぁ。

がっちゃんさんの書評が好きです、って告白から始まってしまいましたが、直接見たままじゃなくて、目以外の感性を使う表現が実にうまい。う~ん「うまい」っていうのはストライクな表現じゃなくて、「素晴らしい」「芸術性が出ていてステキ」っていう感じ。
がっちゃんさんが、詩を書かれたらステキなのを作りそうって思います。

あ、で本ですが私もこれ大好きです。以前ブログに書いたことがあるので、トラバさせてくださ~い。私の記事と比べたら、いかにがっちゃんさんのが素晴らしい書評か際立つと思います。がはは。
返信する
お返事(その1) (がっちゃん)
2009-10-24 13:59:07
☆masaさまへ☆
>「イタリアで生活していて何が良かったの
>か?」帰国してからというもの、折りに触れ
>ては自問している事柄です。

え? え?
ちょっと待って、masaさんって、私が知ってるあのmasaさん?(って会ってないけど)
つまり聞きたいのは、Al mercato in Italiaのブログのmasaさん?
確かに、ブログはずっと放置されいるので気になってましたけれど、帰国するなんて一言もかいてないじゃないですかーーーーーーーーっ。
まぁ別に宣言する必要なけれど。

でもえっと、まだすごく混乱してるんですけれど、つまり今はもう日本にいらっしゃって、それは一時帰国じゃなくて、もうイタリアにはいらっしゃらないということなんでしょうか。
なんか質問ばっかりですね。メールにすればよかった。
なんかオタオタしております。

>僕もイタリアに行くまでは、いくつかの滞在
>記やブログなどを読みました。いろんな思い
>を膨らませて旅立ったわけですが、今にして
>思えば、バールで注文した飲み物に対して、
>そこまでの思いをはせることは無かったなぁ
>と。

そうですね。その土地でどう過ごすかは人によりますし、自分が行ったことのある土地なのに、そこでは訪れなかった場所について、すごく詳しくまた、ステキなところだと紹介されていたりすると、私は一体何をしてたんだろう。ってちょっと後悔することもあるんですけれど、逆に自分だけが行ったっていうと変ですが、自分なりのときの過ごし方と言うのもあるので、masaさんが過ごした時は、それは又別の密度で、別の味なんだと思います。

私の場合は、最初の頃、恋焦がれていたイタリアとはずいぶん色あせてしまいましたが、今はもうなんだろう、「腐れ縁に近い長年の愛人」って気分です。
なので、たいていのことは許せるし、魅力を感じる部分も若い頃とは違うって感じですが、それでもこの著者のような感性を持っていたら、きっとイタリアに対して、もっと別な見方が出来るんじゃないかと羨ましく思います。

>本は買い始めると止まらなくなるので自重し
>ているのですが、これは是非手にとってみた
>いと思いました。

masaさんは何でも読む派ですか?
私は読み終わった本はすぐさまブックオフに持っていくか、これは面白いと思った本は人に送る(その人にも読んでほしいから)ってことで本を送りつけることに喜びを見出す本フェチなんですが、何でも読む派なら送りますよぉーーー
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お返事(その2) (がっちゃん)
2009-10-24 14:56:43
☆Delfinoさまへ☆
>今日は帰りが遅いので今のうちにと思ってみ
>たら、わ~い、新しい記事だぁ。

いやね、年々仕事の後の体力の回復が遅くなっています。このところのフィットネスの影響下、もう腰が痛くて立てない。ってほどの辛い思いはせずに済んだんですけれど、やっぱりね、結構堪えます。
でも、今回の展示会は売上げがよかったので、気分的にはすごくいいって感じです。

>がっちゃんさんの書評が好きです、って告白
>から始まってしまいましたが、直接見たまま
>じゃなくて、目以外の感性を使う表現が実に
>うまい。

それがね、今自分で笑っちゃったんですが、Delfinoさんが送ってくださったトラックバック見たら、私すでにコメントしてました。その記事に、それに本文に書いている内容もDelfinoさんのそっくりそのまんま・・・
なんかパクリみたいでしたね。スイマセン。

あと、この本に漂う、須賀敦子さん的なカホリについてとか、ある意味、Delfinoさんと私って、似た感性なのかも。
ちょうど2周年記念の記事に書いてくださったコメントのお返事にも同じようなこと書いたんですが、いやもう、ちょっと自分でもびっくりしました。

あと実は先週既に書いていて、まだアップしていない、イタリア人の働きぶりについての記事も、先日送ってくださった、「イタリア人はよく働くか」って言うトラックバックと、視点がすごく似てるんですよ。

なんとなくね、文章の書き方とかも、「いたりあ~なへの道」のさばぇさんと、Delfinoさんには共通するものを感じていて、どちらも尊敬しているブログなんですが、私も同じような視点を一部持つものの、お2人ほど男前にはなりきれず、どっか甘えがあるんですよ。その意味でも、Delfinoさんを見習って、もう少し物事を掘り下げて見れるようになりたいと思います。

それはこの著者も同じで、一度ものすごく深い谷を除いたことのある人。または洞窟の中を潜り抜けてきた人。って感じがします。
陽光が降り注ぐ真っ直ぐな道を歩いてきた人には見えないものが見えている。かといって、それを得意がるわけでもなく、卑屈になるでもなく、静かにゆっくりと時を過ごす。自分には出来ない生き方ですが、羨ましいです。
Delfinoさんのおっしゃる通り、この方のブログがあれば是非読んでみたいですね。
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Unknown (caianina)
2009-10-25 16:51:26
こういうところで紹介してくれるとありがたいですよ!!おもしろいなら是非よんでみようという気になります!!
前に紹介してくれた映画も、映画館は無理なので、DVDが出たら早速借りてみる予定ですよ~!!
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Unknown (MAU@)
2009-10-25 20:36:47
遅ればせながら、
二周年おめでとうございます~。
私ももうすぐ一周年なので、同じような季節に始めたんですね~。
一年も続けられてるのが不思議です。
確かにブロ友って会ったことない人ばかりだし、
これからも会わずに終わる人も多いでしょうから、
はかない付き合いかもしれませんが、「ブロ友というジャンルの友達」というのも
また面白いものです。いつも皆さんに楽しませていただいてます。

須賀敦子さん、確かに死の影が付きまとった文章ですよね~。
しょっちゅう周りで、人が死ぬ人だなぁ・・・と(笑)。
彼女の文章は、普通に読んでて、ある一文にくると、
ブワって涙が湧いてくるんですよ。
読み捨てでOKな本が多い昨今、時々読みか返したいと思う作家の一人ですね~。
返信する
再び・・・ (Delfino)
2009-10-25 22:15:22
コメントさせてくださ~い、ウレシかったから。

謝らないで~!いいじゃないですか、同じようなこと書いてても。私もね、笑っちゃった。この本のコメント書いたなーと思って、トラバの前に自分の記事を読んだら「あらま(笑)」みたいな。
でも、表現が違うし(ってか、がっちゃんさんのほうが美しいし)同じ感想を持ったっていーじゃありませんか。私はむしろ光栄です。

私ね、男前じゃなくて男なんですよ~。子供の頃から男って言われてましたし。つけるもの置いて生まれちゃったみたいです。
私とがっちゃんさんの大きな違いは、がっちゃんさんは、読者をひきつける文章を書くこと。私は、全部知ってほしいと思っちゃって、文章が長くなってしまう。
ちなみに私も本の中で惹かれる表現があると付箋つける人です(笑)
ということで、これからも宜しくお願いします!
返信する
お返事(その3) (がっちゃん)
2009-10-26 01:06:36
☆caianinaさまへ☆
この本はね、絶対caianinaさんも気に入ると思います。あっちゃんのために選ぶ絵本の種類とかを見ていて、なんとなくの読書傾向っていうと変ですが、やっぱり好みがある程度わかるような気がするんです。

安易に「癒し」とかそういう風な表現を使いたくないし、もともと私自身人に何か癒しを求めたりはしないんですけれど、今世の中に溢れる本の多くは、

  苦労話や不幸な話をダラダラと綴って、
  それでもケナゲに生きてます。

っていうのがベストセラーに入ってたりするんですね。
でも私はそういうのはどうも生理的に受け付けない。
一方で、人に言えないような苦労を乗り越えた末に今の自分があることを幸福に思う人の文章はやはり非常に深いのだと思います。
その意味で、この本は、私にとっての手放したくない本の一冊です。
返信する
お返事(その4) (がっちゃん)
2009-10-26 01:15:03
☆MAU@さまへ☆
>二周年おめでとうございます~。
>私ももうすぐ一周年なので、同じような季節
>に始めたんですね~。

ありがとうございますーーーー
MAU@ちゃんの一周年には、祝砲でもドカンドカン撃ちますことよぉーーーー

>確かにブロ友って会ったことない人ばかりだ
>し、これからも会わずに終わる人も多いでし
>ょうから、はかない付き合いかもしれません
>が、「ブロ友というジャンルの友達」という
>のもまた面白いものです。

そう、ホント。こういうジャンルもありかな。って思います。
普通友達が出来るときって、同じ学校、同じ職場、とにかくどこかで顔を合わせる必要があるので、どうしても、極端に遠距離の人とは難しい一面があるんですね。
例えばイタリア人の友達でも、きっかけは、その彼女が日本に来たときに知りあって。とか先に顔を見てるわけですよ。
だけどブログになると、どこに住んでいるかっていうのは二の次になるわけで、それが面白いなと思います。
確かにある程度趣味嗜好が合う人が集うので、そういう意味では似た考えの人かもしれませんが、そこに住んでいる場所、年齢、性別が関係ないと言うのはなかなか他ではありえない出会いの一つですね。

>須賀敦子さん、確かに死の影が付きまとった
>文章ですよね~。
>しょっちゅう周りで、人が死ぬ人だな
>ぁ・・・と(笑)。

そうそう、なんだろう幸薄い人っていうとなんだけれど、こういう人っているんだなぁ~。
って思いましたよ。


>彼女の文章は、普通に読んでて、ある一文に
>くると、ブワって涙が湧いてくるんですよ。
>読み捨てでOKな本が多い昨今、時々読みか返
>したいと思う作家の一人ですね~。

それなら、この本は超オススメですよ。
私もね、今もう本を手元に置かない。ってことを信条にしていて、またどうしても読みたくなったらその時に買いなおすようにしても、家の中で場所を取ることを考えたら安いもの。
ぐらいの気持ちでね、とにかく読んだらすぐさま誰かに送ったり、ブックオフに持って言ったりしてるんですが、この本は手放したくない。ってホント思います。
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お返事(その5) (がっちゃん)
2009-10-26 01:20:36
☆Delfinoさまへ☆
再コメント嬉しいです。私もMAU@さんのブログとかにはよく2回コメ入れたりするんですけれどね。チャット形式ウエルカムっす。

>私ね、男前じゃなくて男なんですよ~。子供
>の頃から男って言われてましたし。つけるも
>の置いて生まれちゃったみたいです。

そっかーーーー。
その意味では私は真逆です。
一見サバサバしているようだし、まぁ何かを決めるときはチャチャチャと決めるし、それが男らしいとか、女らしいっていうことじゃないのかもしれませんけれどね。
だけど、実際にはウジウジするんだなぁ~
っていうか、自分のやったことに後悔をよくします。決めるまでは早いんですがね。
でも、お互いあんまり一緒だと、逆にぶつかるかもしれなくて、この違いが、お互い面白いと思えるのかもしれません。
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