残照日記

晩節を孤芳に生きる。

アジア大会雑想

2010-11-29 08:41:13 | 日記

▼細井平洲が上杉鷹山公に申し上げて曰く、<人を育てる上で心得べきは、菊好きの者が菊作りするようなやり方をしてはならないということです。寧ろ百姓が菜大根を作るようにすべきなのでざいます。というのは、菊作りというものは、花や形が見事に揃うように多くの枝や蕾をもぎ取ったり、伸びすぎたところを切り揃えたりして、自分の好み通りに仕立てます。従って、不出来の花は花壇に一本も残りません。百姓の菜大根作りはそれと異なります。一畑の中には出来不出来、大小不揃いも生じますが、一本一株をも大切にしてそれぞれを大事に育てます。要は食用に立つようにと、育てることが大切なのでございます>と。(「嚶鳴館遺草」)

∇アジア大会が終わった。今大会は五輪を上回る史上最多の42競技476種目が実施され、45カ国・地域から約9700選手が参加したそうだ。金メダル獲得数で断然1位だったのが中国で、これまでで最多の199個を獲得した。2位が韓国で76個、3位の日本は目標の60個を下回る48個にとどまった。他国を圧倒した中国選手団の段世傑団長は、<「多くの金メダルを取ったといっても、その大部分は五輪の金レベルに達していない」と冷静に分析し、「ロンドン五輪に向けて全力で取り組む。我々はいささかも怠ることは出来ない」と、継続的な強化と、さらなる躍進を宣言した。>という。(11/27読売新聞)

∇金メダル数で2位の韓国は、前回の58個から76個へと伸ばし、総数でも232個と、日本の216個を上回った。財閥企業から豊富な資金援助を受けていることが特徴的だそうだ。(読売) 一方惨敗の日本。日程ミスで有力メンバーを送り込めなかったり、他国の情報を分析する戦略面でも後手に回った。市原団長は「戦略的な選手強化をしなければ、ロンドン五輪で好成績を収めることはできない」と語っている。<強化ポイントを探る上でも大事になる情報戦略から練り直さなければ、日本のスポーツは気づかぬうちに、世界やアジアから取り残される危険性もある。>(以上は11/26毎日新聞)

∇さて、09年の世界人口推計によれば、中国が約13億人、日本が1.3億人、韓国が0.5億人となっている。一方、国民生産性や豊かさを推し量る目安の一つである一人当たりGDP(名目USドル値)では、日本が39,740、韓国が17,074、中国は3,735である。GDP総額で世界第2位をほゞ手中にした経済大国中国ではあるが、一人当たりGDPは日本の10分の1、韓国の5分の1にも満たない。仮にこの数値を以て国民の満足度を比較すれば、金メダルが日本、銀が韓国、中国はメダル圏外に位置づけられるだろう。アジア大会で圧倒的強さを見せ付けたスポーツ大国中国は、今、富める者と貧しい者との経済格差が益々開いて、所謂“優勝劣敗”に対する格差解消問題に頭を痛めている。

∇メダル獲得者に多額の賞金を出したり、財閥が豊富な資金援助をしたりして、国際競技大会でメダルを競うことが一概に悪いとは思わない。或る意味では国威発揚の場にもなり、国民にとっても、自国の選手たちの活躍が励みになることもあるからである。しかし国民的価値はそこまでだ。大会が終われば興奮の渦は彼方に消え、現実の自分の生活の満足度如何が問われる。しかも世界大会は頻繁に行なわれ、アジア大会は勿論のこと、世界選手権やオリンピックでさえ特別価値を失いつゝある。メダル獲得数にこだわる必要はない。従ってメダル獲得のためのエリート教育に過分な資金を投じる必要はない。上掲の細井平洲の言葉を借用すれば、「菊作り」よりも、「菜大根作り」を重視する国家であるべきだ。国民にとってスポーツ大会は娯楽の一つに過ぎないのだから。