残照日記

晩節を孤芳に生きる。

独り言

2010-11-03 07:54:14 | 日記
○百日を 過ぎて寒空 初弦冴ゆ  楽翁

∇早朝ゴミ捨てに門を出たら、寒空にくっきりと三日月が浮かんでいた。家内が亡くなって既に百日。ふと昨年の今頃を思った。そういえば、第二回目処方の抗がん剤が効いて、「経過観察」の段階に入った幸せの一時期だった。日記をめくったら、<事無きを無事とこそいへ冬はじめ(11/3)>とある。静かな日々を取り戻し、年末を迎えた。そして翌年(今年)正月早々、「再発」を告げられ奈落の底に……。<憂きことも嬉しきことも時の間に移りかはるは世の中ぞかし>と古歌にある。しっかり者の家内が残してくれた「恒産」に感謝しつゝ、荷風の如く余生を暮らしていければよい。

∇<そもそも今日のごとき寒雨の日、鶏犬も屋外に出ることを好まざる時、終日ひとり炉辺に間座し、心のままに好める書を読むことを得るは、人生無上の幸福にあらずや。これ畢竟(ひっきょう)、家に恒産あるがためと思えば、予は年と共にいよいよ先考(亡父)の恩沢に感泣せざるを得ざるなり。・・・ 古来の道徳、文教、蕩然として地を払いたる今日の如き時勢にありては、功業学術ともに皆糞土の如し。人間もし暗然として草木の腐敗するが如く一生を終わることを得ば、かえって幸いなりというべきなり。>(永井荷風「断腸亭日乗」大正14年)