残照日記

晩節を孤芳に生きる。

言葉の軽さ

2010-11-18 08:32:38 | 日記
▼<子曰わく、古者(こしゃ)、言をこれ出(い)ださざるは、躬(み)の逮(およ)ばざるを恥じてなり。──孔子曰く、昔の人が言葉を軽々しく口にしなかったのは、実践がそれに追い付けないことを恥じたからだ、と。>(里仁第四)

▼<子貢曰わく、君子は一言以て知と為し、一言以て不知と為す。言は慎しまざるべからざるなり。──孔子の高弟の子貢が言うには、君子はただ一言で賢いともされるし、ただ一言で愚かともされる、言葉は慎重でなければならない、と。>(子張第十九)

∇柳田法相、地元広島での大臣就任祝いの会で曰く、<法相はいいですよ。(答弁は)二つだけ覚えておけばいい。「個別事案についてはお答えを差し控えます」「法と証拠に基づいて適切にやっている」と>。開いた口がふさがらない。与野党から国会軽視だ、辞任しろの声々。当然だろう。

∇就任以来の発言を振り返ると、閣僚の中でも言葉の軽さが目立つ、と、与党内で今後の彼の「失言」を警戒する向きが多いが、これは失言ではなく、本人の品格に帰する問題である。“言に恥じる”ことが、古来から君子たるものゝ戒慎恐懼する処であった。旧約聖書・箴言も口を守ることに最も多くの項目を割いている。漢字で「品格」の「品」は、口を三つ積重ねている。「言葉の軽率な人を見るが、彼よりもかえって愚かな者のほうに望みがある」(「箴言」)──

∇「詩経」に、周王朝の基礎を作った文王の徳を称えた詩がある。<文王は小心翼翼、天帝に仕え、天道に違わぬように身を修めて多福を願い求めた。故に四方の国々を無事治めることができた>と。“小心翼翼”は慎み深く細事まで注意するさまをいう。油断大敵、いつ何が起こるかわからない。だから<滅びるかもしれないぞ、滅びるかもしれないぞと言い聞かせて、行動を慎め>(「易」否卦)。<あすのことを誇ってはならない。一日のうちに何がおこるかを知ることができないからである。>(「箴言」)