残照日記

晩節を孤芳に生きる。

小国主義

2010-11-07 10:19:49 | 日記
∇かつて「スモール・イズ・ビューティフル」という言葉が流行した。昭和48年にE・F・シューマッハが同名の著書で警告した「人間中心への経済学」への移行を模索したものだった。最近中国がGDPで日本を抜いて2位になる云々などと、単に経済規模の拡大のみが喧伝されている。だが国民一人当たりGDPでみれば中国は104位、ロシアは論外だ。(07年世界銀行) その点、立憲君主国・ルクセンブルクは面積が僅か東京都の10分の1、人口50万人弱にして、一人当たりGDPは日本の約1.7倍もある断トツの世界ナンバーワン国だ。因みに上記データでは、ルクセンブルグ ノルウェー カタール アイスランド アイルランド デンマーク スイス スウェーデン アメリカ合衆国 オランダ が上位10傑である。日本は22位だ。

∇日頃新聞の片隅にしかその「出来事」が載らない“小国”が、「豊かさ」「住み易さ」等に関する面では、常時世界のトップランキングに名を連ねていることに注視したい。──明治4年(1871)、岩倉具視、大久保利通、木戸孝充等は新政府の使節団としてが米欧12カ国を回覧した。日本の今後を模索すべく欧米文明を実地に学んだその岩倉使節団の公式報告「米欧回覧実記」には、「小国主義」という選択肢も真剣に取り上げられていた。米英仏を廻ったあとベルギー、オランダ、スイス等を回覧した記事に「其の我に感触を与フルコト、反ッテ三大国ヨリ切ナルモノアルベシ」と言っている。(「米欧回覧実記」岩波文庫) 「日本は大国を目指す必要はない。小国に徹して、軍国主義・国家主義を排し、産業主義・自由主義を貫け、その為には何よりも先ず哲学的日本を建設すべし」と力説した石橋湛山のことを思い起こす。

∇湛山は、内政外交方針として、内は「大いなる道徳的国家を築くこと」を主張し、中国を含む世界から「尊敬される国家の建設」を提唱した。現在、尖閣諸島&北方領土問題は野党側の党利党略の材料や、TVワイドショー、新聞・週刊誌等マスメディアの格好の話題提供程度にしかなっていないのではないか。湛山曰く、<吾輩は切に我が国民に勧告する。卿(けい)らは宜しくまず哲学を持てよ、自己の立場に対する徹底的智見を立てよ、而してこの徹底的の智見を以て一切の問題に対するの覚悟をせよと。即ち言を換えてこれをいうならば、哲学的日本を建設せよというのである。哲学は最も徹底的に自己を明らかにする者である。何をおいてもまず自己を考える。而してその明瞭にせられたる自己から出発して、新しき日本を建設する、これ実に我が邦目下の急務であると思う。>(「石橋湛山評論集」岩波文庫版)